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デジャヴ視  作者: ケト
第1章 俊翔の能力
6/11

恥ずかしい

──1月18日 水曜日 8時02分

 

 朝のひんやりとした空気が身を縮こませ、心までも陰鬱にさせる。

 俊翔は寝ぼけ眼をこすり身体を丸めて歩く。

 別に夜更かししたわけでもないし、夜中に目を覚ましたわけでもない。

 睡眠時間も適切で、睡眠の深さも適切だ。


 だから何だと言うのだ。

 起きた瞬間から身体も心も100%の状態にならない、自身の体を恨む。

 子供の頃は朝から元気だったはずなのに、いつからか、朝は元気がないというのが普通になってしまった。

 俊翔の身体もいつの間にか大人の仲間入りしていたようだ。

 

 人間の身体はみんなそうだ。

 大人になったら朝は元気が出ない。そういう仕組みになっていることを俊翔は恨んだ。


「おっはよ~俊翔!」


 例外がここに居た。


「そうか芽唯。お前は人間じゃなかったんだな」


 芽唯は俊翔の言葉に、はてなマークを浮かべる。

 

 集合場所に着いたらすでに芽唯が居た。

 今日は寝坊しなかったようだ。


「今日はちゃんと起きれたんだな」


「あんなの昨日だけだってば。いつもはちゃんと来てるでしょ」


 芽唯はほとんど遅刻をしたことない。むしろ、今日のように俊翔よりも先に居ることの方が多い。


 ふたりの足は自然と学校へ行く道へと進む。

 

「なんでそんなに朝から元気なんだよ……」


「元気の方が良いでしょ?」


 それはそうだ。


 だが、その方が良いからといいう理由だけで行動できる人間はそうは居ない。

 芽唯と違って、俊翔はもちろん多数派だ。

 

 良くないこととは分かりつつ、身体も心も甘えて楽な方に逃げてしまう。

 だから芽唯のそういうところは、素直に凄いなと俊翔は感心している。


「ほら、もっと背中を伸ばして」


「無理だよ。昨日よりも寒いし」


 背中を丸めているせいで、もともと小柄な身体がさらに縮こまって見えた。


「じゃあ、走ろっか」 


「嫌だよ!」


 俊翔は心の底から叫ぶ。

 

「何で走ろうなんて言い出すんだよ」


「だって、走ったら身体が温かくなっていいかなって」 


 昨日、芽唯のせいで走らされたというのに、何で今日も走らないといけないのか。

 俊翔は全力で拒否する。


「じゃあ、早歩きは?」


「嫌だ。普通に歩くぞ」


「ちぇっ~」


 芽唯がわざとらしい舌打ちをする。


 その後は、雑談をしながら芽唯と登校した。

 今日は昨日とは違い、いつも通りに登校することが出来た。


 そのはずだ。


 いつもよりも速足だったのは、きっと気のせいだ。 

 いつもよりも足が疲れたのは、きっと気のせいだ。

 いつもよりも3分早かったのは、きっと気のせいだ。



──12時08分



 昼食の時間。

 4人は席を囲んでお弁当を食べていた。


「今日は遅刻しなかったんだな」


「2日連続で遅刻されたらたまったもんじゃないよ」


 デジャヴ視がスルーした昨日の遅刻。

 つまり、昨日ぐらいの大きさの出来事が今日起きてもおかしくない。


 真人の一言で、今日も遅刻する可能性があったことに気づかされた。


「芽唯ちゃんと岸君って、ずっと同じクラスだったの?」


 佐々木さんから質問が飛んでくる。

 俊翔は指を折りながら、昔のことを思い出す。


「ええと……小5、小6。中1は一緒で、中2は違って、中3が同じ。それで、高1と高2か」


 小5から高2までだから、7回中6回は同じクラスになっていた。

 こう振り返ってみると結構多い方なのかもしれない。


「小4も同じだよ」


 芽唯が補足する。


「小鳥さんって、たしか小4で転校してきたんだっけ?」


「うん。そうだよ」


 芽唯は小4の春か夏ぐらいに転校してきた。


 あの頃の芽唯は、登校班が同じなので一緒に登下校していたことは覚えているが、無口で大人しい少女だったということしか覚えていない。


(本当、今では想像つかないよなぁ)


