第7話 日光浴をしよう
昼下がりの湖は、まぶしいくらい静かだ。
風がない。波もない。
空気がぬるくて、まるで世界が昼寝してるみたいだった。
今日は何もしないって決めてた。
DIYも、釣りも、音楽もなし。
ただ椅子を出して、湖のほとりで太陽を浴びる。
足を砂に埋めて、冷たい湖水をちょっとだけ感じるくらいがちょうどいい。
うとうとしかけたときだった。
水面が、ぴちゃっと跳ねた音。
目を細めると、湖の真ん中あたりに何かが光った。
魚……じゃない。
人影?
……人だ。
頭の先まで水に潜ってたのが、ゆっくり上がってくる。
栗色の髪が陽を反射して、キラキラ光ってた。
そのまま浅瀬まで上がってくる。
見覚えのある顔。
不動産屋の――
いや、あのドアいじってた受付の子だ。
「……は?」
完全に声が出た。
彼女はにっこり笑って、軽く手を振る。
肩から水が滴って、肌が光ってる。
いや、ていうか――水着? 露出、すごくない?
布地の面積が、明らかに情報量不足。
視線の置き場を間違えると即アウトだ。
「どうされたんですか!?」
半分悲鳴みたいな声で立ち上がる。
「泳いでました」
さらっと言う。
「いや、見ればわかりますけど!」
「ちょっと暑かったので」
「そんなじゃない気温ですよ、今日!」
彼女は濡れた髪を指でかき上げながら、何でもない顔。
その仕草がまた危険。
肩の線とか、腰のくびれとか、いろいろ情報過多。
「どちらから来られたんですか……?」
動揺をごまかすように聞く。
「向こう岸から」
まじかよ。
あの距離、普通に泳いでこれるもんなの?
人間じゃないとはいえ、体力どうなってるんだ。
彼女は浅瀬に腰を下ろして、水を指ですくう。
光が跳ねて、手のひらに小さな虹ができてた。
ちょっと、絵になるんだよな。
でもこのままだと風邪ひく。
慌てて立ち上がって家の中へ。
玄関に引っかけてあったタオルと、パーカーを取って戻る。
「これ、よかったらどうぞ!」
差し出すと、彼女は目をぱちくりさせた。
「え……でも、濡れちゃいますよ?」
「僕が目のやり場に困るんだよ!」
反射的に言ってた。
言った瞬間、空気が止まる。
やばい、余計なことを……。
でも彼女はふっと笑った。
口角だけで、上品に。
「……ありがとうございます」
両手でパーカーを受け取って、頭からかぶる。
ぶかぶか。袖が完全に隠れて、顔だけちょこんと出てる。
「大きいですね」
「僕のですから」
「ふふ、温かい」
彼女がそう言って、胸元を軽く押さえる。
なんか、変な音した。僕の心臓。
「湖、気持ちいいですよ」
「いや、もうちょっと早く言ってくださいよ」
「今からでもどうです?」
「僕、泳げないんですよ」
「ええっ、もったいない」
本気で驚いてる。
その反応がなんか悔しくて、つい言い返す。
「じゃあ、今度教えてくださいよ」
「いいですよ」
即答か。
太陽が傾きはじめて、湖面がオレンジに光る。
風が少しだけ出て、パーカーの裾が揺れた。
湿った髪がその風に乗って、ふわっと匂いが流れる。
石鹸の匂い。たぶん、泡立ちのいいタイプのやつ。
彼女はパーカーの袖口をモジモジいじりながら、
「これ、返すのもったいないですね」って笑った。
「洗って返してくれればいいです」
「じゃあ、今度また泳ぎにきます」
「え、また?」
彼女は振り向いて、いたずらっぽく片目をつむった。
「次は、もっとちゃんとした水着で」
……いや、これ以上露出増やすつもり?どっち?
心臓がもうひと鳴りした。
夏がくる前に、僕が先に溶けそうだ。
※まったり進めていきます。
よかったら他作品も掲載してますです。




