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2話 始まりの日





 私と友人Fが出会ったのは、高校一年の春だった。

 出会いの日から強烈なイメージがある。

 学校も違ったので、住んでいる所も三駅程行った場所、更に彼の家まではそこからバスで行かなければいけない所だった。

 

 当時住んでいた所から三駅程行くと、私の町で一番栄えている所があり、そこまで行けばそれなりのモノが買えるという感じだった。

 まあ、流行のモノなどを買おうと思うと、更にそこから二十分は電車で移動しなければいけないのだが。


 友人何人かでそこに行ったのだが、皆ゲームセンターへ行くと言うので、私は別行動で本屋に行った。

 当時はお金も無く、本も思う様に買えなかったので、本屋で立ち読みした後、別れた友人たちと合流しようと、行くと言っていたゲームセンターへ向かった。

 しかし、既にそこには友人たちは居らず、別のゲームセンターへ移動したのか、もしくは帰ったのだろうと私は一人コインで遊ぶ競馬のゲームを少しやっていた。

 まあ、そんなゲームも長時間遊べるモノでもなく、私は帰ろうと思い、そのゲームセンターを出る事にした。


 階段で降りようと思い、あまり人のいない階段の方へと行くと、そこに数人の所謂、不良がたむろしていた。

 無視して通り過ぎようとすると、案の定、私に絡んで来る奴がいた。

 そのゲームセンターのある商業施設は、カツアゲに遭うと有名な所で、ある程度覚悟もしていたのだが…。


 まあ、絵に描いた様なカツアゲで、


「金出せ」


 と数人が私を囲んで絡んで来る。

 まあ、私もそんな奴らに怯む様なタイプでは無かったので、少し抵抗すると大声で威嚇されながら階段を下りる事になった。

 その商業施設の裏手にごみ置き場の様な所があり、そこで絡まれると大体その裏に連れて行かれるという話が知っていた。

 ビルの間の細い路地を通り、その場所に連れて行かれる。

 そこで二、三発殴られて有り金を持って行かれる。

 そんな感じなのだろう。


 噂に聞いていたそのゴミ置き場。

 段ボールが沢山積まれていて、従業員の喫煙所になっている場所の様だった。


「俺は○○の○○や」


 なんて自己紹介の様な名前で脅す的な事が始まる。

 しかし、そんな名前を聞いても知らないので、怖くも何ともない。


「お前、名前は」


 私の名前なんて聞いてもわからんだろうと思ったが、とりあえず名乗った。

 すると、後ろに居た一人が、


「ちょっと待って…」


 と言い、数人で話を始めた。

 そして、


「ひょっとして〇〇の知り合い…」


 と私の友人の名前を言う。

 この友人も学校も違えば住んでいる所も違う奴で、何故そんな奴の名前が出て来るのかもわからなかった。


「そうか。それなら許したるわ」


 と凄んでいた奴が言って来た。


 ん…。

 何か可笑しい。


「待てこら」


 私はそこでスイッチが入った。


「許したるわって何や」


 とそいつの襟元を掴み、積んである段ボールの山にそいつを突き飛ばした。

 そして二、三発ぶん殴ってやろうと思いそいつに詰め寄った所、私の友人と知り合いだと言っていた奴が必死に止めに入った。


「ごめん、ごめん…。悪かった」


 私に突き飛ばされた奴もそいつに、


「お前も謝らんかい」


 と言われ謝っている。

 一人だけ凄んでいる奴がいたので、確かそいつに一発蹴りを入れた記憶がある。


