友達
──1月17日 火曜日 7時30分
ピピピという電子音が俊翔の意識を覚醒させる。
俊翔は目を瞑りながら、スマホの位置を手探りで探す。
何かが手に当たる。多分スマホだ。
目を瞑ったままではアラームを止めることは出来ないので、結局目を開けて重たい身体を起こすことにする。
スマホを操作して、アラームを止める。
目をこすり、軽く伸びをする。
今日もなんてことない1日が始まる。
◆
階段を降り、リビングに行くと父がコーヒーを飲んで新聞を読んでいた。
俊翔は自分の椅子に座る。
「はい。味噌汁」
母が器を持ってきてくれた。
メニューはご飯と目玉焼きと味噌汁。ごく一般的な家庭の朝ごはんだ。
「ん」
俊翔は適当に返事をして受け取る。
ふりかけをご飯の上にかけ、口の中に掻き込む。
「じゃあ、俺はそろそろ出かけるかな」
スーツ姿の父は新聞を畳み立ち上がる。
そして、コーヒーをぐいと飲み干す。
「じゃあ、行ってくるからな」
「ん」
俊翔は適当に返事をして食事を続ける。
俊翔の家は母と父の3人家族だ。兄弟はいない。
昔は弟が欲しかったが、今はそんなことは思っていない。むしろ、一人っ子でありがたいと思っている。
父は会社勤めのサラリーマンで母はパート。特別金持ちでもなければ、特別貧乏でもない。
ちなみに芽唯の家もほとんど、というか全く一緒だ。
母と父の3人ぐらしで、父がサラリーマンで母はパート。芽唯の方も普通の家庭だ。
俊翔の母は芽唯の母と面識がある。たまに会って、お互いに子供のことを話すこともあるらしい。。
こういう住宅街の近所づきあいは大切だから、といつも母が俊翔に言っていたので俊翔はなんとなく知っていた。
小学校も中学校も高校も一緒で、家も同じ団地だから当然と言えば当然だ。
「ごちそっさん」
俊翔は平らげた皿をキッチンに持って行く。キッチンでは母がまだ料理をしていた。
リビングから出て、学校へ行く準備を始める。
──1月17日 火曜日 8時00分
俊翔は玄関にある鏡の前で、もう一度自分の姿を確認する。
どうやら、問題は無いようだ。教科書も忘れてないし、弁当もしっかり入れている。
もちろん、愛用の腕時計もきちんと左腕につけている。
「じゃあ、行ってくるから」
俊翔は玄関で待っていた母に言う。
「はい、気を付けてね」
「行ってきます」
俊翔は自宅のドアを開け、いつもの集合場所へ向かう。
──1月17日 火曜日 8時03分
集合場所に着いたが、芽唯はまだ来ていなかった。
集合時間は8時05分だ。あと2分もすれば来るだろう。
俊翔は楽な姿勢をとる。
ふと、昨日のことを思い出す。
昨日の帰り道は芽唯のことが頭から離れなかったが、一晩も経てばすっかりと冷静になっていた。
「えぇっと、今日の授業はなんだっけなぁ」
やることもないので、今日のこれからのことを考える。
課題は忘れていないか。今日までにやらないといけないことは何かないか。
「あぁ。そういえば制服のこと、本当に言いに行くのかな?」
今日のどこかで「校則を変えてくれ」と言いに行くと芽唯が言っていたが、どこまで本気なのか。
いや、芽唯のことだ。きっと、本気で言いに行く気だろう。
だが、芽唯のことだ。もしかしたら、忘れているかもしれない。
そんなことを考えながら、芽唯を待ち続ける。
しかし、まだ来ない。
俊翔は腕時計を見る。
時刻は8時15分。集合時間より10分オーバーしていた。
いつもの芽唯は、俊翔よりも先に来るかほぼ同時のタイミングに来るはずだ。
「まさか、芽唯がここまで来るまでに何かあったんじゃないか!?」
一瞬、嫌な想像がよぎったがそんなことはありえない。
なぜなら、ここから芽唯の家までは目と鼻の先だ。