 芽唯の顔を眺めながら俊翔は失礼なことを考える。


 俊翔と芽唯が仲良くなったのは、5年生になった時だ。俊翔の頭からは、4年生の頃の芽唯の記憶はほとんど抜けてしまっていた。

 それはあまり交流が無かったからというよりは、今の芽唯の性格が強すぎて記憶が上書きされてしまっていた。


 5年生の時から、次第に芽唯と話すようになって、芽唯の性格がだんだんと活発になっていった──気づけば、今の手のかかる明朗快活の元気溢れる少女となっていた。

 

「高校は3年間ずっと一緒か」


「高3ってクラス替えないからな」


「不思議だよね」


「理系は1クラスだけだからだよ」


 1年生の時に文理選択があり4人とも理系を選んだため、2年生でも同じクラスになった。

 3年生になっても、この4人が一緒なことは確定事項だ。


「綺麗にみんな理系を選んだよな」


 全員希望が一致していたのが幸いだった。


「私は英語から逃げたかったからね」


「芽唯よ。理系でも英語は使うぞ」


 むしろ理系の方が英語を使うと思うが。


 芽唯は英語が大の苦手だ。それが理由で理系を選んだのだが、どっちにしても英語があると知り最後まで文句を言っていた。


「でも、彩奈っちは文系に行くと思ったよ」


 佐々木さんは文芸部所属で本をよく読む印象がある──俊翔もそう思っていた。


「本は好きなんだけどね。数学の方が出来るから理系の方が良いかなって」


 頭が良いと、両方選べる状態なのか。

 最初から選択肢が決まってる俊翔たちや、最初から選択肢が無い芽唯とは大違いだった。 


「なるほど。国語が出来ない俺たちとは大違いだな」


「だな」


 真人は俊翔に頷く。


「私たち、"活字中毒"だもんね」


「芽唯よ。本当に理系を選んでいて良かったな」


「芽唯ちゃん。活字中毒は文字を読むのが好きだって意味だよ」


「え、そうなの? "毒"って文字が入ってるのに?」


 確かに、と一瞬騙されそうになってしまった。


「小鳥さんって、そこまでテストの点数は悪くないのにこういうところは抜けてるよね」


「あ……あはははっ」


 芽唯は慣れない笑い方をしてごまかすのだった。



──15時50分



 帰りのSHRが終わり、生徒たちが一斉に動き出す。 


「彩奈っち、じゃあ~ね~」


「うん。またね~」


 芽唯と佐々木さんが手を振り合う。


 今日は水曜日。なので、佐々木さんはこれから文芸部に向かう。

 俊翔たち3人は教室を出て玄関に向かう。


「あれ?」


「どうしたんだ?」

    

 芽唯の声に俊翔が反応する。


「そういえばさ~。彩奈っちって文芸部じゃん」


「そうだな」


「文芸部ってどこで活動してるんだろうね」


 ふと思いついたので聞いてみた、という感じだった。


「あんなに仲が良いのに知らないのかよ」


「文芸部の話はすることもあるんだけど、場所は知らないなって思って」

 

 女子同士ということもあり、3人の中では芽唯と一番仲が良かった。

 2人で居ることも多く、その時何の話をしているのかは俊翔はもちろん知らない。


「どこだっけ?」


「だから──」


 俊翔は言葉に詰まる。

 よくよく考えると、俊翔も文芸部がどこで活動しているのか知らないのだった。


「ぐ、グラウンドだよ」


「あ、そうだよね。グラウンドだよね……って、そんなわけないでしょ!」

 

