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バオバブ千年桜  作者: summer_afternoon
裏VR

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80/97

@サミュエルチャンネル



「よ。おかえり、ルツ。どーだった?」


サミュエルさんはルツの感想に興味津々。


「暗号資産って出てきました」


ルツは危険因子ワードを口にし、咄嗟に左の中指の付け根に左親指で触れる。

大丈夫。リング着けてなかった。よかった。


「オレは、無視できない存在だって考えてるからな」

「あと、サミュエルさんの好みのタイプが分かりました」


長身でスレンダーで知的。クールビューティー。ちょっと気が強い。


「はは。そこは体験者の好みが出るように改善する予定」

「私、成人男性向け部分は今ひとつ楽しめませんでした」


せっかくのセクサロイドとの盛り上がりシーンがカット。別に、期待してなかったけどねっ。


「そりゃそーだ。ルツは女の子だもんな。最後のバーの女を持ち帰らなかった」

「え、お持ち帰りするパターンあったんですか?!」

「そりゃそーだろ。成人男性向けなんだから。未成年でも15歳以上はVR体験が許されてる」

「特別にプライベートなことだから、映像なくなるんじゃ?」

「他人のプライベートは見られない。が、自分が体験するのはOK。じゃなかったら、成人用のVRなんて意味がない」


橋からマンハッタン眺めてる場合じゃなかったじゃん。せっかくの、男としてあんなこんなを味わう貴重な機会が。くっ。


「サミュエルさん」

「ん?」

「カリフォルニアって」

「おぅ」

「私のとき、たまたま出てきただけですか?」

「いや」

「必ず出てくるんですか?」

「会話がカリフォルニアに近づくようになってる」

「じゃ、タイプ別の円グラフは?」

「カリフォルニアが出てくると、円グラフが出る。ルツのときは、そっちから聞いてくれたレアなパターンだ」

「サミュエルさん、カリフォルニアに、何か秘密でもあるんですか?」

「どーなんだろな」

「カリフォルニアに何があったんですか?」


さらりと尋ねただけなのに、サミュエルさんは一瞬沈黙した。


「ルツ、遺伝子に規定があるって知ってるか?」

「はい」

「そうか。森羅は知らなかった」

「規定って、連邦が決めた、病気やアレルギーをなくしたり、顔や体型を綺麗にしたり、頭良くしたりするやつですよね?」

「そう、それ。ものすごい数の規定がある。その規定は恐らく3種類ある」


サミュエルさんは親指と人差し指と中指を立て、フレミングの左手の法則の形を作る。


「3種類ですか」

「一般的に知られているのは、ルツが言ったやつ。第1は人間であるための規定。第2がさっきの。もう1種類、第3の規定は連邦が隠してる」

「何隠してるんですか?」

「分からん。どうも能力差に繋がるらしい。だから連邦は公表しない」

「能力に差があるのは当たり前です。動物だから」

「みんな分かってる。でもな、遺伝子段階で能力差があることは言っちゃいけない暗黙のルールなんだ。その人の行動や人生を左右するから」

「そうなんですね」


自分だって、遺伝子的な限界を突きつけられたくない。ルツの場合、他の人より劣っていることは明らか。だからこその魔改造ルツ計画。


「オレは第3の規定を公表するべきだと思う」

「さっき、言っちゃいけないって」

「能力差はタブー。だがな、第3の規定があることは公表すべきだろ。知った上で、それでいいのかどうかは、連邦民が決めることだ」

「連邦政府のすることに意見って言えるんですか?」


一般人なのに。


「そーゆー一般人の意見を聞くのが政治家の仕事なんだが。政治家もどこまで第3の規定のことを知ってるのか。ほとんどのヤツは知らねーだろーな」

「都市伝説を作るのはどうですか?」

「都市伝説?」

「第3の規定があるってことをSNSで拡散するんです」

「ルツ、匿名はできない」

「連邦って窮屈ですね」

「自分の発信には責任を持つもんだろ」


21世紀の匿名性のあるSNSに慣れているルツは、奇妙に思えた。

本音言えなくない?


カリフォルニアは太古にコンピューター企業で栄えた場所。その流れから、31世紀現在、連邦中のインターネットの中枢となっている。データセンターは分散されて世界各地に存在するが、それらを統括している機関はカリフォルニアにある。


データセンターの研究所内にはリングが展示されている。そこには有名な科学者、政治家、スポーツ選手のリングがあり、自分のリングと同期させた案内AIにリクエストすると、特定の人が努力していた音声や有名な演説、勝利への決定的瞬間の音声を体感できる。