それに昨日のデジャヴ視で、今日が見えなかったというのが一番の理由だ。
だがこれ以上芽唯が来なかったら、遅刻は確実だ。
俊翔は芽唯の家に向かうことにした。
芽唯の家に着いた。徒歩数十秒のとても長い道のりだった。
馬鹿なことを考えてないで、さっさと呼び鈴を押すことにする。
俊翔は芽唯の家は何度か来た事があった。主に、勉強を教えるために。
今さら、大した感情は抱かない。
「ピンポーン」
呼び鈴が反響する。
すると、どたどたという足音と少し甲高い声が漏れて聞こえてくる。
「……い! ほら、俊翔くんきちゃったじゃな……」
「……ぇ、嘘!?」
「……ないって! ほら、さっさと行って……」
「……この格好じゃ……。お母さんが行って……」
「……きなさいって!」
家の外まで会話が漏れて聞こえてきた。
会話の節々しか聞こえてこないが、芽唯と芽唯の母親が言い争っているのは分かる。
「ハハッ、仲が良いな……」
勢いに圧倒され、乾いた笑いが出てきた。
芽唯もすごいが、芽唯の母はさらにすごいな。
どこの家庭も一緒だ。母には勝てない。
そんなことを思っていたら、目の前のドアがガチャリと勢いよく開かれた。
「ご、ごめん俊翔!」
玄関から芽唯が飛び出てきた。
短髪だというのに髪が少し跳ねていた。寝起きなのが一目瞭然だ。
服装を見ると、モコモコとした可愛らしいデザインのパジャマを着ていた。
普段の芽唯は制服だし、私服の時だってあまり女子っぽい服を着てこない。
俊翔にとって、女の子らしい恰好をする芽唯を見たのは初めてだった。
普段はボーイッシュな言動と行動をする芽唯が、誰よりも女の子らしい可愛い服を着ている。
そのギャップに、俊翔は芽唯の服装に釘付けになっていた。
芽唯は俊翔の視線に気づき、
「あと5分で準備出来るから!!」
顔を真っ赤にさせて、ドアを勢いよくバタンと閉めた。
「お……おぉ」
圧倒された俊翔は、ただ1人で呟くのだった。
──およそ5分後。
「ごめん、本当にごめん!!」
芽唯が両手を合わせて、遅刻したことを必死に謝ってきた。
俊翔としては、そこまで怒っていない。だが、時間がギリギリなのも確かだ。
俊翔は左腕を見る。
時刻は8時22分──いや、8時23分だ。
ここから学校までは約20分。つまり、8時43分に着く。
8時40分のSHRが始まる前に席についていなければ遅刻扱いだ。
ということは、このままいけば遅刻確定だ。
「大丈夫! 走れば間に合う!」
芽唯がぐっと握りこぶしを握る。
「……マジ?」
「大マジ! だって、俊翔だって遅刻したくないでしょ?」
それはそうだ。
だが、よくよく考えれば俊翔は時間通りに集合場所に来ている。
「でも、もとはと言えば芽唯が──」
「レッツゴー!!」
俊翔の反論を聞き終える前に、芽唯は明日に向かって──いや、学校に向かって走り出した。
「ちょ、おい!!」
俊翔には追いかける以外に選択肢は残されていなかった。
カバンを抱えて、運動不足の身体を必死に揺らして懸命に走る。
昨日は芽唯に振り回されるのも悪くないと思ったが、やっぱり芽唯といるとろくなことが起きない。
(芽唯を好きになった奴は振り回されることを相当覚悟した方が良いだろうな)
そんなことを考えながら、俊翔は普段運動していない自分を憎み、芽唯の後ろを必死についていくのだった。
──1月17日 火曜日 8時39分
ドタドタと大きな足音を鳴らしながら2人の人間が、教室になだれ込むように入ってくる。
俊翔と芽唯だ。
教室に入ると、後ろの方で立って雑談していたり、座って読書をしていたり、突っ伏して寝ていたり。
まだ、朝のSHRは始まっていないらしい。
2人は自分の席に向かってカバンを置く。
すると、担任の先生が教室に入ってきた。
「ふぅ、ギリギリセーフだね」