 芽唯がノリツッコミをする。


「俊翔だって知らないじゃん!」


「うぐ……」


 俊翔は何も言い返せなかった。


「特別教室2だよ」


 すると、真人が助け船を出してくれた。


「「おぉー」」


 俊翔と芽唯から感嘆の声が上がる。


「いや、知ってて当然だろ……」


 何で2人は知らないんだよ、とでも言いたげだった。


「部活紹介で聞いただろ? 確か、文化祭の出し物にも書いてたし」


 確かにそんな気がしてきた。

 部活紹介は4月のことだから記憶が曖昧だが、文化祭は10月にあったからなんとなく覚えてる。


 まるで、遠い昔かのように文化祭の日を思い返す。


 玄関にある文芸部の出し物を、4人で見に行こうってなったんだよな。

 それで、佐々木さんは「恥ずかしいから嫌だ」って言ったけど、芽唯が無理矢理強行突破して見に行ったんだっけ。


「ああ~。彩奈っちが見せてくれたんだよね」


 約1名、記憶が塗り替えられているようだ。


「懐かしいな。確かこの辺りにあったんだよな」


 話しながら歩いていると、ちょうど玄関に着いたので俊翔はあの日の記憶を頼りに同じ場所に立ってみた。


 当然だが、文化祭の時とは物の配置が全く違うので、そこには何も無かった。


「おっ、あったあった」


 気づけば、真人が遠くに居た。奥の方で何かを探しているようだ。

 俊翔と芽唯は真人に近づく。


 そこには、文化祭の出し物で使われたボードが隅に並んで置かれていた。もちろん、俊翔たちが見た文芸部の出し物もそこにあった。

 本の紹介と自分で作った俳句だ。ボードに白い大きな模造紙が貼られており、色んな本の名前と俳句がずらりと並んでいた。


「彩奈っちみっけ」


 芽唯が佐々木さんの名前を見つけたようだ。

 オススメの本という題目で、自分の好きな本のタイトルとその簡単な内容が書かれていた。


「懐かしいな」


「おじいちゃんみたいなこと言うね」

 

 芽唯からツッコミが入る。

 たった数か月前に文化祭があったので、「懐かしい」という言葉が出たのは変なのかもしれない。


「ほら、ここに書いてる」


 真人が右の方を指差す。

 そこには、「文芸部 活動場所:特別教室2」と太文字でおっきく書かれていた。

 

 これを見逃したということは考えにくい。自分に関係のない情報だから、頭から簡単に滑り落ちたのだろう。


「じゃあ、帰ろっか」


「そうだな」


「だな」


 一通り見返すことが出来たので、芽唯の提案に一同が賛成する。


「2人は佐々木さんのオススメの本はもう読み終わったのか?」


 真人が俊翔と芽唯に尋ねる。


「じゃあ、帰ろっか」


「そうだな」


「おまえらなぁ……」


 何食わぬ顔で俊翔と芽唯は下駄箱へ向かって歩いた。



──



 校門を出た際にちらりと、腕時計で時間を確認する。

 16時01分。


 SHRが終わる時間が15時50分。いつもは校門を15時53分に出る。

 寄り道したので、いつもより少し遅いのは当然だ。


「クヒヒッ」

 

 何もないところで急に芽唯が笑い始めた。


「怖いな。いきなりどうしたんだよ……」


 俊翔は少し引き気味で話す。


「ゴメンゴメン。文化祭のことをちょっと思い出して」


 芽唯は頭の中で文化祭のことを思い返していたのだろう。


「私たちのクラス、お化け屋敷やったじゃん」


 高校の文化祭出し物ランキングがあれば堂々の1位を飾るだろう。

 俊翔たちのクラスも、定番中の定番であるお化け屋敷だった。


「面白かったよなあれ。段ボールで通路を作ったり、仕掛けを作ったり──」


 俊翔も頭の中から記憶を呼び起こす。

 

「あぁ……あれか」


 真人がにやりと笑みを浮かべる。

 俊翔にはその理由が分からなかった。


「俊翔がお化け役だったんだよね。それで『うわー!』って驚かした相手が別のクラスの人で、『何だ。岸か』って言われてスルーされて……クヒヒッ。あの時の俊翔面白かったな」


 芽唯の言葉により、封印されていた記憶が呼び覚まされた。

 恥ずかしい思い出だ。

 意気揚々と脅かそうと飛び出したら知っている相手で、白けた顔でそのまま立ち去っていった。

 その後、クラスメートからクスクスと必死に笑いを抑える声が聞こえてきた。


「何だよあの反応は! 知っている相手ならせめて1回驚いてくれたっていいだろ!」

 

 なぜか、今の今までそのことを忘れていた。

 恥ずかしいことなので、無意識に思い出さないようにしていたのだろう。


「いや~、俊翔としてはあの空気はキツかっただろうな。見てる分には面白かったけどな」


 真人がニヤニヤしながらポンと肩を叩く。


「顔赤いよ~俊翔」

 