サミュエルさんが求めたものは、裏。

歴史の表舞台ではなく、連邦政府が問題視した部分だった。連邦からの抜邦者や、消去された人のリングを調べに行ったのだった。


「消去の人もですか?」

「そっちはなかった。多過ぎて展示できないらしい」

「!」


ルツの背中を冷たい汗が流れる。


「ま、問題は貴重。危険分子の遺伝子の情報はしっかり残っていて分析されてる。遺伝情報に特徴はないってさ。環境なんだな。ただ、環境だって整ってるはずだろ」


完璧な里親の元での成長、平等な社会、金銭トラブルは存在しない。


「怖いですね」

「抜邦者については、遺伝子の傾向が分かってる。ただ、それは連邦の中にごろごろいる。その部分の遺伝情報を押さえ込むと、社会的な発展が阻害されるんだとさ」

「VRに抜邦する人、出てましたね」

「実在した人間なんだ。抜邦してから武器で大儲けして、でかい屋敷に住んで奥さんを4人持った」

「なんだそれ」

「分かりやすい」

「なんだかなー」


発明が泣くし。


「肝心の酸素をなくす発明品は、屋外での使用が難しいってことで、兵器としてはそれほど売れなかった。抜邦までしたのに」

「改良しなかったんですね」

「抜邦してから、研究は止めたみたいだ」

「なのに大儲けしたんですか?」

「商才があったんだろな。別の兵器で儲けた」


VRで対峙した博士は、人に認められたいという思いが強かった。大部分はサミュエルさんの創作だろうが、研究をやめて金儲けという事実があるなら納得できる。

ごっつい俗物。



森羅に会いたい。

体感数年、森羅に会えなかった。ルツは、工具がある倉庫のような部屋に駆け込んだ。


「森羅!」

「うっす」


入り口のルツに背を向けたまま、森羅はプロトタイプのタイムマシンをばらばらにした物を眺めている。本当は、今すぐにでも、その背中に飛びつきたい。


「分解したの、綺麗に並べたんだ?」

「おう。すげーわ。ハオラン氏、天才」

「なんかさ、タイムマシンって、もっと大掛かりなイメージだったよ。粒子の加速器って何kmって大きさじゃん。癌治療のも10mとか20m。あんな感じで」

「それはオレらがいた21世紀で、ここじゃずっと小さい。ルツ、ハオラン氏から言われた文献、まだ全部読んでない?」

「うん。途中」


(むず)過ぎて、なかなか進まない。

それらの中に、粒子の加速器小型化についてのものがあるらしい。時空を歪めることに、その機能が使われているという。ルツは、タイムマシンの予約プログラムを作ったことで悦に入っていたが、真にタイムマシンを理解できていない。まだまだ道半ばどころか先は果てしない。


「サミュエルさんのVRどーだった?」

「成人男性向けってとこは、大したことなかった」

「なーんだ」

「サミュエルさんの好みが分かった」

「へー」

「長身でスレンダーで知的。クールビューティ。ちょっと気が強い」

「はは。ヒメさんじゃん。あ、スレンダーではないか」


コノハナサクヤヒメさんはちょっと違う。スレンダーというよりも、細マッチョで胸とお尻がセクシー。気は強いけれど、クールじゃない。大人気ない大人……じゃなくて、恋する少女の部分がある?


「最初の方は子供いる設定だった」

「そーいえばサミュエルさん、子供育てたいって言ってた。めっちゃ似合わん」

「だっけ?」


結構遊んでもらっているルツは、家にいる父サミュエルさんを簡単に想像できた。


「面倒見はいいのか。オレ、ナイロビ行ったとき、世話んなったからさ。でも、どっちかってーと、おじーちゃんなんだよな」

「w」

「ルツ、サミュエルさんが番組始めたの知ってる?」

「番組? 知らない」

「サミュエルチャンネル。VRがいっぱいある」

「ふーん」


さっきまで一緒に話していたのに。サミュエルさん、教えてくれればいいのに。


「サミュエルさん、有名なんだな。すっげーいっぱい視聴されてるし、VRも使われてる」

「ヒメさんもハオラン氏もVR体験やったって言ってたもんね」

「未成年のカリキュラムで使われてる」

「教育系YouTuberみたいな感じ?」

「じゃね? な」

「ん?」

「ルツ、規定って知ってる?」

「うん」

「オレ、知らんかった」

「調べた?」

「おう。なんか、サミュエルさんの顔が珍しくシリアスでさ」

「サミュエルさんから何か聞いた?」

「え、何? 知ってるかどーか聞かれただけ。ルツ、なんか聞いた?」

「森羅、VRやってみなよ。私、その後、ちょっと聞いただけ」

「ルツのやったVRはまだ思案中っつってた」


連邦政府が非公開にしていることに、どこまでどう切り込むかについてだろう、とルツは推測した。


「だよね。だって、まだ、女の人がサミュエルさんの好みだもん」

「ははは」

「男って、そんなにモテたい?」

「は?」

「んーっとね、それがVRの感想」

「モテるってこと?」

「ちょっとは」

「おおーっ」


森羅はだらしなく目を垂らし口元を綻ばせる。


「にやけるな」


モテたいのかよ。


「オレ、万象(ばんしょう)が羨ましかった」

「あからさまにモテてたよね。ファンクラブまであって」


双子でほとんど同じ外見なのに、森羅は全くモテなかった。

女って意外と見る目シビアなんだよね。


「友達に万象のマネすればモテるって言われた」

「せんでええ」


万象みたいにモテられたら、たまったもんじゃない。


「しねーし。できんって」

「あは。あ、森羅」

「ん?」

「VRするとき、ラスト、理性を出動させてね」




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