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12話 禁忌の場所





 夏になると、「肝試し行こうぜ」なんて言う奴が必ずいた。

 肝試しとは見えない人間には何てことないのかもしれないが、見える人には苦痛以外の何物でもない。

 F曰く、絶対に止めた方が良い事の一つで、肝試しなど何の得もない行いらしい。







「肝試し行かん」


 その日、私たちがいつもの喫茶店で話をしていると、二つ上の先輩がそう言う。


「誰が行くか」


 と強い口調で言うF。


「いや、俺はいいっすわ」


 と弱腰で言う関口。


「止めときます」


 と私。


「なんでやねん、行こうや。絶対楽しいって」


 とその先輩は言う。


「楽しくないわい。お前らアホか。いっぺん憑りつかれて苦しめ」


 と終始Fは強い口調。

 先輩とか後輩とか一切関係ない男で、どれだけ怖そうな先輩にもタメ口で、たまに喧嘩になる事もあった。

 その都度、


「お前が俺の為に何してくれたんやっちゅー話や。世話になったんやったら敬語も使うけどよ、何の世話にもなってない先輩に何で敬語使わなあかんねん」


 と、まあ、そんな感じで……。

 まあ、これじゃ喧嘩も絶えない訳だ。


 その先輩は、自分が働き出してローンで買った車に乗って何処かに行きたいだけの先輩だった。


「行こうや……。女も誘ってよ……。楽しいで」


「お前ホンマアホやな。お前の車はバスか。何人乗れるねん。俺ら誘ったら、女なんて乗れんやんけ」


 Fの言う通り。

 その先輩の車は五人乗り。

 算数も出来ない先輩だった。


「そん時はユージ誘うから車二台ある。二台あったら結構乗れるやろ」


 結構ってなんだ……。


「女、先に誘ってからもっかい来い。女の顔見てから決めるからよ」


 Fの口調は今にも喧嘩になりそうな感じで、私はハラハラしていた。


「おう。わかったわ……。お前どんな女がタイプやねん」


 少し先輩も本気を出して来た感じだった。


「あー、すぐやらしてくれる女」


 投げやりにそう言うFの言葉に私は笑ってしまった。






 その数日後、街を歩いていると、派手なクラクション鳴らしながら私たちの脇に先輩の車が止まった。


「おう、週末肝試し行くで」


 その先輩はまたそんな事を言う。


「うるさい。さっさと死ね」


 Fはその先輩の事がかなり嫌いだったらしく、口調も厳しい。


「そんなん言うなや。お前おった方がリアルで楽しいやんけ」


 その先輩はFが「見える」事をネタにして女の子と肝試しに行きたいだけだった。


 そのままその先輩を無視して私たちはいつもの公園の中へ行き、缶コーヒーを飲みながら話をしていた。

 すると、さっきの先輩が三人の女の子を連れて公園に入って来るのが見えた。


「おい、アイツ、マジで女連れて来たで」


 と関口が指差した。


 Fはじっとその先輩たちを睨み付ける様に見ながら、


「アイツ、マジでいっぺん怖い目見せんとわからんねんな」


 と咥えたタバコを地面に叩きつけていた。


 私はその日も喧嘩を覚悟したのだが……。


 その先輩はFの前で土下座した。


「頼む、一緒に来てくれ……。俺らだけじゃ怖いやん」


 それはFが居ても怖いのは同じで、Fがどんな怪異を前にしても何とか出来ると思っているのだった。


「嫌じゃ……。何でそんなところ行かなアカンねん。勝手に行けや」


 Fはタバコを咥えたまま、吐き捨てる様に言う。


「ほら、お前らも頼めや」


 と先輩は傍に立ってた女の子に言い始める。

 するとその女の子も先輩同様にFの前に土下座して頭を下げた。


 流石のFもそれには驚いて、私の方を見ていた。






 その女の子はとある女子高の同級生で、夏休みの宿題に心霊スポットのレポートを書くって事をやっていた。


「そんなん宿題になるんか」


 Fが言うと、女の子の一人がFの前にノートを出す。

 Fがそれを受け取り、ノートをパラパラと捲った。


「ふん……。しょーもない」


 とFはそのノートを私に手渡す。

 私はそのノートを受け取り、同じ様にパラパラと捲った。

 どれも心霊スポットでも何でもない場所で、そんな場所を恐怖体験として怖そうに書いているだけだった。

