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デジャヴ視  作者: ケト
第1章 俊翔の能力
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はじめてのデジャヴ視

──1月23日 月曜日 17時33分


 俊翔と芽唯は公園のベンチに腰を下ろし、昔の思い出話に花を咲かせていた。

 

「あの運動会のあとどうなったんだっけ?」


 俊翔が芽唯に質問する。

 俊翔にとって小6の運動会は、忌まわしき記憶として封印していたのではっきりと思い出せなかった。


「う~んと。終わってすぐは、からかわれたりしていたけど……2週間ぐらいで収まったと思うよ」


「そっか。良かった」


 今の俊翔が覚えていないので、それほどダメージを負っていなかったことは明白だったが、芽唯の証言もあり一層安心した。

 小学生の流行り廃りはあっという間だったらしい。


「……」

 

 俊翔は芽唯の顔をじっと見る。


「……?」


 芽唯はただ首をかしげるだけだ。


 芽唯はあの日、俊翔が泣いた理由を聞いてこなかった。

 普段はずかずかと色んなことを聞いてくる芽唯だが、こういう時は人の心が分かる優しい人間だった。

 

「そういえば、運動会の勝負私が勝ったけど俊翔からなんにもしてもらってないや。

 ジュースでも奢ってもらおうかな~」


「今さらかよ!?」


 否。

 優しい人間だというのは誤りだった。

 

 思えば、最初の頃は俊翔が芽唯をリードする立場だったはずだ。

 だけど、いつの間にやらその立場は逆転してしまった。

 変わったのは、スマホに写っているこの運動会の日からだったような気もしてきた。


「ほら、スマホ返すよ」


 俊翔は深く考えることをやめて、芽唯にスマホを返す。

 

「ほら。言った通り懐かしい写真だったでしょ」


「……芽唯は恥ずかしい写真って言ってたけどな」


「あれ? そうだっけ?」


 素で言っているのか、冗談で言っているのか俊翔には判別がつかなかった。

 だが、確かに懐かしい写真でもあったし恥ずかしい写真でもあった。


「じゃあ、帰るか」


 昔話が一段落したので、俊翔は立ち上がる。

 だが、芽唯は立ち上がらなかった。


「俊翔。本当にごめんね」


 改まった顔をして、謝罪する。

 俊翔のスマホカバーが割れたことについてだろう。


「だからいいって。ちょうど来週買うつもりだったからさ」


「じゃあ私も行く!」


 芽唯は急に立ち上がり突拍子もない提案をしてきた。


「ね? 良いでしょ?」


 俊翔は少し考える。

 来週買いに行くと言ったのは方便だ。だが、特に予定があるわけでもない。

 別にスマホカバーを買いに行ってもいいし、芽唯と行くのは嫌ではない。 


「じゃあ行くか」


「決まりね」


 こうして、ひょんなことから来週の予定が埋まってしまった。

 


──1月23日 月曜日 23時33分


 俊翔は自室のベッドの上で思考を巡らせていた。

 今日のこと。運動会の日のこと。デジャヴ視のこと。


 デジャヴ視は世界を救う力がある。

 子供の頃はずっとそう思っていた。

 だからこそ、未来を変えて運動会で1位になれると信じていた。


 結局はその程度の未来も変えられないほどのちっぽけな力だということに気が付かされた。

 

「初めて使ったときはすっげーワクワクしたんだけどなぁ……」


 俊翔は右の手のひらをじっと見つめる。

 そして、デジャヴ視をはじめて使った日のことを思い返す。


 



──7年前の1月  


 俊翔の年齢は10歳。これは小学4年生の頃の話だ。


「2分の1成人式ということで、みなさんに宿題を出したいと思います。

 ご両親に自分が生まれた時の話を聞いてきてください!」


 担任の先生が児童らに宿題を出す。

 俊翔はこの宿題に対して、面倒くさいという気持ちと楽しみだと言う気持ちの半分半分だった。

 

──帰り道


「……」


「……」


 俊翔と芽唯は並んで帰っていた。

 しかし、会話はほとんどされていなかった。


「岸君って、自分が生まれた時の話聞いたことあるの?」

 

 ようやく、芽唯が俊翔に呼びかける。

 この頃の芽唯は、今と違って内気で大人しい性格をしていた。

 

「ボクはないなぁ。小鳥さんは?」


 俊翔が芽唯にも聞いてみる。

 この時はまだ、お互いに苗字で呼び合っていた。


「私は少しだけあるよ。5月に生まれたから"めい"っていう名前にした、ってお母さんが言ってた」


「5月だから"めい"……。どういうこと?」


「……わかんない」


「……」


「……」


 その後は会話を交わすことなく、ただ解散場所まで2人並んで歩いた。

 

