taste
例えばそれは
メロンパンのクッキー生地の端っこや
ザラメが輝くカステラの茶色い部分や
きつね色に膨らんだマフィンの天辺で
私はそれが、とてもとても
大好きなのだけれど
悲しいことに、それらはみんな
メインの部分と比べたら
ほんの少しの量しかなくて
私はそれを、いつもいつも
これじゃ全然足りないな
いっそメインと希少部位が
入れ替わってくれないかな
などと無茶なことを思いながら
じっくりと、こっそりと
時にはお行儀悪く
選り分けたりなんかもしながら
香ばしく甘いひと時を
楽しんでいるのである
けれど、もしもその願いが叶って
メインの部分が入れ替ったものが
目の前に現れたとしたら
むしろ、それが当たり前に
なってしまったとしたら
私はやっぱり、今と同じに
量が増えてメインになった
サクサクと香ばしい部分を
大好きだと思うのだろうか
それとも当然、今と同じに
入れ替わって希少になった
しっとりと柔らかな部分を
大好きだと思うのだろうか
ぼんやり見ていたテーブルの上
カラメル煌めく焼プリンの隣で
温かなココアの上で溶け出して
ゆらゆら回る
ホイップクリームを眺めながら
そう言えば
アイスコーヒーの氷に触れて
シャーベット状になった
バニラアイスも最高なんだよね、と
背中合わせた
隣のテーブルへと運ばれていく
涼やかなグラス達を見送って
それはさておき
黄金に艶めくアップルパイの
メインはどこになるのだろうか、と
ゆるゆると、きらきらと
今日ものんびり
午後の時間が過ぎて行く