 そんなテレビが流行っている時代でもあり、それなりにリアルに書けば、それっぽく見える感じだった。


 私も笑いながらそのノートを読んでいたのだが、ふとあるページに貼られた写真が気になって手を止めた。


「どないしたん……」


 と私の様子に気付いたFが横からノートを覗き込んだ。

 Fは私からノートを取ると、そのページをじっと見つめている。


「お前ら此処、行ったんか」


 と前に立つ女の子に訊く。

 その子は後ろに立つ女の子に目配せして頷く。


「嘘つくな……」


 とFは三人の女の子に強い口調で言った。


「此処行ってみんな平気なわけないやろ」


 Fが立ち上がって床にタバコを叩きつけた。


「あ、あの……」


 と一人の女の子が声を出す。


「そこ、もう一人一緒に行った子が居って、その子ちょっと体調悪くて……」


 Fがその子を睨む。


「いつから体調悪いねん」


「……」


「いつからやって聞いてるねん」


 半分怒鳴る様にFは訊く。


「多分、その行ってからやと」


 Fはじっとノートを見ながら少し考えていた。

 そして、


「その子に会わせろ」


「何かあんの、その子」


 と先輩が女の子とFの間に割って入った。


「お前関係ないわい」


 とFはその先輩を蹴り上げた。






 その日、暗くなるまで、女の子たちの話を聞いた。

 元々、心霊スポットの研究は学校の先生が「面白いんちゃう」と提案してきたらしい。

 それに仲良しの女の子四人組でやる事にしたという。

 初めは色々な本を見たりして、レポートに書いてたらしいが、その内、近くの本当のスポットを回ってレポート書こうって事になり、何か所が回ったそうだ。

 その殆どがいわゆるガセネタで、心霊スポットでも何でもない場所で、そんな事は本に載ってる記事にもある事で、珍しくも何ともない。


「この場所、誰に教えてもらったんや」


「その場所の近くにある定食屋のおばあちゃん」


 と言う。


「とりあえず、その子に会わせろ……」


 Fは何度もそう言う。


 女の子たちは公園の公衆電話からその子に何度か電話をしたが、誰も出ない。

 勿論携帯電話などまだまだ高価な時代で、高校生が持てるモノでもない。

 その女の子の家は、両親がどちらも会社を経営していて、一人っ子のその子は殆ど一人で家に居ると言う。

 そしてその子だけが、他の三人とは家も逆方向で、家に行った事も無いらしい。


「同じ中学の子おるから、訊いてみるわ」


 と一人の子が他の子に電話をかけた。

 直ぐに住所はわかった。

 どうも富裕層の家が集まっているエリアの様だった。


「この場所行ったんいつや」


 Fはかなり剣幕で、笑顔の一つもない。


 それはその筈だった。

 その見せられたレポートの写真には暗いトンネルの中から無数の腕が伸びているのが写っている。


「この写真に何かあんのか」


 と関口が私に訊く。

 どうやら関口にもそれは見えていないらしい。


「こんなトンネル、屁でも無いやろう。何やったら俺が今から行ってみたろか」


 と先輩はタバコを吹かしながら言う。

 そんな先輩にFは突然掴み掛った。


「冗談でも、絶対、そんなんするなよな。そんなんしたらマジでシバくからな」


 Fの表情は険しく、私でさえ引く程だった。


「わかったわいや……。お前がそこまで言うんやから、ホンマにヤバい所なんやろうし」


 先輩は顔を引き攣らせながら言った。


 確か、これは私たちが高二の夏の事。

 此処から経験した事も無い、怪異に私たちは巻き込まれて行く事になる。






 その翌日の朝だったか、私はFからの電話で叩き起こされる事になる。

 母親に起こされ、Fからの電話に出る。


「どうした……」


 私は半分寝ぼけたまま、電話に出た。


「何分で出れる……」


 Fは突然そう言う。


 まずは朝は「おはよう」だろうが……。

 なんて事を考えながら、


「ああ、十五分かな……」


 と答えた。


「じゃあニ十分でお前んち行くから、急いでくれ」


 Fの悪い癖で、その日の要件をなにも伝えずに出て来いとだけ言う。


 私は仕方なく、顔を洗い、歯を磨きながら服を着替えた。

 するとまた電話が鳴る。


 休日の朝の七時。