 そんな場所で絡まれる奴は皆黙って金を出すのだろう。

 本当に殴り合いになる事なんてそうそうないのかもしれない。


 私の友人と知り合いだった奴、名前を関口と言って、友人とは高校生の癖にパチンコ仲間だと言う。


 大声で私が怒鳴り散らした事もあり、従業員の出入り口から数人の店員が出て来て、その場を出る事になった。


「済まんかったな…」


 と関口が何度も言う。

 私の怒りを収めようと彼も必死だったに違いない。

 関口が私の友人から何を聞いて、私の怒りを収める事に必死になっているのかはわからなかった。

 しかし、


「なんか奢らせてくれや」


 と関口は言う。

 そんな義理も無いし、気分も悪いので、そんな奴らとは早く別れたかったのだが、あまりにも言うので一緒にある喫茶店に入った。


「こんなんでええんか」


 と安い水の様なアイスコーヒーを見て関口は言う。


「カツアゲしてるくらいやから金も無いやろう」


 私も関口に気を使った。


 他の奴らは何処かに行ってしまった。

 仲間でも呼びに行ったのかと思っていたが、その日、そいつらが戻って来る事は無かった。


 薄暗い路地にある古びた喫茶店。

 結構な歳の婆さんが一人でやっていて、数人いる客も常連客ばかりな感じだった。


「吸うか」


 と関口は私にタバコを勧めて来た。

 当時は勿論、タバコなんて吸っていなかったので、私はそれを断った。

 

 関口は私の機嫌を取るために色々と話をしているのだが、その彼の背中越しの席が気になった。

 テーブルの端に黒いプレートに金文字でリザーブドと書かれた札が置いてある。

 狭い喫茶店で、古い薄汚れたテーブルと椅子。

 革張りの椅子はもうその革が割れて剥がれ掛けている。


「どないしたん」


 と関口の後ろを見ている私に彼は言う。


「ああ、いや…」


 そう答えたのだが、実は私には見えていた。

 その席に凄い形相で睨む女が座っているのが。

 

 入ったらダメな店だったかな…。


 と私は後悔した。

 とりあえずさっさとコーヒーを飲んで店を出ようと思った。


 その女は確実に誰にも見えていない女の様で、関口も何度か振り返るが、何も気にならない様だった。


 店に入った時に思ったのだが、独特の臭いが充満していて、初めはそんな臭いの店なのかと思ったのだが、違っていた。

 その女の放つ臭いだった。


「出ようか」


 と私は関口に言った。


「そんな慌てんでえーやん」


 と関口は二本目のタバコを吸い始める。

 私は極力その女を見ない様に俯いて関口と話をした。


 店の婆さんが、


「そろそろランチできるけど」


 と私と関口に言う。


「どうする。ランチ食う」


 と関口は私に訊いた。

 一刻も早く、店を出たいと思ってた私は首を横に振った。


「腹減ってんねん。食おうや」


 と関口は言う。


 普段なら、「食べよう」と返事をするのだが、どうしてもその女がこっちを睨んでいるのが気になった。


 その時、店の外でガラスを叩く音が聞こえ、振り返ると、関口の知り合いらしき男が手を上げて関口に微笑んでいる。

 そしてその男は店に入って来た。


「よお、何してんの」


 と男は関口の隣に座った。


 これがFだった。


「誰…」


 と私の事を関口に訊く。

 関口は今日の経緯をFに話していた。


「ああ、コイツ、友達のF」


 関口は私にもFを紹介してくれた。

 何故かFは私に手を出して握手を求めて来た。

 そして握った手をなかなか離さない。

 