 芽唯が小馬鹿にした顔で俊翔の顔を覗き込む。


「うっせぇ。早くしないと電車遅れるぞ」 


 俊翔は顔を隠して、ずんずんと前に進む。


「あれ? 俊翔、今何分だ?」 


「16時03分」


 俊翔が即座に答える。

 俊翔は文化祭の会話が終わったタイミングで腕時計で時間を確認していた。


「ありがとな。それだったらいつものに乗れるな」


 真人は16時11分発の電車に乗っている。

 校門から駅まではだいたい5分。16時06分ごろには駅に着くだろう。


「いい加減、腕時計着けろよな」


「ゴワゴワするから嫌いなんだよな」


「分かる~。ウネウネするから私も嫌い」


 オノマトペは全く違うが、2人とも腕時計が嫌いだと共感する。

 俊翔と佐々木さんが腕時計をする派で、芽唯と真人が腕時計をしない派だった。


「別にスマホで時間確認できるからいいだろ。腕時計してない人も結構いるし」


 クラスだと腕時計をつけているのは半分以下だ。

 社会人でもスマホの普及により腕時計をしない人が増えたと聞く。

 

「俊翔ってずっと腕時計してるよね」


「まぁな。小学校の時は校則でダメだったけど、中学生になってからはずっとだな」


 この愛用の腕時計も6年目を迎えようとしている。

 もしかしたら、そろそろ寿命が来るのかもしれない。


「俊翔がいると便利だよ。聞いたらすぐに時間を教えてくれるし」


「分かるな。スマホより先に、俊翔に聞くな」


 2人にとって俊翔が時間を常に把握しているというのは共通認識のようだ。恐らく、佐々木さんも同じように思っているだろう。


 それだけ俊翔は、常に腕時計で時間を確認していた。


──16時06分


 予想ぴったりの時間に到着した。


「じゃあな」


 今日は真人が1人で駅へ向かう。


「じゃあね。なかぐっち」


 真人に向かって手を振り返す。

 そして、2人は家へ向かって一緒に歩き始めた。


 くだらない話をして帰路についた。


──16時35分

 

 俊翔は自室の椅子に座っていた。


 普段ならこの時間はリビングで余暇の時間を楽しむのだが、今日はやることがあるので椅子に座っている。


 デジャヴ視だ。

 

 別にリビングでも外でも良いのだが、もしものことを考え、なるべく自室の椅子でデジャヴ視をするようにしている。

 たまに、リビングだったり学校だったり外だったり──暇になれば色んな場所でデジャヴ視をしていたのでこのルールはあってないようなものだ。

 

 デジャヴ視をしている最中に身体に入る意識、通称「バグの俊翔」が逸脱した行動をしたことは一度も無い。だが、自分の知らない所で行動している自分を他の人に見られる、というのはなんとも形容しがたい気持ち悪さがある。


 そのため、なるべくは自室の椅子でデジャヴ視するというルールを設けている。


 椅子に深く腰をかけて、愛用の腕時計を見る。

 16時36分。

 俊翔はデジャヴ視を使う前に必ず時間を確認している。自分が何分間未来に飛んだかを把握するためだ。

 だが、1分間という時間から外れたことは一度も無い。毎回、必ず1分後に意識がこの世界に戻ってきていた。


 これが腕時計を常に身に着けている理由の1つだ。

 そしてもう1つが最も重要な理由──デジャヴ視の最中に時間を確認するためだ。


 長年デジャヴ視を使ってきた結果、何かあった時に腕時計を見るという癖がついていた。

 それは癖というよりも本能的なものになっていた。


「じゃあ、そろそろ始めるか」


 俊翔は気持ちを落ち着け、心の準備をする。


 デジャヴ視を使う際に、「デジャヴ視発動!」なんてカッコよく叫んでいたこともあるが、それも昔の話だ。

 いわゆる厨二病的なものを発症していた時は、色々とイタい前台詞なんかを詠唱していたが、今ではただ心の中で念じるだけにしている。

 

 時刻は16時36分。


 俊翔は右手を左肩に置く。そして、ゆっくりと目を閉じる。

 意識を遠くに飛ばす。この世界の外へ。この世界の隣の未来の世界へ。

 

 ──行け。行け!


(デジャヴ視発動!)