「お前、ええ加減にせーよ」


 と父親も起きて来た。

 それに謝って私は再び電話に出た。


「今日だけは数珠、忘れるなよ」


 とFは言うと電話を切った。


 私は机の上に置いていた数珠を掴んでジーパンのポケットに捻じ込んだ。

 そして麻のジャケットを着て、家を出た。


 Fとの待ち合わせは私の家の傍にあるスーパーの駐車場で、駐車場には入れるモノの、まだ営業前で、私はそのスーパーにある自販機で缶コーヒーを買って、Fを待っていた。


 案の定、例の先輩の車が駐車場の段差で車の底を擦りながら入って来た。


 金かけて改造するのは否定せんが、下品な車は嫌いだ。

 そう思ったのはこの時だったと思う。

 だから私は未だに車高を落す様な下品な真似はしない。

 そう決めたのもこの日だった気がする。


 運転席から先輩と助手席からFが下りて来た。

 どうやら後部座席には無理矢理連れて来られた関口が乗っている様に見えた。


「あの子らと連絡取れたから、今から、もう一人の子の所行くから」


 Fはそう言って自分も自販機で缶コーヒーを買った。


 カーナビなど高価でまだ付けている人も少なかったし、今程の性能も無く、近くまでの案内しか信用出来ない時代だった。


 Fは後部座席で寝ている関口の横に座り、私がその先輩の横に乗り、何処から持って来たのかわからない地図を見ていた。

 先輩の車はショック、いわゆるサスペンションを外しているのか、少しの段差でも大きく跳ねる程に振動が伝わる。

 普段、車酔いしない私も少し気分が悪くなる程だった。

 そんな車に一時間以上揺られながらその子の家の前に辿り着く。


 その豪邸とも呼べる家の門の前に先輩の下品な車を停めて、女子高生の三人が来るのを待った。


 朝から真夏日の暑い日だったのを覚えている。


 関口が坂の下にあった自販機で缶ジュースを買って来て、私たちに渡す。


「凄い家やなぁ……。俺もこんな家、いつか住めるんやろうか」


 などと言っている。

 関口も此処まででは無いが、今はかなりデカい家に住んでいる。


 ニ十分も待っただろうか、坂の下から昨日会った三人組がやって来るのが見えた。

 昨日とは違い、当時流行っていた蛍光色の迷彩柄のTシャツなどを着ていて、最初はわからなかった。

 私は女の子の名前と顔を覚えるのがどうも苦手だった。


「すみません。遅れて……」


 その女子高生は一つ下で、終始、私たちにも敬語で話す。

 育ちも良いのだろうか。


 とりあえず、その大きな家のインターホンを押した。

 すると、中から綺麗に着飾った中年の女性が出て来た。


「あ、真弓ちゃんのお友達ね……。ちょっと待ってね」


 と言うとまた家の中に入って行った。

 私はその家の二階の窓をじっと見つめる。


 あの部屋だ……。


 それは一瞬で分かった。

 するとその部屋のカーテンが揺れて、こっちを見ている女の子の姿が見えた。


 直ぐに、その母親らしき女性がまた出て来て、門を開け、玄関まで通される。

 少し私たちの姿を見て躊躇していたが、すぐに笑顔になり、


「真弓ちゃん。ママ出掛けるから、お願いね」


 と二階に向かって声を張っていた。


「ではすみません。仕事なので……」


 と母親は直ぐに出て行った。


 見た事も無い程のリビングに通され、私たちは彼女が来るのを待った。

 しばらくすると、目の下にクマを作った女の子がドアを開けて、警戒しながらリビングの私たちを覗き込む様に見ている。


「真弓……」


 一人の女の子が立ち上がり、その真弓の手を引いてリビングに迎え入れた。


 その子が部屋に入った瞬間から凄い気が漂って来る。


「完全に憑かれてるわ……」


 Fは私に小声で言った。


 明らかに体調の悪そうな表情で、私たちの向かいに女の子たちと一緒に座った。

 そしてFはその真弓をじっと見ている。

 そして視線を逸らさずに、


「セキ、先輩と一緒に酒と塩買って来て」


 と言う。


 酒と塩か……。

 いつもの奴か。


 私はそう思った。すると、


「それとスイカ…。切ってない奴、丸ごと一個。それから……」


 と続ける。

 いつもと雰囲気の違うFに関口は立ち上がった。

 そして先輩の手を引いて家を出て行った。