 変な奴…。


 と私は思った。


「おばちゃん。ランチ三つ」


 関口はランチを注文してトイレに立った。


 関口がトイレに行くので、Fは一度、席を立つ。

 それでようやく手を離した。


 するとFは私に顔を近付けて、


「自分、見えてるんやろ…」


 と小声で言い、後ろの席を見た。


 私は自分以外で、見えるという奴に初めて会った。

 それが驚きで、力強く頷いた。


 Fは微笑み、関口のタバコを取り咥えながら、関口が座っていた席に移動した。


「あれ、怖い顔してるけど、大丈夫やで」


 と私に言う。


 そんな事、わからんだろう…。


 と私は半信半疑で苦笑した。


 トイレから関口が戻って来て、Fが座っていた椅子に座る。


「お前、また俺のタバコ吸ってるやろ」


 とFに文句を言った。


「そんな事よりさ、この人、見えるみたいや」


 とFは関口に言った。


「え…」


 と関口は驚いて私の顔を何度も見た。


「え、何…。お前と一緒って事…。そんな奴おんの…」


 と関口は騒ぎ出す。


「訊いたん」


 と言いながら関口は椅子に座り直した。


「いや、実際見えてたから」


「は…。見えてるって…」


「ずっと、お前の後ろにおるねん」


「え…」


 関口は振り返り、後ろの席を見る。

 関口にはそれは見えていない。


「お前、ビビらすなよ」


 とFに言う。


 私はそんなやり取りを見て笑った。


 Fのその力の事は関口も知っていた。

 それが何処まで強い力なんて、私には勿論、関口も知らなかった様だが。

 ただ、後ろに座る女が何もしてこないとわかっている事で、私よりも強い何かを持っている事はわかった。


「はい、ランチ」


 と婆さんが弁当箱に入ったランチを持って来た。


「今日はミックスフライやで」


 そう言って私たちの前にその弁当を置く。


「ありがとう」


 とFは微笑んでお礼を言う。


 すると、後ろの席にいた女が立ち上がって私たちのテーブルの横に来た。

 そして関口の弁当を覗き込んでいる。


 私はその女を見た。

 するとFもじっと見つめている。

 関口は割り箸を割ってフライにソースを掛けていた。

 

 私がFを見ると、Fは小さく首を横に振った。


「美味そうやな…」


 と関口だけが弁当を食べ始める。


 アジフライの骨がどうのって話をしたので、それが入っていた事は覚えているが、それ以外はその弁当の事なんて何も覚えていない。

 ただ、弁当を食べ終えるとまたコーヒーが付いていて、二杯目のアイスコーヒーを飲んだのは覚えている。


 そのランチを食べた後、その店に一時間程いただろうか。

 婆さんが弁当箱を引きに来て、


「もう一杯コーヒー飲むか」


 と訊いた。

 当時はお金も無く、派手に遊ぶ事も無かったので、一所に長い時間居るのも当たり前だった。

 関口がもう一杯お代わりを頼んだ。

 空のグラスとカップを持って婆さんはカウンターへと戻った。

 今度はFがトイレに行くと言い席を立った。

 トイレに行くにはその女の座るテーブルの横を通る。

 Fはそのテーブルの前で立ち止まり、じっとその女を見ていた。

 

 私は、そのFが気になったが、それ以上に女が気になる。

 じっと見ているFの方を女が見た。

 

