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入学①

「ぬう! ここが音に聞こえたアルビオンの魔剣学園か! 広いな!」




 見渡す限りに広がった石畳の上で、小生――クヨウ・ハチスカは感嘆の声を漏らした。


 これはこれは――世界的な軍人教育機関と聞いてある程度予想はしていたが、これでは学園組織というより、まるで唐土の皇帝が住む宮殿のようではないか。


 とにかく、これほどの面積と規模を誇る建物は小生が今まで暮らしてきた国には存在しない。


 手を庇にし、ふーん、ほぉーなどと周囲を見渡す小生を、おそらくこれから同窓になるのであろう青年や淑女たちがじろじろと見つめている。




 一頻り感動した後、小生はぐっと握り拳を握りしめ、高い位置にあるお天道様を仰ぎ見る。




「なかなかどうして、いざ現地に来てみると血が滾るものであるな――! 剣士たるもの、常に泰然自若不動心がどうのこうのと師は言っておったが、この絶景を前にどうして感動せずにいられようか!」




 小生は決意の声と共に宣言した。




「小生はこれから三年の間、ここで学び、戦い、喰らい、鍛えられる! そして何よりも――多くの友を持とう!!」




 そう、友。


 まだ世界に駆け出したばかりの小国でしかない我が国と、その国を背負って立つ小生が、求めてやまないもの。


 四海に、否、七つの海をその全ての国に、信頼できる友を作る。


 それこそが小生の願いであり――小生の師であった人の願い。


 小生は腹の底から宣言した。




「そして我が祖国、大八洲(おおやしま)帝国の名を天下に、否、世界に轟かせる! 目指すは【剣聖】、その遥かなる頂きこそ我が宿願なり! 不詳クヨウ・ハチスカの一代記、神仏よ何卒に照覧あれ――!」




 両手を広げてそう宣言した――そのとき。


 むにっ、という、なんだかごく柔らかいものに右手の甲が触れた気がした。


 ん? と横を見た小生は――自分の右手が、たまたま小生の横にいた人物の胸部にめり込んでいて、なおかつその人物がどうやら女性らしいということを理解して、今までの興奮がいっぺんに吹っ飛んだ。




「うえっ――!?」




 一瞬、事態を測りかねていたらしいその女性が、数秒後には素っ頓狂な悲鳴を上げた。


 小生は慌てて腕を引っ込め、大きく頭を下げた。




「ここここ、これはとんだご無礼を仕った! わざとではない! どうかご容赦を――!」




 小生が石畳に這いつくばると、女性の方が却って慌てたのが雰囲気でわかった。


 それに構わず、小生は両手を地面につき、額を石畳スレスレにまで下げた。


 やってきて数分で土下座――これを師が見ていたらなんと言うだろうか。


 頭の片隅でそんなことを考えたが、今は謝罪が先決であった。




「ちょ、ちょっと! 突然何をやってるの!? なにを突然這いつくばって――!」

「これは小生の国に伝わる伝統的な謝罪方法、土下座なるもの! 人間の尊厳をかなぐり捨てて他者に詫びる方法である! これに免じてどうかご容赦を、どうか――!」

「い、いや、全然、全然怒ってないから! とりあえず頭を上げて! みんな見てるから――!」

「見られているから謝罪になるのである! やってきて数分で公然と婦女の乳房に触れたなどとは何たる不埒な行い! 武人のすることではない! 小生一生の不覚……!」

「と、とりあえずいいから! 事故だってわかってるし! いいから頭を上げて!!」

「謝罪を、受け入れてくれるか?」

「受けます! 受けるから! とりあえず頭を上げてって!!」




 小生は、ゆっくりと顔を上げた。


 上げた先で――はっ、と、息を呑んだ。




 おお、この女性――白子(しらこ)だ。


 白人女性というものを目の辺りにしたことは大八州でも何度かあるが、これはまた。




 まるで絹糸のような白金の髪は背中まで伸び、翡翠色の瞳が美しい。


 先程小生が触れてしまった胸部は、制服の上からでもその豊かさがわかる。


 異人種とはいえ、ここまで小生の国の女性と雰囲気が異なるものであろうか。


 思わず見惚れてしまった小生を、女性も不思議そうに見つめ返した。




「……あなた東洋人、よね? 珍しい、この学園に東洋の人間がいるなんて……」

「美しい……」

「は?」

「音に聞く遥か西国が異人とはかくも容姿が美しいものか。その艶姿(あですがた)はまるで天下に謳われし虞美人(ぐびじん)の如く、否、天女の如き――」

「ちょ、ちょっとあなた、何言ってるの? そっ、それに、美しいって――!」




 思わずそんなことを宣ってしまってから――はっ、と小生は我に返った。


 我に返ってから――終わった、と小生は暗澹とした気持ちになった。




「恥ずかしか――」

「うぇ?」

「おいは――おいは恥ずかしか! 生きておられんごつ!!」




 言うなり小生は正座に直り、両手で制服の裾を開いて腹を晒した。


 ぎょっとした女性にも構わず、小生が腰に帯びた刀を逆手に抜き放つと、女性がますますぎょっとした。




「ちょ――! こ、今度は何やるつもりよ!?」

「今より小生はこの場にて腹を切り果てる所存! どうぞ検見(けみ)役をお務めくだされ!!」

「ええええええ!? 何何!? 意味わかんない!! なんでそんなことになるの!? とりあえずやめてったら!!」

「手をお離しくだされ! まだ入学手続きも終わっておらぬというのに来て早々女性(にょしょう)の胸に触れるばかりか、その姿に見惚れたとは一生の不覚! 武人として恥ずべきこと! してその始末には何卒この一腹を……!!」

「果てるな! 何考えてんの!? 恥って何よ!? 何ひとつわかんないうちに死なれたら後味悪すぎじゃない! とりあえずやめろ!! 剣を戻して!!」

「これ、そこの君たち」




 ――と、そこでまた別の声が聞こえ、小生は手を止めた。


 見ると、やはり白人である背の高い青年が、小生が左手に持った刀を見つめていた。




そう思っていただけましたら、

何卒下の方からご評価をお願いいたします!!

もう少しポイント取りたいんです!!


よろしくお願いいたします。

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