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短編(両方あり)

沼生徒と沼学校と

作者: 裏道昇

もう一本。久しぶりにSFを書きました。

良ければ読んでみてください。


「やばいやばい……!」

「ゆっくり食べなさいよ」


 もそもそとジャムを塗った食パンを食べる。

 お母さんが呆れた顔で牛乳を渡してくれた。


 テレビは朝のニュースを流している。

 俺は左上に映った時間だけを睨みつけていた……もうちょっと待ってくれ。


 未だに意識は覚醒していないのに、あと五分で家を出なければ学校に間に合わない。牛乳を一気に流し込む。


 もう一枚いけるか……?

 食パンに手を伸ばす。

 

「ですから、地球の資源問題は既に危機的状況まで進んでいるのです」

 

 ニュースでは何とか教授が地球の資源について語っていた。

 良く分からないが、あと何年でうんぬんかんぬんらしい。


「では、具体的にどうすれば良いとお考えですか?」

「…………」

 

 意気込んでいた男性が一度黙った。

 そりゃそうだ。答えられるなら今頃は解決しているだろう。


 人類が増え続ける以上、別の惑星でも見つけるか。

 あるいは夢の技術でも生み出すしかない。


 最終的に資源の節約を主張することにしたらしい。

 日本人の無駄遣いについてデータを取り出していた。


 その時、急にテレビから甲高い音が流れる。


「……!?」

「番組の途中ですが、速報をお伝えします」


 速報か。事故でも起こったのか?

 しばらく見ていると、映像が切り替わった。

 

 見覚えのある映像だった。

 俺の学校じゃないか。


『XX高校で地盤沈下!? 地下に大きな空洞の疑いあり』

 テロップが流れていく。


 現地のアナウンサーが高校の門の前に立っていた。

 忙しなく空洞について説明していた。何やら液体が溢れているらしい。


「うわ」


 校庭の様子がテレビに映し出される。

 中心に大きな穴が開いていて、たぷたぷと茶色く濁った水が満ちていた。


 ――液状化ってやつか?

 ――なんだか沼みたいだ。


「……時間は大丈夫なの?」

「あ、やべ」


 お母さんの声に冷や汗をかく。

 時間はとっくに遅刻である。


 直後、同じクラスの奴から今日は学校が休みだとメッセージ。

 俺は思わずガッツポーズをしていた。


「……馬鹿」

 お母さんが俺の頭をぺち、と叩く。




 笑えなくなったのは夕方を過ぎてからだ。

 またニュースが騒ぎ出していた。


『XX高校で死体発見。生徒の関係者か』


 校庭の穴から死体が見つかったのだ。

 しかも、その死体……本人はまだ生きているとのこと。


 意味が分からないと思うが、その死体は俺の先輩らしい。

 つまり現役の在校生。問題は本人が今も家にいることだ。


 つまり死体として発見された人が生きている。

 本人は穴の中に入ったこともないらしい。


 兄弟はいないとのこと。

 そっくりさんで済むとも思えない。


 気持ち悪くなってネットでも調べてみると、妙な話が出てきた。

 ……沼男(スワンプマン)


 元はと言えば思考実験の一種らしい。

 自分が死んで、代わりに自分と全く同じ存在が生まれたら……というものだ。


 その名の通り、沼から生まれるという設定になっている。

 あの校庭の穴が沼に見えたからだろう、ネットでは大騒ぎになっていた。


『どっちが本物なんだ?』

『で、手品の種は?』

『こんなことをする理由は何?』


 本気なのか、それともお祭り気分なのか。

 好き勝手にSNSへと書き込まれていた。


「……寝るか」

 少し怖くなって、さっさと俺はベッドに入った。




「!?」


 ごぽごぽと、水を飲んで目を覚ます。

 いつの間にか、俺は水の中にいた。


 ――一体何が起こって……。


 水は濁っていて、周囲の様子は良く分からない。

 うっすらと見える景色は、俺の部屋に見える。


 俺は苦しくて、あちこちへと必死に腕を振り回す。

 でも周囲には何もなくて、腕は空回る一方だった。


 ――苦しい。

 ――何か、何か。

 

 ! その時、俺の手が何かを掴んだ。

 ぐい、と水の中で引っ張る。


「……っ」


 声にならない悲鳴を上げた。

 目の前に出てきたのは――ぐったりと動かない俺自身だった。




 研究チームは注意深く地球儀を観察していた。

 それは異常なまでに精密な地球儀で、ご丁寧に太陽系の模型まで作ってある。


 拡大してよく見れば、建物や人形があることも分かっただろう。

 ……いや、人形が動いていることも。


「また失敗です。地下の『沼』が溢れてしまいました。

 やはり扱いが難しいですね……」


 彼らは『沼』と呼ばれる物質を研究していた。

 この『沼』は電流を流すことで、触れている物質を複製するという特異な性質を持っていた。


 しかし、最新の研究で電気信号のデータのみで、疑似的に複製を引き起こすことが可能だと判明している。


「……もう一度だ。同じように古い地球のデータから。

 今はミニチュアだが、この時代の地球を複製することが出来れば、資源問題が全て解決するんだから」 


 彼らは新たな地球儀に『沼』を触れさせる。

 そうして、また小さな沼地球を作り直した。


読んで頂きありがとうございます!

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