第6話 出前を取ろう
日曜の昼。
湖の光が窓に反射して部屋の壁が白っぽい。
昨日の夜に飲んだハイボールのグラスが、まだテーブルに残ってる。
「今日は出前にしよ」
声に出すと、ちょっとだけテンションが上がる。
スマホを取り出して、ウーパーを開く。
ピザ、ピザ。
画面をスクロールしてると、もう匂いがしてきた気がする。
注文完了。
配達予定、三十分後。
それまでDIY進めるか。
昨日届いた吸音材を壁に仮貼りして、
ミキサーの位置を変えて、ケーブルをつなぐ。
スイッチを入れるとランプが点いて、ちょっとにやける。
「うん、いい感じ」
ひとりごとが増える。
グラスを片付けて、ハイボールの氷を新しく作る。ピザと一緒に飲むつもりで冷やしておく。
作業に夢中になりかけたところで、
コンコン、とドアがノックされた。
「お、早いな」
ピザ到着。
急いで玄関に向かう。
♢
玄関を開けると──
「……え?」
立っていたのは不動産屋のお姉さんだった。
ピザじゃない。
しかも今日はスーツじゃない。
なんていうか、町娘っぽいワンピース?
ふわっとした布地にレースが付いてて、
やたら似合ってるのが悔しい。
そして相変わらず耳が長い。
あれ、最初に会ったときより長くなってない?
「どうされたんですか?」
とりあえず聞いてみると、
お姉さんはさらっと言った。
「ピザ頼まれてましたよね」
手にはピザの箱。
……いやいやいや、待って。
「お持ちしました」
意味がわからない。
え、ウーパーってそういう仕組みだったっけ?
いや、そんなはずない。
たまたまだ。
きっと副業なんだろう。
そうに違いない。
「ありがとうございます……」
ピザを受け取る。
普通に熱い。
ちゃんと焼き立てっぽい匂いがする。
でもお姉さん、帰る気配がない。
玄関先でしばし沈黙。
ピザの箱から漂うチーズの匂いが、逆にプレッシャー。
「……どうしました?」
おそるおそる聞くと、お姉さんは少し恥ずかしそうに笑った。
「ピザ、食べたことなくて」
「あー……そうですよね」
あ、やっぱりそうか。
この人、姫様だった。
異世界の人だ。
いや、認めたくないけど、どう考えてもそうだ。
「……よろしければ、一緒にどうですか」
口が勝手に言ってた。
いや、断る理由もないし。
お姉さんの顔がパッと明るくなる。
一瞬で表情が華やぐの、ちょっとズルい。
「よろしいんですか!」
声がちょっと弾んでる。
こっちまでテンション上がる。
「じゃ、リビングどうぞ」
スリッパを出して案内する。
ピザと紙ナプキンとコーラ(とハイボール)をテーブルに並べた。
二人でテーブルを囲んで座る。
箱を開けると、チーズの匂いが部屋いっぱいに広がった。
「わあ……!」
お姉さんの目がきらきらしてる。
完全に初めて見る顔だ。
一切れ持ち上げると、チーズがびよーんと伸びる。お姉さんが目を丸くして見てるから、ちょっと得意げになる。
「こうやって折って、かぶりつくんですよ」
言いながら自分もガブッといく。
熱いけど、うまい。
チーズとトマトと塩気が、完璧。
お姉さんはおそるおそるかじる。
次の瞬間、ぱっと顔が明るくなる。
「おいしい!」
声が弾んでる。
笑顔がまぶしい。
なんか、デートみたいだなこれ。
一切れ、また一切れ。
お姉さんのペースが上がっていくのが面白い。
食べ終わると、満足そうに息をついた。
「また呼んでください」
そう言って立ち上がる。
玄関まで見送ると、振り返ってもう一度笑った。
ドアが閉まって、部屋が静かになる。
テーブルの上に残ったピザの箱を見て、
思わず笑ってしまった。
「……やっぱり異世界なんだろうな」
グラスを手に取って、ソファに沈む。
窓の外の湖が、きらきら光ってる。