 Fはその女に微笑むと、トイレに入って行った。

 Fがトイレに入ると、女はまたこっちを睨む様に見る。


 もしかしたら睨んでいるのではなく、そんな顔なのかもしれない。


 その頃には私もそう思い始めていた。


 Fが席に戻ると、今度は関口が奥の椅子に移る。


 関口とは共通の友人の話なんかをしていたが、今度一緒にパチンコに行こうなんて話になっていた。


 婆さんがコーヒーを持ってやって来た。

 私たちの前にコーヒーとストローなんかを置いて、立ち去ろうとした時にFが婆さんを呼び止める。


「おばちゃんさ、亡くなった娘さんって何が好きやったん。なんかおばちゃんの作る料理で好きやったモンあるやろ」


 と突然言い出した。


 婆さんは驚いた様子でFを見ていた。


「あんた、なんで死んだ娘知ってんの」


 と婆さんは言った。


 なんとなくわかった。

 後ろの席に座ってるのはこの婆さんの亡くなった娘さん。


 私はFと婆さんの顔を交互に見た。


「娘もこの店手伝ってたんやけどな…」


 と婆さんは言う。


「ポテトサラダが好きでな、大したモンちゃうねんで、安いハムようさん入れて」


 婆さんは少し笑ってた。


「娘に作り方教えたら、私より美味しく作りよってな。それからポテトサラダだけは娘が毎日作っててん」


 私とFはその話に頷く。

 関口だけが何も理解出来ていない様だった。


「娘が死んでから、そう言えばあんまり作ってないな…」


 と婆さんは言ってカウンターに戻って行った。

 そして何処からか娘さんの写真を持って私たちのテーブルに戻って来た。


 間違いなくその写真に写ってたのは、後ろの席に座る女だった。


「いつも朝早くに店開けて、夕方閉めるまで一緒に居ったんやけどな」


 婆さんはそう言って後ろの席に目をやった。


「その席でランチ前にポテトサラダを作ってたんや。ポテトサラダはほんのり温かいのが美味しい言うてな」


 Fは私の顔を見て微笑んでいた。


 婆さんは目に涙を溜めている様にも見えた。


「そのポテトサラダさ。食うてみたいから復活しようや…」


 Fはタバコを咥えて言う。


「ポテトサラダって結構手間かかるねん。日持ちもせんしな。最近は買うてきたやつ入れる事はあるけど、なかなか一人じゃ作る暇もないねん」


 婆さんは手を振りながら言う。


「まあ、俺らも食ってみたいけどさ。多分、娘さんが食べたがってる筈やで」


 とFが言うと婆さんはまた後ろの席を見て微笑む。


「何か、あの子、そこに居るみたいで…。だからそこの席は使わん様にしとるんやけどな」


 Fは少し婆さんに身を寄せて、


「居てはるで…。なあ」


 と私に言う。

 私は答えて良いかわからず、小さく頷いた。


「やっぱりそうか」


 と婆さんは言ってカウンターに戻った。


 娘さんは弁当にポテトサラダが入っているのかどうかを確認しに来てたのだろうとFは言っていた。


 私たちはその後コーヒーを飲むとその店を出た。


 私はその日、初めて会ったFの力に驚いてた。

 見た目はただの高校生だった。

 関口と同じ様にタバコも吸う、どちらかというと不良で、本当に普通の高校生だった。

 

 その店でポテトサラダが復活したのかどうかはわからないが、数年後に行くと店はもう無かった。


 



 その日、初めて会った二人と駅の傍に有る大きな公園に行った。

 その時はもう二度と会う事も無いと思っていたのだが、Fの持つ力がどうにも気になった。


「この公園の中にも数か所、ヤバいところがあるねん」


 とFが言う。


「お前、やめろや…。マジで怖いやんけ」


 と関口は騒いでいた。


 もしかすると見えるよりも見えないからこそ、怖いのかもしれない。


 石垣に背を着けて座り込む軍人。

 首を吊る木を探している様な若い男。

 思いつめて座り込む男。

 どれも人ではないモノだという事はわかった。

 

 しかし、そんなモノは普段の私には見えない。

 今日に限って何故こんなに見えるのか。

 私は不思議に思った。


「めっちゃ見えるやろ」


 Fは私の横で言う。

 私は妙に凝った首を回しながら頷いた。


「これって磁石みたいなモンでな。強い力の傍に居ると、力の無い奴でも見えてしまったりするねん。元々見える奴やったら、そりゃ見えるわな」


 と笑いながら言った。


 理解出来なかった。

 Fにはこんな風景がいつも見えてるのかと思うと。

 私ならこれがずっと見えていると耐えられないと思った。

 

 池の傍に行き、缶コーヒーを買ってベンチに座る。


「そんな商売してるのか」


 と私はFに訊いた。

 Fは笑って、


「俺は普通の高校生や」


 という。

 

 普通ではないのだけど…。


「爺さんがな、坊さんでな。俺なんかより凄いねん」


 と言い、缶コーヒーを飲む。

 私も同じ様に缶コーヒーを飲んだ。


「見えるって言うやつ結構おるねんけどな。あれの八割、九割は嘘やねん。十人おったら一人か二人はホンマに見えてるやつもおる。見えんけど、感じる事の出来る奴はおる。爺さんは修行したらある程度見える様になるみたいな事言うてたけど、それも持って生まれたモンが大きいみたいや」


