表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蝶々姫シリーズ

【蝶々姫外伝】それが正しいとは限らない

作者: 薄氷恋




◆フィローリ誕生日SS◆


 そうだな、たまには昔の話でもしてやろうか。

 俺、シャロアンス・シアリーとフィローリの関係は幼なじみというには出会いが遅すぎて、同級生と紹介すると信じて貰えないぐらいバランスが悪すぎた。


 出会いは19歳の時。

 ルクラァンのある学院で9年生の時にあいつの存在に初めて気が付いた。

 あいつも俺も『特別』で、他の生徒との差が激し過ぎて学院では浮いた存在だった。


 俺は他の精霊とは違う。人間のように早く成長し、それでいて他の奴らより魔力が優れていた。

 自慢臭いけど事実だから気にすんな。


 19歳の時には俺は人間の19歳と変わらないぐらい成長した体で、だが周りを見るとクラスメイトは揃いも揃って人間年齢13~10歳ぐらいの見た目のガキばっか。


 でも、それが本来の精霊の成長速度。長い寿命と各々の魔力に釣り合った体の構築方法。


 俺だけが異常、異常なんだと思っていた。


 フィローリと友達になるまでは。


 だからあいつとの出会いは衝撃的だった。

 何せ『異常に小さい』のだ。


 中身は年相応なのに、体が全く未発達で幼い。


 さっき同級生が良くて『思春期』、並で『まだまだガキくさい』って言ったろ?

 奴はそれを余裕で下回った。


 出会った時のフィローリは幼児だった。


 あんまりにも小さいから、入学ほやほやの1年生か、隣接した人間の学校の幼年生かと思ってしまった。


 それを素直に口にするとただ眉を顰められた。

 それがまた子供の外見にそぐわない怒り方で吃驚した。


 しかもフィローリは入学した時から俺を知っていた。

 俺は卒業間近になるまであいつに気付かなかったというのに。


 フィローリが言うには俺は成長が早い分、身長が他の奴らより頭2つ分程高く、雰囲気も大人びていて悪目立ちしていたらしい。

 素行の悪さも有名になってたらしいしな。

 何やらかしたんだって?

 聞くな!


 だからフィローリに


 「なんで僕達は同じように周りと違うのに、君は僕に気付いてくれなかったの?」


 と問われ


 「悪い、小さ過ぎて視界に入らなかった」


 と答えたら今度は殴られた。

 あいつは見かけによらず案外凶暴な面もあった。



 

 見かけといえば、フィローリは肌の色が白くて、透き通るような金髪。瞳は花の時期が終わった桜の葉みたいな緑色。

 ちっさくて柔らかくて、ぶつかったりしたら音も立てずに崩れるんじゃないかと心配するような幻想的な外見だった。

 おまけに風精で恐ろしく魔力が強かった。

 身長の低さを考慮して学内寮内での日常生活でも飛行魔法の使用を許可されていた。

 無制限に近い力で大っぴらに空を飛べるって事だ。

 

 (本来は学内は授業以外魔法禁止)

 (俺は校則なんて破るもんだと認識してたけどな)

 

 そんな訳であっちこっち飛び回ってたあいつは、学院内で天使と見間違えられる事が多々あった。

 俺もな、恥ずかしながら天使ってのが居るとしたらこんな外見なんだろうと、間違った想像をした事もある。

 今は後悔している。俺は大いに間違っていた。

 あいつの小綺麗な外見に惑わされて長年騙されていた。

 フィローリは天使なんていいもんじゃない。悪魔でもない。それを遙かに上回る。

 あれはまさしく魔神だ。


 それはともかく、俺達は学院を20歳で卒業してから上級学院に進学し、また10年学んだ。

 俺は昔から医者になるという夢があり、フィローリは植物が好きだったから植物学の方向へ進んだ。

 目指す方向は同じじゃないが、共通する分野に薬草学があった。それを繋がりに、俺達は交遊を続けた。


 フィローリは何年経過しても小さな子供の姿のままだった。

 俺と同じく、正しい成長の法則から切り離された、強い力を持った競い合える友人。

 初めての親友。


 上級学院卒業後もそれぞれまた自分の専門分野の学校へ進んだ。それでも交遊は途切れなかった。

 俺達は知識欲に貪欲で、いくら学んでも足りなかった。

 お互いに学んだことを少しずつ分け合った。


 やがて、北のベラ大陸でカテュリアという小さな国を取り合う戦争が起きた。


 40を過ぎてようやく(やっと?)少年らしい外見になったフィローリが今にも泣き出しそうにくしゃくしゃに顔を歪めて、俺の部屋に飛び込んで来た。

 

 

──行かなきゃ。僕はカテュリアに行かなきゃ。カテュリアにしか無い貴重な薬草が生えている山が戦場になってる。山が燃えたら薬草が絶滅してしまう。だから保護しに行かなきゃ──


 

 俺の第一声は「はぁ?」だった。

 また殴られた。


 (あいつは凶悪だ。飛行魔法を駆使して低い身長にも関わらず正確に俺の鼻を狙ってきやがる)


 だってあいつ、まだ空間をすっ飛ばして移動する『道』の魔法を覚えてないのに海を渡るとか言うんだぜ!?

 北行きの船なんてとっくに止まってるってのに!

 『はぁ?』とも言いたくなるだろ?



