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社畜が別荘買ったら週末が異世界でした  作者: vincent_madder


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第10話 サシ飲みをしよう

今日は会社の飲み会だった。


うちの会社、基本ドライで「飲みニケーション」なんて文化ほとんどない。


だからこそ、たまに誘われると逆に断りづらい。


部署の先輩に押される形で参加。

乾杯、二次会、焼き鳥。


気づけば結構飲んでた。

終電の時間はとうに過ぎて、駅前の空気がやけに生ぬるい。


ふらふら歩きながら、頭が少しぐるぐるしてる。


足取りの先がどこに向かってるのか、自分でもよくわからない。


そのときだ。


「こんばんは」


低い、でも聞き覚えのある声。


顔を上げたら、見慣れたガタイが立ってた。


「……店長?」


スーツがパンパンに張ってる。

肩も腕も首も、全部ムキムキ。


相変わらず布地の限界に挑戦してる。


「奇遇ですね」


「奇遇ですね〜」


なんか気恥ずかしくて笑い合う。


店長は眉を少し動かして、言った。


「よかったら、一軒、いかがですか?」


あ、誘われた。

この流れ、断れるわけがない。


「いいですよ〜。明日祝日ですし、予定もないんで〜」


酒の勢いもあって、気づけば並んで歩いてた。


二人で入ったのは、駅からちょっと外れた場末の居酒屋。


暖簾がくたびれてて、テーブルの角が丸い。


「では、乾杯」


「おつかれさまでーす」


ジョッキを合わせる音がやけに響いた。

生ビールが喉に落ちていく。うまい。


店長がにこりともせずに、淡々と聞く。


「どうですか、別荘のほうは」


「サイコーですよ!もう週末が楽しみで楽しみで!」


自分でも笑ってしまうくらいテンション高い返事だった。


「それはよかった」


店長の口調は相変わらず丁寧。

だけど、どこか探るような間があった。


「姫様が、ご迷惑をおかけしていないですか」


その言葉に、ちょっと吹きそうになった。


「姫様って、もう隠さないんですね」


「さすがにもう……わかるじゃないですか」


あー、やっぱり認めた。

つい笑ってしまう。


「僕にとっては、不動産屋さんの女の子ですよ」


「姫様って考えたら、恐れ多くて」


店長はグラスを置いて、小さくため息をついた。


「……一番最初に言い出したのは姫様なのです」


「え?」


店長が真面目な顔になる。

照明が当たって、顔の影が濃くなった。


「ヌシを討伐して、ダンジョンが沈静化したあの湖の周りをですね」


「ダンジョンあったんかい!」


思わず声が出た。

隣の席の客が一瞬こっちを見たけど、気にしない。


店長は涼しい顔で続ける。


「風光明媚な別荘地にして、分譲しようと」


「いや、なんで異世界からわざわざ」


「我々の世界では、王族や貴族ぐらいしか別荘なんて持ちませんよ」


「で、別の世界で売ろうって?」


「ええ。“外貨獲得”です」


ああ、なるほど。

この前姫様が口にしてた言葉。あれ、本気だったんだ。


「でも、どうやって異世界からこっちに?」


店長は無言でジョッキを持ち上げ、一口飲む。

そして、きっぱり。


「頑張ったんです」


「……へ?」


店長は少し口元を上げた。


「ドワーフですから」


出たよ。

この人、それ言えば全部通ると思ってるな。


思わず笑いがこみ上げて、ジョッキを合わせる。


「じゃあ乾杯、異世界貿易の成功に!」


「乾杯」


グラスがぶつかって、泡がこぼれた。

アルコールの香りと一緒に、妙な現実感が抜けていく。


店長は少し肩を緩めて、ぽつり。


「ヌシの骨がまだ湖底にあります。ですから、時々……揺れますので。あの湖」


「……マジですか」


「マジです」


一瞬、笑うタイミングを失った。


でもすぐに、店長の真顔がいつもの冗談の裏に見えてきて、


つい吹き出した。


「いや〜、さすが異世界。不動産のスケールが違う」


「お客様にご満足いただければ、それで」


「そりゃもう。満足以上ですよ」


店長が満足そうにうなずく。

それを見て、なんか安心した。


気づけば終電なんてもう関係ない時間。

店の外に出ると、夜風が涼しかった。


別れ際、店長がぽつりと。


「姫様、ヌシ討伐のとき、実は……」


「え、何です?」


「いえ、また今度にしましょう」


そう言って、ニヤっと笑って去っていった。


街灯に照らされた背中が、やけにでかく見えた。


……ドワーフですから、か。


口の中で繰り返すと、なんか全部納得してしまうのが悔しい。


ま、いいか。


週末になったら、また湖の風を吸えばいい。


それが今の僕の、いちばんのリセット方法だ。

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