 私は頷く。


 何か不思議な感覚だった。

 今までふと見えたり感じたりしてしまう自分が凄く嫌で、いつか見えなくなって欲しい、感じなくなって欲しいと思っていた。

 しかし、そんな私の何十倍、何百倍もそれを見ている、感じている同じ高校生が傍にいる。

 私自身の人生観が少し変わった気がした。


「犬や猫は人間よりももっと見える筈やねん。奴らはそういう感が人間よりも鋭いからな」


 関口は終始怖がって、少し離れた所でタバコを吸っていた。

 それを見てFは笑っていた。


「俺らはアイツらより、動物に近いんかもしれんな」


 と関口を見ていた。

 私も笑った。


 その公園の中にとある施設がある。

 その場所をFは見て言う。


「この広い公園の中で、この辺りが一番ヤバい所やねん」


 実は私も感じていた場所だった。

 そこには小学生の頃から良く行っていて、何度も気持ち悪い場所だと感じた事があった。


「刑場ではないんやろうけど、此処でかなり死んだ人が居る」


 それを聞いて関口はまた騒ぎ始める。


「もう頼むわ…。やめようや…」


 と座り込む。


「マジでFが二人おるのは勘弁やわ」


 そう言った。

 私とFは顔を見合わせて笑った。


 Fは後に言っていたが、その場所で生首が飛ぶのを見た事があるらしい。





 その日、夕方、雨が降った。


 私たちは小走りに駅まで戻る。


「今日は、済まんかったな」


 と関口は何度も頭を下げていた。

 私は絡まれた事など、その時はもう忘れていたかもしれない。


「連絡先教えろや」


 とFが言って来た。

 みどりの窓口の前にあった旅行のパンフレットの切れ端に三人で電話番号を書いて交換した。


「また、遊ぼうや」


 Fはそう言ってまた手を差し出す。

 私はFと二回目の握手をした。

 そしてまたなかなか手を離さないFに、


「握手、長い」


 と言った。


 Fは笑っていた。


 後にFが教えてくれたのだが、手を繋ぎ気の様なモノを送ったり、相手を読んだりする事も出来るという。

 Fは出逢ったばかりの私にそんな事をしていたのだった。

 送られたのか読まれたのかはわからなかったが。





 それから毎週末に関口から電話が入る様になった。

 面倒だったので、二、三回に一回の割合で会う事にしていた。

 あまり出歩くのが好きじゃない事もあったのだが。

 

 ある日、Fから電話があった。

 珍しかった。


「今度の日曜。予定ある…」


 とFが言う。


「特に無いけど、どうした」


 と訊くと、


「ちょっと除霊しに行くから一緒に来てや」


 とFは言う。


 ちょっと除霊って言葉に笑ってしまった。

 彼にとっては本屋に雑誌を買いに行く程度の事なのかもしれない。

 

 正直、怖かったが、興味もあった。


 その除霊の話はまた今度書くとして、その時に色々と話を聞いた。

 普通電車に揺られながら、普通の高校生の会話ではない話だった。

 Fがそんな力に気付いたのはもう物心ついた頃からだという事、父親にはそんな力はなく、爺さんからの隔世遺伝だという事。

 夏休みに爺さんの家に遊びに行くとその力が増す事など。

 

 特殊な世界だった。


「霊とかって怖くない。生きてる人間が一番怖い」


 Fは口癖の様にそう言っていた。

 私も以前から同じ事を言っていた気がする。


「霊は剥き出しの心だから、こっちから歩み寄ればそれを教えてくれる。生きた人間は裏と表があったりして、それが読めない。それで人を信用出来なくなったりする事もある」


 そんな風に話すFの顔が、少し寂し気に見えたのを覚えている。

 彼にも悩みはあるのだろう。


「将来、こんな仕事するのか」


 私はFに訊いた。

 Fは、


「多分、せんやろうな…。爺さんには修行してみんかって言われてるけど、寺は叔父さんが継いでるしな。親父は普通のサラリーマンやし、寺に関わる事は無いと思うけどな」


そう言っていた。


 しかし、Fは叔父さんに息子が居なかった事もあり、叔父さんの後継者として、後に四国の寺を継ぐ事になるのだが。





 と、こんな話ばかり書くと友人Fは霊感の強いだけのオカルト男に見えてしまうが、そんな事はない。

 一緒に色んな事をした。

 むかついたヤクザのベンツのサイドミラーを壊し、死ぬ程追いかけられた事もあった。

 待ち合わせ場所に行くとFが数人相手に喧嘩していたので助けに入って一緒に喧嘩した。

 後で喧嘩の理由を訊くと、相手の彼女を口説いて寝取ってしまった事が原因とわかり、相手に謝った事もあった。

 鯛焼き屋のおばちゃんに餡子が少ないと文句を言ったり、ラーメンのチャーシューを麺の奥に隠してチャーシューが入っていないともう一枚もらったり、とにかく滅茶苦茶な奴だった。

 だけど、当時の私には心地良い刺激だった。


 彼との思い出は尽きない。


 また、彼の生きた証を機会があれば書きたいと思う。








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