芽唯は安堵していた。
「……だな」
俊翔は息を整えながら返事をする。
同じ距離を同じスピードで走ったはずなのに、なぜか俊翔の方だけ息が上がっていた。
芽唯は運動ができる方ではあるが、男女の差もあるので俊翔の方が芽唯よりも運動はできる。そのはずだ。
だが、運動不足の人間にとって急に走るとなると話は変わってくる。
今から運動をしますとあらかじめ言われておいて、ゆっくりと身体と心の準備をして、ようやく運動にとりかかる。このステップが無ければ、俊翔の身体は満足に動かせないようになってしまっていた。
(昔はこんなことなかったのに。もう齢かな)
高校2年生の若造が何を言っているんだと言われそうだが、動かないんだから仕方がない。
SHRの話を聞きながら、息が整うのを待つ。
冬だというのに走ったせいで全身が火照っているので、上着を脱いで椅子にかける。
(まさか、朝からこんなことになるなんてな……)
誰にとってもこんな朝は"まさか"な出来事だと思う。
だが、俊翔にとっては他の人以上に"まさか"な出来事だった。
その理由はデジャヴ視だ。
デジャヴ視は5日間のうち、一番大きな出来事が起こる未来へ飛べる能力だ。
昨日、1月16日の15時02分にデジャヴ視を発動して、その3分後の未来が見えた。
つまり先生に問題を当てられるというのが、1月16日の15時02分からその5日後の1月21日の15時01分までの間の最も大きな出来事というはずだ。
だから俊翔は、今日は特に何も起こらないと高をくくっていた。
しかし、事件は起こった。今日の芽唯の遅刻事件だ。
(まあ、事件っていうのは大げさだけどな……)
結局遅刻はしなかったので、結果的にはちょっと急な朝のラニングが始まっただけだ。
デジャヴ視にとっては、今日の芽唯の遅刻よりも昨日の俊翔が問題を当てられたということの方が大きいと判断したのだろう。
だが、俊翔にとっては今日のほうがきつかった。主に肉体的に。
やはり、この程度の出来事だと人によって判断が異なる。
大けがをだったり、1000万円拾うだったり、大きな出来事だったら一目瞭然なのだが。
(こんなことならデジャヴ視を使っとけば良かったな)
今回の出来事は、デジャヴ視を使っておけば代償無しで回避できた未来だ。
俊翔はこういう失敗を何度か経験し、何度も後悔している。
だが、「運動が出来たので別にいいや」と思い、今回も気に留めないことにした。
──1月17日 火曜日 12時49分
4時間目が終わる1分前。つまり、昼休みが始まるまであと1分。
この1分間が、全国の高校生が一日の中で一番そわそわする1分間だろう。もちろん、俊翔もその内の1人。
今か今かと、昼食の時間を待ちわびていた。
(早く終わらないかな)
腕時計を何度も見るが、もちろん針の進むスピードは変わることはない。
何をしても変わらないというのに、何度も時計を見ては早く進んで欲しいと願うのであった。
今日は一段と昼食を待ちわびていた。
なぜか、今日はいつもよりもお腹が空いていたからだ。理由は朝のアレであると明白だが。
長針が動いたと同時にチャイムが鳴る。
「じゃあ、今日はここまで」
先生がそう言うと、日直の号令がかかる。
礼と同時に何人もの生徒が教室から一斉に出ていった。
「相変わらずすごいな」
高校名物、購買ダッシュだ。恐らくこれも、全国の高校で共通だろう。
購買のパンは早い者勝ちなので、昼休みになると同時にみんなダッシュで教室から出ていく。
俊翔の高校の名物はプリンパンだ。
その名の通り、パンの上にプリンが乗っているだけだがこれが一番人気で数も少ない。
皆、プリンパンを目当てにダッシュしていると言っても過言ではないだろう。