「じゃあね、岸君」


「じゃあね」


 2人は手を振ってそれぞれの帰路についた。


──夜、自宅にて


「俊翔が生まれた時の話?」


「うん。学校で聞いてこいって言われた」 


 俊翔は母に問う。

 時刻は午後7時30分。父と俊翔と母の順でソファに並んで座っていた。


「そうか……」


 父がつぶやく。

 母は父と目を合わせて、にっこりと笑いだした。


「俊翔が生まれたのはバグだ、ってお医者さんが言ってたわね」


 母が笑いながら話をする。


「バグ?」


「そう。バグって分かる? 思った通りの動きをしないこと。

 俊翔は生まれるはずじゃなかったのに、生まれたんだってお医者さんが言ってた。ひどいよね」


 俊翔はゲームをしていたので「バグ」のことはそれとなく知っていた。

 「バグ」は楽しいという印象があったので、医者の「バグ」という言葉に対してはあまりひどいとは思わなかった。


「どうしてボクは生まれるはずじゃなかったの?」


 それよりも、「生まれるはずじゃなかった」という言葉が引っかかっていた。

 もしかしたら、自分が生まれることを両親は望んでいなかったのかもしれない。俊翔はそう考えた。


「お母さん病気でね、子供が生めないって言われてたの。それでお母さんもお父さんも悩んで……。

 でもね、ちゃんと俊翔は生まれてきてくれた。

 元気に生まれてきてくれた。ありがとね」


 母が優しく俊翔の頬をなでる。

 くすぐったくって離れたいけど、もっと触ってほしい──そんな感覚だった。


「俊翔が生まれたのは奇跡だったんだよ」


 母はにっこりとほほ笑む。


「まぁ、俺は俊翔がちゃんと生まれるって分かってたけどな」


「お父さんったらいっつも言ってるよね。俊翔を抱いたときにデジャヴを感じたんだ~って」


「でじゃぶ?」

 

 俊翔に聞き馴染みのない言葉が飛んでくる。


「デジャヴ。実際は一度も起きたことのない体験だけど、一度どこかで体験したように感じること。

 俊翔は感じたことある? 行ったことないけど、行ったことある場所だ~って」


「あるよ。……ある。何回もある!」


 俊翔は少し興奮気味に答える。

 今までの不思議な現象に名前があったこと。それが特別なことだって知れたこと。

 

 俊翔はデジャヴを感じやすい体質だった。

 もしかしたら、自分が奇跡の存在だからそういう力が備わったのかもしれない。

 子供心としてそう考えるのも当然だった。


──


「そっか、そっか!」

 

 俊翔は興奮が抑えきれずに自室のベッドでボンボンと跳ねていた。

 

「いや~ボクってやっぱり特別な存在だったんだなぁ」


 男の子というのは誰しも世界を救うヒーローに憧れるものだ。

 俊翔だって例外ではない。


 自分は特別だ。ずっとそう考えていた。

 そして、自分の出生の話を聞いてそれは確証に変わった。


「なんか、手からビームとか打てねぇかな!」


 俊翔は「こうか、こうか」と漫画で出てくるようなポーズを色々と試してみる。

 そして、右手を左肩に置いた瞬間にフッと自分の身体が抜けていくような感覚がした。


「……これだ」


 ごくりと喉を鳴らす。


 右手を左肩に置き、目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。

 意識を一点に集中させた後に、自分の身体を飛ばすように意識の方向を変える。

 

 遠くへ……。

 遠くへ……。

 遠く…………。

 

 



 言葉にしがたい独特な感じが身体に襲ってくる。

 今まで感じたことのない感覚だ。


 俊翔はたまらずに眼を開けようとする。

 いや、眼を開ける前からなぜか光が入ってきていた。

 

 俊翔の身体は教室にあった。


(え? はぁ!?)


