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社畜が別荘買ったら週末が異世界でした  作者: vincent_madder


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8/11

第8話 散策がしたいよ

平日。


昼下がりの街は、オフィス街特有の熱気が立ちこめている。


アスファルトからの照り返しが目に痛い。


今日は珍しく外回りの日。

午前中に二件回って、あと一件寄ったら会社に戻って書類処理。


……の予定だった。


でも頭の中では、別荘の湖がずっとチラついてる。


湖面の反射とか、あの風の匂いとか。

今すぐハイボール作って足を伸ばしたい。


「はぁ、もう金曜にならないかな」


誰に言うでもなくつぶやく。

信号待ちの人混みに溶けて、すぐ消えた。


カバンの中のスマホが振動する。

営業メールの返信……戻ってからでいいやつだなコレ。


ホーム画面に映るのは、別荘の写真。

最近撮ったやつ。


湖のほとりに置いた折りたたみチェアと、半分沈む夕陽。


それだけでちょっと元気が出る。


この前、湖で泳いでたあの子のことをふと思い出す。


受付の子。

濡れた髪といたずらな笑顔。


あの後、「また泳ぎにきますね」って言ってたけど、本当に来るんだろうか。


ぼんやりそんなことを考えてたら、ふと思い立った。


──自転車、置けないかな。


別荘の周り、けっこう広いし、道も整ってるっぽい。


あれをサイクリングできたら最高だろう。

……たぶん。


でも、あそこ異世界なんだよな。

交通ルールとか、そもそも舗装って概念あるのか?


電話して聞いてみよ。

気になって、ついスマホを耳に当てた。


発信先:不動産屋。

姫様か、受付の子か、どっちが出るかな。


数コールで声がした。


「あっ、いつもお世話になってます!」


元気な声。姫様だ。


「あ、どうも。あの……ちょっと相談があって」


「はい、どうぞ!」


「別荘に自転車、置いてもいいですか?」


一瞬、沈黙。


「……自転車ですか?」


「はい」


「うーん……」


うーん、て。なんでそんな難しい声出してるんだ?


「やっぱり、難しいですかね」


「いえ、物理的には置けますけど……乗るんですか?」


「はい、まぁ……そのへんをサイクリングとか」


「サイクリング……」


電話の向こうで小声の相談みたいな声がした。


“舗装”とか“車輪”とか、“馬車でごまかせる?”とか聞こえる。


聞こえちゃってる。


「湖の周回路については、まだ整備ができていなくて……」


「なるほど」


「でも!」


彼女の声が一段高くなる。


「乗馬じゃダメですか?」


「……え?」



あまりに意外すぎて言葉が止まる。


「馬なら道ありますし! 湖の外周も回れます!」


「い、いや……馬、乗ったことないんですけど」


「大丈夫です! 今度の休みに練習しましょう!」


テンションが高い。めちゃくちゃ前向きだ。


「え、ちょ、いや、ちょっと待って」


「じゃあ土曜の午前、別荘で!」


「え、もう決まってる!?」


「楽しみにしてますね!」


プツン。


通話終了の表示。

まじかよ。

また勝手に予定が決まった。


信号が青になったことに気づいて慌てて歩き出す。


アスファルトの照り返しがさっきより強い。

頭の中で「馬」「別荘」「練習」という単語がぐるぐる回る。


……馬。

人生で一度も触れたことがない。


ていうか、別荘の庭で乗馬練習って成立するのか?


あの子、どんなスケールで物事考えてんだ。


「でも、まぁ……楽しそうではあるか」


口に出してみると、ちょっとだけ笑えてきた。


思えば、あの別荘を買ってからというもの、

金曜の夜が楽しみで仕方ない。


不動産屋の人たちも変わってるけど、嫌いじゃない。


「よし、週末、落馬しないように頑張ろ」


自分で言って笑った。


昼の喧騒の中で、ひとりだけ週末のことを考えてる。


それだけで少し勝ち組な気がした。

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