心の中で唱える。


 俊翔の意識が飛ぶ。

 この世界から俊翔の精神が消えた。

 




 意識が入る。


 意識が覚醒し、瞼の裏から光を感じる。

 目が覚めた時とは違う、この独特な感覚。


 デジャヴ視成功だ。


 デジャヴ視を使用している際は、言葉に言い表すことが出来ない何かを感じる。

 それは、何度も未来へ飛んできた俊翔にしか分からないものだ。


(ここは──いつもの集合場所だな)


 俊翔の身体があったのは、登校時に集合し下校時に解散するあの場所だった。

 そして、隣に芽唯が居た。俊翔も芽唯も制服なので、恐らく今は平日の朝か夕方だろう。

 

 今が、何月何日の何時何分なのか把握するすべがない。

 未来の俊翔が腕時計を見ない限り。

 

 それは、デジャヴ視を使って飛んできた俊翔にコントロール出来るものではない。

 飛んできた俊翔は、ただ未来の俊翔が腕時計に視線を移すことを祈るしかない。

 

 1分のうちに、俊翔の本能的な癖が出ることを信じるしかない。


「──を見つけたんだ」


 芽唯の声が耳に入る。

 飛んできた俊翔にとっては、会話の途中からしか聞くことが出来なかったので、話している内

容がよく分からなかった。


 芽唯が言葉を続ける。


「懐かしいなぁって見返してたんだよね」


「それで?」


 自分の声が発せられる。

 だが、自分の意志ではない。


「面白いモノを見つけたんだよね」


「面白いモノ?」


 デジャヴ視で飛んできた俊翔は介入することが出来ない。

 ただ、自分と芽唯の会話に耳を傾ける。


「クヒヒッ。俊翔の恥ずかしい写真だよ」


「俺の恥ずかしい写真!?」

(俺の恥ずかしい写真!?)


 中の声と外の声がシンクロする。

 どちらも自分なので、デジャヴ視の最中ににこういうことはたまに起こる。


「スマホに入れたんだ。今日2人に見せるの忘れちゃったから、明日見せよっかな」


 スマホをフリフリと横に振って見せてきた。

 画面はよく見えない。


「おいバカやめろ!」


 俊翔の身体が急に動く。

 手を伸ばし、芽唯のスマホを取り上げようとする。


「キャッ!」


 芽唯は軽く悲鳴を上げたが、華麗にかわした。


「ほらほら俊翔。こっちだよ~」


 芽唯が煽る。


「こっのやろう!」


 スピードを上げて、芽唯に向かって飛びつく。


「ひゃあっ!」


 先ほどよりも大きな悲鳴が上がる。


 今度は避けきれずに、俊翔と芽唯の身体がぶつかった。

 芽唯がよろつき、手からスマホが零れ落ちる。


「おっと」


 俊翔は芽唯の身体が転ばないようにしっかりと支える。


「大丈夫か?」


「う、うん」


 芽唯は返事をする。

 しっかりと両足で地面に立つように姿勢を戻す。問題は無いようだ。


 俊翔の視線が地面に移る。

 割れたスマホが地面に落ちていた。


「あっ……」


 芽唯は拾い上げて、スマホの状態を確認する。

 その時、俊翔の視線は腕時計にあった。

 一瞬時間が見えた。


 1月23日月曜日16時19分。


 つまり、今は下校中だったということになる。


「大丈夫か」


 自分が芽唯に優しく声を掛けていた。

 視線は芽唯の方に戻っている。


「……うん。壊れてはないと思う」


 暗く、落ち込んだ声で喋る。


 電源を付け軽く操作し、問題ないことを確認する。本体は問題ないようだ。

 ただ、スマホカバーは割れて使い物にならない状態になっていた。


「ごめん」


 俊翔は頭を下げ、謝る。


「いいってば。元はと言えば、私が俊翔に恥ずかしい写真を見せるんだ~って言ったからだし。

 スマホカバー変えたいなって思ってたからむしろちょうど良かったよ」


 芽唯が明るく振る舞う。

 それは俊翔を気遣っての行動だということは一目瞭然だ。 


 2人の間に、暗いムードが漂う。

 そのせいか視界にもやがかかり、芽唯の表情が良く見えなくなってきた。


(いや、ちがう。これは──)


 デジャヴ視のタイムリミットだ。

 俊翔の精神は強制的に元の世界へと戻される。



 


 意識が戻る。


 俊翔は椅子に座ったままだった。

 時刻は16時37分。デジャヴ視を発動してから1分後だ。

 

「さて……どうしようか……」


 俊翔は分かりやすく頭を抱えた。

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