 声に出そうとしたはずなのに、口が動かない。

 思っている方向とは、違う方向に身体が動く。

 まるで、自分の身体が誰かに操作されているようだ。


「ボクもやるボクもやる」


 自分の声なのに自分が出したわけではない。

 まるで、録画された映像を見ているようだ。

 

 俊翔の身体は椅子から立ち上がり、教室の前方に向かう。

 どうやら、給食で余ったプリンをもらうためらしい。


 余っているプリンは1つ。

 そのそばには俊翔を含めて、6人の児童が集まっていた。


「じゃあ、じゃんけんな」


 クラスメートの男の子が指揮をとる。

 欲しい人が複数人いる場合は、じゃんけんで勝った人がもらうというのがルールとなっている。


「じゃん、けん、ぽん!」


 俊翔はチョキを出し、他のみんなはパーを出していた。


「やったぜ!」


 そう言って、俊翔はプリンの方へ手を伸ばす。


 俊翔の身体はプリンを大事に抱えて、自分の席に帰ろうとしていた。

 すると、前触れもなく視界が暗くなった。

 そして、俊翔の意識は途絶えた。



 俊翔の身体に意識が戻る。

 

「……」


 視界に移ったのは数分前まで居た自分の部屋だった。

 右手を動かす。

 意識通りに身体が動く。左手も同様に動く。


「……あー、あー」


 声を出す。声が出る。


「なんだったんだ今の……」


 ただ困惑した。

 まるで夢のような感覚だったが、意識ははっきりしていたし妙に現実感があるものだった。

 

「……寝よう」


 俊翔は恐怖を感じたので、布団に入ることにした。

 その日はなかなか寝付けなかった。


──翌日の給食時間。


 欠席者が居たので、給食の余りがでていた。

 プリンだ。


「おーい、プリン食べる奴いねぇか? いねぇなら俺がもらうぞ~!」

 

 クラスのお調子者がプリンを取ろうとする。

 が、当然食べ盛りの男子たちが許すはずがなかった。


 何人かが立ち上がって、教室の前の方で小走りで向かう。


「ボクもやるボクもやる」


 俊翔も同様に、椅子から立ち上がり教室の前方へ向かった。

 余っているプリンは1つ。じゃんけんをする児童は俊翔を含めて6人だ。


(……あれ? これって……)


 俊翔はこの光景に既視感を感じる。

 だが、どこで見たものか思い出せない。


「じゃあ、じゃんけんな」


 じゃんけんが始まるので俊翔は考えるのを一旦やめてじゃんけんに集中する。

 

「じゃん、けん、ぽん!」 


 俊翔はチョキを出し、他の5人はパーを出していた。


「……デジャヴだ」


 俊翔の口から最近覚えた言葉が零れ落ちる。

 

(あの時、ボクは未来が見えていたんだ)


 俊翔は確信した。

 自分には特別な能力があると。


 はじめて、デジャヴ視の存在を認識した。




──1月23日 月曜日 23時45分


「懐かしいなぁ」


 俊翔は自室で卒業アルバムを見返して、昔のことを懐かしんでいた。

 

 小学4年生の1月に俊翔は初めて未来を見る能力を使った。

 そして、その能力を"デジャヴ視"と名付けて、能力の効果を色々と模索したりして……。

 あの日からちょうど7年の月日が経っていた。


「7年経っても結局変わらなかったなぁ」


 5日先までの大きな変化が起こる1分間の未来を見ることが出来る能力。

 未来を変えるためには代償が必要。


 この2つの絶対的なルールは変わることは無かった。

 そして、この先も変わることは無いだろう。


 机の上のスマホから通知音が聞こえる。

 スマホを取り電源を付けると、芽唯からメッセージが来ていた。


「買い物の件だけど、土曜日で大丈夫?」


 どうせ明日も会うのだから、明日決めればいいのに、と俊翔は思った。

 だが、返信しないわけにもいかないので、適当に返す。


 何度かメッセージを送り合い、待ち合わせと行く場所も決めた。


「5日後か」


 俊翔は卓上カレンダーを見る。

 

 今日が月曜日、いやあと数分もすれば火曜日になる。

 土曜日に芽唯と買い物に行く約束が決まった。


 私のせいだからという理由で、真人と佐々木さんは誘わずに、芽唯と俊翔の2人で行くことになった。

 ここ最近は4人で遊んでいたので、2人だけで遊ぶのは久しぶりのことだ。

 と言っても、登下校はいつも2人で行動しているので特別なことではない。


「考えてみれば芽唯との付き合いも7年経っているのか……」


 芽唯は俊翔の学校に小学4年生の春か夏頃に転校してきた。はじめてデジャヴ視を使った日の約半年前だ。

 芽唯とは7年間も毎日登下校を一緒にしている。

 高校を卒業するまではこの関係も変わることはないだろう。デジャヴ視と同じように。


 俊翔は時計を見る。

 23時57分。

 もう寝る時間だ。

 

 俊翔は部屋の電気を消して、ベッドに入る。

 

(お金用意しとかなきゃな……)


 そんなことをぼんやりと考えながら、眠りについた。

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