一度だけ、俊翔も食べたことがあるが意外と美味しかった。
甘いのがあまり得意ではない俊翔だが、プリンパンは思ったよりも甘くなく絶妙にマッチしていた。
もう一度食べたいと思い高1の冬、ちょうど1年前くらいに購買ダッシュに参加したことがある。
だが、購買についたときにはすでに長い列ができており、並んだはいい物の自分の前の方で全てのパンが売り切れと言う苦い思いをした。
現実は非情だ。初参加の俊翔は、プリンパンどころか普通のパンすら買うことが出来なかった。
その日は涙ながらに食堂で素うどんをすすったことを今でも覚えている。
というのが理由ではないが、あれ以来は購買をほとんど利用したことがない。
1年の頃は食堂を利用していた時期もあったが、途中からは弁当になった。
理由は単純だ。弁当を食べる友達が人できたからだ。
「よぉーし、飯だ飯だ」
俊翔の前の席に長身の男子が座ってきた。
彼の名は中口 真人。
俊翔や芽唯と同じクラスの帰宅部の男子生徒。丸っこい目と柔らかい表情をした、中性的な整った顔立ち。成績もスポーツも上の方で、俊翔より勝っていたが、そんなことはどうでもいい。俊翔にとって一番大事なのは真人の身長だ。
真人の身長は181cmあり、まるで巨人だ。あまり背が高くない俊翔と並べばその差がさらに浮き出てくる。
2人で並んで歩けば俊翔は周りから小馬鹿にされる。主に芽唯に。
それでも俊翔が真人と一緒にいるのは、真人がイイ奴だからだろう。俊翔と真人は高1の時に知り合い、それ以来一緒に昼飯を食べる仲となっている。
俊翔と昼飯を食べる人はもう1人いる。
「彩奈っち早く~」
芽唯が彼女の名前を呼ぶ。
「う、うん」
彼女は芽唯の前の席にチョコンと座る。
彼女の名前は佐々木 彩奈。
同じクラスの文芸部の女子生徒。彼女の黒髪は艶が良く、肩までの長さで全体にウェーブがかかっている。成績は優秀だけどスポーツは苦手、性格は内気でどちらかというと文科系タイプの人間だ。目は垂れ目で伏し目がちなので、目元が見えないこともしばしば。
芽唯と佐々木さんは高1の時に知り合った。性格は真反対なのに何かが惹かれ合ったのだろう、気づいたときにはとても仲が良くなっていた。
1年の春は俊翔と真人、芽唯と佐々木さんの2人2組で昼食をとっていたが、夏ごろには4人1組で一緒に弁当を食べるようになっていた。
もちろん、2年の冬になった今でもこの関係は変わっていなかった。
「俊翔と小鳥さんが隣の席だから、楽でいいぜ」
真人がそう言いながら席を動かす。
4人のうちの誰かの席に集まるようにしているので、今の席順になってからは俊翔たちの近くに集まるのが定番になっていた。
俊翔と芽唯の前の人が食堂に行っているので、2人の机と椅子を借りる。
余談だが、食堂組と購買組と弁当組の割合はほとんど一緒だ。教室には20数人の生徒が弁当か、購買で買ったパンを食べていた。
俊翔たちは4つの机をくっつけて1つのテーブルにした。これで向かい合わせで座ることが出来る。
向かい合わせで座って弁当を食べる。これが彼らの昼食のスタイルだった。
「いっただきまーす」
芽唯がパンと手を合わせて、弁当の蓋を開ける。
それを合図に4人はそれぞれ弁当を食べ始めた。
「芽唯ちゃん、今日の朝はギリギリだったけど何かあったの?」
佐々木さんが芽唯に今日の朝のことについて質問する。
俊翔と芽唯が息を切らしながら、遅刻ギリギリのタイミングで勢いよく入ってきたことがずっと気になっていたのだろう。息を切らしていたのは俊翔だけだが。
「確かに2人ともギリギリだったな。いつもは15分前ぐらいには来てるのに。寝坊か?」
真人も気になっているようだ。
「いや~。アラームをセットし忘れちゃったみたいで」
芽唯がてへへと舌を出す。