 だから、俺があいつをカテュリアに連れてった。

 俺はもう水属性の『道』の魔法を体得していた。


 俺とフィローリは『水の道』でベラ大陸に渡った。

 魔力を大量消費する魔法の連続使用、しかも他属性の精霊を連れた慣れない長旅。


 辿り着く前に死ぬんじゃねえか……とはうっすら思ったが、緑柱月(3月)の冷たい水は氷精の俺に力を与え、俺達は無事に海を渡り切った。

 思えばこれが俺の人生最大の過ちだった。




 フィローリは炎渦巻く戦地にて、偶然出会った当時のカテュリアの若き王に忠誠を誓った。

 ──山火事に巻かれて死にかけた俺の命を救ってくれた王に感謝を込めて。

 ある意味、俺の命と引き換えにあいつは『王の守護』になった。


 守護の魔法に縛られることで元々強かった奴の魔力は更に数十倍に跳ね上がり、化け物じみた魔力を持つ生物になった。


 その魔力の全てで王と、王が望む通りにカテュリアを守った。

 王が望むなら、風の刃で敵兵の喉を切り裂き、風で雨雲を呼ぶ事で大まかにだが天候を操りさえすらした。

 大地を血で染めるような胸クソ悪い魔法の数々で、侵略軍は壊滅した。


 斯くしてカテュリアは救われた。

 貴重な薬草も保護出来た。


 フィローリの目的は達成された。代わりに故郷を失った。

 フィローリは王の居るカテュリアの大地に縛られ、他の土地に移り住む事は出来なくなった。


 俺は、俺はただフィローリの手助けをするだけだった。

 いや、フィローリとは天と地程に魔力の差が開いた俺は、足を引っ張っただけかも知れないな。




 王には既に后が居た。

 フィローリはその后に、生まれて初めて恋をした。


 天使のツラして時々凶悪な面を見せるフィローリは、恋愛に対しては酷く臆病者だった。


 フィローリが忠誠を誓い、守ると決めた王。

 王が心から愛した后。

 后は王と国を愛していた。


 いくら俺が背中を押そうとしたって、フィローリは前に踏み出すことなんて出来やしなかった。

 あいつはただ、后と后の愛する王に寄り添いたいとだけ願った。

 フィローリは恐らく本来の性格だったのだろう、優しく穏やかな人物となり、凶暴性はなりを潜めた。






 カテュリアに留まったままの俺達の時間は緩やかに流れ、人間達の時間は矢の様に早く過ぎた。


 40年近い歳月が過ぎて、老いた王は死に際、フィローリにカテュリアの守護を依頼した。

 フィローリは愛した王と后の為に『国の守護』を引き受けた。

 間もなく王は亡くなり、同じく老いた大后が一人残された。


 80年という長い時間を経て成人したフィローリは、その時やっと美しい老婆となった大后に愛を打ち明けた。

 ……切ない話だ。

 王と二世を誓った老いた大后が(見た目は)若い青年のフィローリに応える事などありはしない。

 臆病なあいつが初めて踏み出した第一歩は


「ありがとう。今まで気付いてあげられなくてごめんなさい」


 と、柔らかく、けれど断固として受け流された。

 あいつもそういう結果に終わると知っていて、長い時間を耐えて過ごし、自分の恋を敢えて終わらせた。

 俺はそんな彼をただ見ていただけだった。

 後押しも何も出来たもんじゃなかった。

 あいつは心を開かなかった。



 その後、フィローリは気が狂う程永い間、后と王以外の他の誰も愛しはしなかった。

 ただ一人、俺にだけは以前と変わらず優しくて、時々魔神の様に残酷だった。


 あいつは俺を突き放すのではない、引き寄せるのでもない微妙な距離に置いて、ひたすら俺を傷付ける。

 俺を友達というカテゴリーから逃がさないクセに、自分のテリトリーの深い部分には一歩も踏み込ませない。


 それって友達なのか?

 そんな歪んだカタチの友情でもいいと思った俺はどっかイカレてるんだろう。

 19年目に出会った同胞。

 異端児、フィローリ。



 何があいつの運命を狂わせたのだろう。

 あいつが愛した植物か?

 ベラ大陸の戦争か?

 ……ベラ大陸にあいつを連れて行った俺なのか?

 そして戦地で重荷になった俺があいつの運命を狂わせたのか?

 わからない。


 その全てが真実で、最後の要因もまたただ一つの正解だと思う。

 けれど例え俺に全ての責任があったとしても、カテュリアに着いてからはフィローリが自分で選んだ道だ。

 俺がどうこう言う資格なんてない。


 そして今語ったのは、フィローリの生涯の四分の一に満たない。

 俺の人生にしてみりゃたったの六分の一だ。

 精霊の生涯ってのは一晩やそこらで語り尽くせない長い長い物語だ。

 奴の生涯を語り尽くすのはまた今度の機会にな。


 そうそう、もう過ぎちまったが昨日はあいつの誕生日だった。

 密かに愛を誓う日に生まれた、愛に恵まれなかった男。

 あいつはカテュリアに居着いてから暫くの間、城の一室で毎年誕生日にだけ柱にぴったり張り付いて身長を測る事を年課としてた。

 「早く王妃様と釣り合う背丈になりたい」ってのがあの頃のあいつの口癖だ。

 んで、毎年毎年懲りもせず、柱の『比較的低い同じ場所』に傷を付けては溜め息を吐いてたよ。


 ……俺が王から与えられた借り部屋の柱にな。


 勿論、ある日それがバレて王からお叱りを受けたとも。


 フィローリじゃなくて俺がな!




2007/02/15

『恋の花咲く事もある。』で一番の謎多きキーパーソン、フィローリの恵まれない最初の100年のお話。2/14は彼の誕生日です。

時々チラ見えする本性が恐ろしい。

語り手は勿論、同じく恵まれないシャロアンスでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