 結局、酒、塩、スイカ、それに大量のお菓子、線香と蝋燭、他にも何かあったと思うが忘れてしまった。


 二人が出て行くとFが身を乗り出す。


「全然眠れてないやろ」


 と真弓に訊いた。

 真弓はそのFの問いにコクリと頷く。

 Fもそれに頷き、ポケットからタバコを出して咥えた。

 リビングにある高そうな灰皿にも父親が吸ったモノなのか吸い殻が入っていた。

 Fはそのタバコを指で挟み、そっとその子に近付けるとその煙は吸い寄せられる様に真弓の方へと流れ出す。


 何がどうなっているのか……。


 私はその様子をじっと見る。

 しかし、他の子たちはそれにも気付かない様子だった。


「おい、服脱げ……」


 と突然、Fが真弓に言う。


「おい……」


 突然の言葉に私もFに言った。

 しかし、真弓はわかっていたかの様に私たちに背中を向けてTシャツを脱ぎ始める。


「ちょっと……」


 慌てて女の子たちは真弓の行動を止めようとするが、真弓はTシャツを脱ぎ、背中を私たちに見せた。


 その背中一面に、大小の手形が無数に付いているのが見えた。


「何これ……」


 と周囲に居た女の子たちは真弓から離れた。


 Fは灰皿でタバコを消すと、立ち上がり、真弓の傍に立つ。

 そしてその手形を撫でる様に触った。


「痛むか」


 Fの問いに真弓は頷く。


「どんな痛みや……」


「何か、火傷みたいにヒリヒリするねん」


 Fは頷くと、女の子たちに、


「すまんけど、氷、用意したって」


 と言い、またその手形を指で撫で始めた。

 その手形の一つが動いた様に見えたのは私だけだったのかもしれない。

 しかし、Fもその動いた様に見えた手形の上で指を止めた。


「これやな……」


 そう言うと、Fは数珠を出して、その手形の上を数珠で撫で始めた。


 真弓の話では、その心霊スポットに行った日の夜、どうも背中がヒリヒリするので、風呂に入った時に鏡で見たらしい。

 すると無数の手形が自分の背中にあるのに気付き、気味が悪くなり、その日から食事も受け付けず、寝る事も出来なくなったらしい。


「下着、外すで……」


 と、Fは真弓のブラを外した。

 そしてその部分に掛かる、他より大きめの手形を数珠で撫でながら読経を始めた。


 氷をビニール袋に入れて戻って来た女の子たちにFは真弓の背中を冷やす様に言う。

 Fが数珠で撫でている手形以外に物は氷で冷やすと薄くなって行ったが、その分、背中のほぼ中央にある大きな手形はその色を増していく。


 すると、突然、真弓が声を上げ始め、苦しみ始めた。

 それと同時にその真弓の背中の手形がまた動いた様な気がした。


 真弓は身体を震わせ始め、それは何かに耐えているかの様にも見えた。

 そしてふとその震えが治まると、真弓は立ち上がり私たちの方を向く。

 露わになった真弓の胸を隣に居た女の子が脱いだTシャツで隠した。


「誰が頼んだ……。邪魔するな」


 真弓は表情を無くした顔で言う。

 Fはゆっくりと立ち上がり、真弓の前のテーブルに座る。


「邪魔するな」


 真弓はそれを何度か繰り返す。


 私の口の中は一気にカラカラに渇き、その異様な光景をじっと見ているしかなかった。


「お前、何でこの子に憑くんや……。あの場所から離れたらあかんのちゃうんか……」


 Fがそう言うと、真弓の首はゆっくりと周囲の女の子たちの方を見る様に動く。

 そして、


「こいつらが私を連れ出した。私が出たくて出て来たんじゃない」


 と静かに言う。


 Fは深く息を吐くと、


「帰れよ。そして、二度と出て来るな」


 と言う。

 真弓は歯を見せて笑った。


「自分でどうこう出来るモンじゃない」


 Fはその言葉で、真弓の肩に手を置いた。


「俺が帰したるわ……。何なら成仏したいやろ」


 そう言うとFは両手で真弓の肩を押さえ付ける様にして、目を閉じ、読経を始めた。


「お前らも押さえろ」


 とFは周囲に居た女の子たちにも言う。

 女の子たちは手に持っていた氷の入った袋を投げ出して、真弓の身体を押さえ付けた。


 Fの読経はいつもより激しい気がした。

 私は無意識にポケットから数珠を取り出して、手を合わせた。


 こんな事が現実に起こるのか……。

 私は目の前で起きている怪異にしっかりと汗をかいていた。