「ほら、先週が休みだったでしょ。そのせいで、今日のアラームが外れてたみたいで……」
確かに先週の火曜日は学校が休みだった。
恐らく平日にセットしているアラームを一度キャンセルして、元に戻すのを忘れていたということだろう。祝日があると起こりやすいミスではある。
だが、昨日はちゃんと時間通りに来ていることを俊翔は知っている。
「でも昨日遅刻しないで、何で今日遅刻したんだ?」
祝日があると起こるミスとは言ったが、今日は火曜日だ。昨日は普通に学校があったので、アラームが鳴る設定を月~金にしておけば、このようなことは起こらないはずだ。
俊翔は芽唯に理由を聞く。
「これを見れば分かるよ」
そう言って、芽唯はスマホの画面を俊翔に見せる。
そこには、月・火・水・木・金と毎週のアラーム設定が5つ並んでいた。そして、火曜日だけ設定が外れていた。
曜日によって起きる時間が変わればこの画面になるのは分かるのだが、驚くことにその5つは全て同じ時間に設定されていた。
「おいおい……ちょっと貸してみろ」
俊翔は芽唯のスマホを取り上げる。
「ここをこうすれば──ほら、こうやれば月~金で同じ時間に設定できるから。これで1個にまとめられるから」
俊翔は新しく月~金のアラームを追加して芽唯にスマホを返す。
「あー、ごめん。それ知ってた」
「は?」
思ってもみない返答に俊翔は困惑する。
たまらず、俊翔は芽唯に質問する。
「何で月~金に設定してないんだよ」
「だって、月~金って火・水・木は書いてないから不安じゃん」
「いや意味わかんねぇよ!?」
芽唯はわざとあのような設定にしていたらしい。
不安だという謎の理由で。
「月~金だから、火・水・木も含むに決まってるんだから変えとけよ!」
「いやぁ~。なんとなく不安で……」
「不安ってなんだよ!? 変えた方が1個にまとまっていいだろ!」
「結局一緒だか別に今のままでもいいかなって」
どうして分かっていながら、効率の悪い方を選択するのか。
俊翔には芽唯の異端な考えを理解することが出来なかった。
「俺は月~金に設定しているけど、不安っていう小鳥さんの気持ちも分かるな」
なぜか、真人が助け船を出してきた。
「マジ?」
俊翔は当然納得ができない。
「……実は、私も芽唯ちゃんと同じように設定してる」
そう言って、佐々木さんはスマホをそっと机の上に置いた。
芽唯と同じように、5つの曜日の設定が並んでいた。
「さすが彩奈っち!」
「……マジ?」
なぜか、この場では俊翔の方が少数派になってしまった。
「ほらほら。なかぐっちも彩奈っちも私の味方だよ」
ふふんと鼻を膨らませる。
言い忘れたが、芽唯は真人のことを「なかぐっち」、佐々木さんのことを「彩奈っち」とあだ名で呼んでいる。
「みたか。俊翔」
「これと芽唯が遅刻した話は別物だろ」
「うぐ……ごめんなさい」
芽唯は素直に謝った。
「なるほどな。それで、俊翔も遅刻しそうになったと」
「岸君と芽唯ちゃん。待ち合わせして一緒に学校に来ているんだよね」
2人は俊翔と芽唯が長い付き合いで、親密な関係だということを知っている。
もちろん、2人が恋人関係ではないことも知っている。
「そうそう。それで、芽唯のうっかりのせいで俺まで遅刻しそうになって──」
「だから、『先に行ってて』って送ったのに」
「ん?」
俊翔は慌ててスマホを確認する。芽唯に気づかれないように。
メッセージアプリを開くと、確かに今日の8時04分に芽唯からのメッセージが来ていた。
「置いて行くのは良くないって思ったから、待っててやったんだぞ」
「うそつき。既読になっていなかったの知ってるんだから」
「……」
俊翔は聞こえないふりをして、おかずの唐揚げにかぶりついた。




