表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜が別荘買ったら週末が異世界でした  作者: vincent_madder


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第9話 本当に乗馬するなんて

土曜日の朝。


湖の光がカーテンの隙間から差し込んで、部屋の中をゆっくり白く染めていく。


カラン、と氷の音。

ウイスキーじゃなくて今日はアイスコーヒー。


少し大人になった気分だ。


別荘を買ってから、仕事の調子が明らかに変わった。


平日はやけに集中できるし、残業も減った。


週末を“楽しみにできる”ってだけで、人間ここまで違うのかって思う。


ソファに沈み込みながら、ぼんやり湖を眺める。


あの向こう岸から、泳いできた子がいると思うと、ちょっと笑える。


今日は──不動産屋のエルフ(のお姫様)。

確か、今日また来るんだった。


乗馬の練習をしてくれるらしい。

ピザのお礼くらいにしか考えてないんじゃない?


なんたって姫様だもんね。


「……ほんとに来るのかな」


なんたって姫様だもんね?

半信半疑でコーヒーを飲み干す。


そのタイミングで、チャイムが鳴った。


ピンポーン。


「うわ、来た」


慌てて立ち上がる。

玄関を開けると、外の光がまぶしくて目を細めた。


「こんにちわー!」


元気な声。

やっぱり彼女だった。


前回と違って今日は町娘モードじゃない。


動きやすそうな服装──ピッチリした黒いシャツに、ストレッチのきいたパンツ。


シルエットが、なんというか、めちゃくちゃ整ってる。


出るとこ出て、締まるとこ締まってる。


この人も着痩せするタイプだな……。


「おはようございます。準備できてます?」


「え、ええ、まぁ……」


言葉が裏返る。


彼女の後ろには、立派な白毛の馬がいた。

陽射しを浴びて毛並みがつやつや光ってる。


「え、あの、それ……」


「ウチにいる大人しい子を連れてきました」


ウチって、ウチ?


そうだ、彼女たちって向こうの世界の住人だった。


つまり、城とか厩舎とか、そういう“ウチ”。


「さぁ、触ってみてください」


おそるおそる手を伸ばす。

馬の鼻面があたたかい。

呼吸がふわっとかかって、手のひらが少し湿る。


「すご……。毛並み、きれいですね」


「ちゃんと朝シャンしましたから!」


「シャンプーするんですか!?」


「泡立ちはイマイチですけど、気分ですよ気分」


そんな会話が妙に自然で、思わず笑ってしまう。

この人たち、本当に異世界の住人なんだろうか。


「じゃあ、まず跨いでみましょうか」


「え、もう?」


「はい、乗るだけです」


促されるまま、彼女が手を差し出す。

指が細いのに、驚くほど力強い。


片足を鐙にかけて体を持ち上げると、世界が一段高くなった。


「おお……」


思わず声が漏れる。

見下ろす湖。風が頬を撫でていく。


ちょっとだけ、夢の中みたいな気分。


「うぉー、乗れた!」


「ふふっ、最初にしてはバランスいいですよ」


「マジですか。才能あります?」


「ありますあります」


即答。多分、半分は社交辞令。


彼女は手綱を取って、馬の鼻を軽く撫でる。


「じゃあ、このへんをゆっくり歩いてみましょう」


彼女が軽く合図を送ると、馬が静かに動き出す。

足元で草が擦れる音。


湖面に光の粒が跳ねて、遠くで鳥が鳴く。


世界の時間が少しだけゆるやかになる。


「気持ちいいですね」


「でしょう? 風が当たる感じが好きなんです」


「確かに。……でもこれ、落ちたら痛そう」


「大丈夫、私がいます」


さらっと言われて、心臓が一拍ずれた。


彼女はこっちを見ずに笑ってる。

馬の首筋を撫でながら、太陽に目を細めていた。


しばらく湖畔を回って、木陰で止まる。

汗が額ににじむ。


馬も鼻を鳴らして、のんびりしてる。


「どうでした?」


「最高でした」


「じゃあ、次はちょっと走ってみましょうか」


「えっ」


「次回の課題ですね」


彼女がいたずらっぽく笑う。


その笑顔に負けて、つい「了解です」と言ってしまった。


湖面のきらめきがまぶしい。


こうして誰かと笑いながら過ごす週末がある。

それだけで、世界がちょっと好きになれる気がした。


「次も……お願いします」


「はい、喜んで」


馬が鼻を鳴らして、風が通り抜けた。


その音が、まるで拍手みたいに聞こえたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