 その読経はニ十分はゆうに超えていた気がする。

 するとようやく、暴れる真弓の体力がなくなったのか、静かになった気がした。


「水くれ……」


 と隣にいた女の子にFが言うとその子はキッチンへと急ぎ、コップに水を入れて来た。

 その水をFは一気に飲み干し、力が抜けた様に、床に座り込んだ。


「服、着せてあげて……」


 と言うとFは私の傍に戻って来て座った。


 服を着せられた真弓はソファで眠っていた。

 Fはタバコに火をつけると、眠る真弓の姿をじっと見る。

 そして、


「ちょっとその子の背中見てくれるか」


 と言う。


 真弓の身体を起こして女の子たちが真弓の背中を見た。


「手形、もう無いやろ……」


 女の子たちはコクリと頷いた。


「これがお前らも知ってると思うけど、地縛霊って奴やな……。あの場所で死んだ奴の霊やな……。地縛霊ってのはその場所から離れる事はないねんけど、たまに生きている時の念が強すぎて誰かに憑いてその場を離れるモンが居るねん……。それが今回のこれや」


 女の子たちは真剣にFの話を聞いている。


「途中で、憑依したモンが表に出て来た。真弓じゃないモンが出て来たんやな。昔からこれが「化ける」って言われているモンや。お化けって言葉は此処から来てるって言われているみたいやな、俺も良く知らんけど……」


 Fはタバコをまた立てて煙の流れを見た。

 その煙は真弓へではなく、部屋の端の方に流れ出した。


「多分、この子はもう大丈夫やけど……」


 そう言った時に玄関が開く音がした。


「買って来たで」


 と関口と先輩が戻って来た。

 私はしっかりと握っていた数珠に気付き、ジーパンのポケットに戻した。


「こっちも終わったで……」


 と咥えタバコでFは立ち上がった。


 買って来たモノを両手に下げた関口たちは、


「え、じゃあこれは……」


 と固まっていた。






 昼過ぎに真弓は目を覚まして、薄っすらとしか覚えていない私たちに礼を言った。

 私たちはそのまま真弓の家を出た。


「さあ、じゃあ行こうか」


 とFが言い始める。


「何処に」


 と先輩がFの顔をバックミラー越しに見ていた。


「決まってるやんけ、大元をなんとかせんと」


 Fはそう言った。


 助手席には私と交代で関口が乗り、私は後部座席でFの隣に座っていた。


「ちょっとコレ、見て」


 とFが自分のTシャツの背中を捲る。

 するとそこにはさっき真弓の背中で見た手形があった。


「おい……」


 私が声を上げると、


「大丈夫や、俺なら何とかなる……」


 とFは笑っていた。


 彼女たちが行ったというトンネルまで私たちは移動し、そのトンネルの入口に立った。


 そのトンネルはバイパスが新しく出来た事で、殆ど使われなくなった街道にあった。


「さあ、お前の仕事や……」


 Fはそう言うとTシャツを脱ぎ、脇腹辺りに着いた手形を露わにした。


「此処に戻すつもりで念じながら、手形を摩れ」


 そう言うとFはトンネルの入口に酒と塩を撒き、スイカやお菓子、飲み物なんかを供えた。

 そして数珠を取るとまた読経を始めた。


 私の耳にはトンネルが近付くに連れて耳鳴りが始まり、キンキンと金属音のような音が常にしていた。


「負けるなよ…。気を抜くと押し負ける」


 Fの言う事が少しわかるような気がして、私も額に汗を浮かべながら、Fの背中の手形を、数珠を持った手で押す様に摩った。


 関口と先輩は少し離れた場所でタバコを吸いながら私たちを見ていた。


 ザラザラとした感覚が私の中にも入り込もうとしているのがわかった。

 しかし、それに押し負けない様に気を入れて私も念じた。


 Fの読経が終わり、私たちはぐったりとしていた。


「何とか強い奴は成仏したかもしれんけど、まだ残ってるな……。でもこの程度なら何も出来んやろう」


 Fは私にそう言う。

 しかし、その時、供えたスイカに罅が入り割れたのを私は見た。


「おい……」


 私はFを引き留めようと呼んだ。


「大丈夫、大丈夫……」


 Fは、そう言うと先輩の車に乗り込んだ。


 私は今一度、割れたスイカを見た。








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