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プロローグに至る日常 2

地の分くどいです。



 ある日の学校

 四時限目、体育。

 男子バレー、女子バドミントン。


 昼休み前の体力消費に少なくないブーイングがあったが、ハバキ先生の無言の睨みの前に黙殺されるなんてこともあった。


 キュ、キュと運動靴が体育館の清掃された床を擦る音が響き、何度かのサーブで空気の弾ける音がなんとなくストレス発散になる。そんななか、構えだけそれっぽくして棒立ちになり音だけ聞いて点数を数えていたリク。


 ……今3点か、と見てもないのにテキトーなこと考えながらぼーっとしていると、近くに寄ってくる気配。

 なんとなく目を向けると見慣れた存在。


 「ヒビキ」

 「どうした?昼休み前とはいえ気が抜けてね?」


 心配そうに見てくる親友の姿にちょっとサボってる罪悪感が刺激されて、口が軽くなる。

 思わず言う気がなかったことを言ってしまう。


 「一昨日姉貴の親友の結婚式があってさ」

 「結婚式?そりゃめでたい。ちなみに誰?」

 「カナデさんとトモエさん」

 「あー、許嫁だもんな。二人共大学卒業したし」

 「結婚式自体はめでたいし、料理も美味しかったし何も言うことないんだけどな」


 なんかあったの?と聞いてくるヒビキの声に思わず遠い目をしてしまう。


 「正式に道場に嫁さんを呼べるようになったからか、上代道場が今死屍累々状態で………」

 「カナデさんがんばっちゃったかー」


 そうなのだ。元々零細古武術の道場だったので門下生は少ないのだが、それは指導者の見れる範囲が他の道場より多いということで。

 その指導者であるカミシロカナデさんが嫁さんのトモエさんに良いところをみせようと張り切ってしまったのだ。


 カナデさんの許嫁のトモエさんは元々敵対関係の道場の娘であり、学生恋愛を経て駆け落ち同然に無理矢理許嫁の座を勝ち取ったものの、正式に身内になるまではトモエさんを道場の敷地に入れる事はできなかった。

 それが解決したので張り切るカナデさんの気持ちもわからなくもないのだが、その道場に所属しているおれとしてはスパルタ教育は勘弁願いたく。


 「ハク姉は結婚しても落ち着いてたからなー、完全に油断してた」

 「まぁ、ハクさん達は積み上げてきたものが花開いた感じだったけど、カナデさん達は周りの反対に負けずに掴み取った感じだからな……テンションの違いはあるだろ」

 「やっぱそう思う?」


 うん、そうだよなー、などと言葉を交わしながら引き続きぼーっとしていると、視界に影が差す。

 照明の明かりに目を細めながら見てみるとボールのようだ。

 普通に両手を構えてスムーズに受けに向かう。


 「ボール来」

 「そういや当たったぞ、βテスト」

 「た………はっ?」


 スパァン!

 「1点!」

 「よっしゃぁ!!」


 しかし、横合いからのカミングアウトに思わず硬直してヒビキの方を見てしまい、ボールを素通りさせてしまうのだった。

 相手チームの歓喜の声も気にならずに隣を見てしまう。


 「…………」

 「いや、すまん」


 影の差す眼光でヒビキを見ているとヒビキが流石に申し訳なかったのか謝ってきたが、おれの嫉妬は収まらなかった。


 おれは普通に落選してたが??

 このラッキーマンめ……。












◇◆◇◆◇◆





 そんなこともあったが、今日から夏休み。

 ヒビキは溜まった課題をひーこら言いながら片付けにかかり、道場の扱きも次第に元の状態に戻ってきた頃。


 夏休みの始まりという最高のタイミングで正式版リリースとなったルートエデンの経営陣に感謝しながら馴染みの電気屋に並ぶ。


 「ハク姉」

 「おやぁ?リクくんではないですかぁ、珍しい。といっても要件はわかってるんですけど」


 やっぱ人気なの?と聞くと、当然ですよぉ!と返ってくる。


 彼女はハク姉。近所の電気屋を夫婦で営む一児の母で、姉貴の親友であるハルカさんの元クラスメイトだ。トモエさんとも親交があるんだとか。

 高校卒業後すぐ結婚して8年以上経つが未だに夫とラブラブで新婚気分が抜けないらしい。

 会うたびに多重人格かというくらい口調がコロコロ変わるのが特徴の美人さんである。


 「えーと、予約してたはずなんですけど」

 「はいはーい、ちょっと待っててくださいね」


 とりあえず要件を言うと、リクくんもなんですねーと笑顔を浮かべながら件のルートエデンのソフトを持ってきた。


 「9800円+税ですねー」

 「ほい」

 「まいどありー。わたしも時間があるときに家族でやる予定なのでその時はよろしくおねがいしますね!」

 「そうなの?そりゃ歓迎。……じゃ、準備もあるしこれで」


 貯金を切り崩して確保したお金を出して、商品を受け取ると、挨拶もそこそこに背を向ける。

 また来てくださいねー、という声を背中に家に駆け足で向かった。



 ………そういや家族でするって言ってたが、ハクさんの娘さんはそろそろ5歳になるくらいじゃなかったかな?大丈夫だろうか……最近は全年齢対象ゲームも漢字とか普通に使うし、初ゲームがオンラインゲーとか問題ないのかな……。


 「あ………リク………ただいま」

 「うぉっ!?」


 そんなことを考えながら家につくと、家の前を不審にウロウロする貞子……失敬、姉貴に見つかる。

 心配したと言っているが、前髪が乱れて目が隠れてるのにボソボソ喋るのは普通にホラーだからやめてほしい。せめて髪を整えて外に出ろと言いながら姉貴と一緒に家に入る。


 「ただいまー」

 「おかえり、リク」


 帰ってくると、ベランダからアホ毛が返事する。

 いや、アホ毛が返事したっていうかアホ毛しか見えないだけで、あれは身長が足りなくて干された洗濯物に体の大部分が隠れた母さんである。


 おれの童顔低身長の部分は殆どが母さん譲りであり、そんな母さんは姉貴が二十代半ばを超えても146センチという年齢的にありえない身長をしている。ちなみにおれはやっと130行ったくらいだが、姉貴は親父の影響が強いのかおれの歳には既に160後半位あったらしい。

 背格好までハルカさんと同じでどちらかというと久世家の双子なんじゃないかと、一時期チェンジリング疑惑が湧いたのは我が家の数少ない黒歴史だ。


 「……ご飯たべるでしょ?」

 「うん。早くゲームしたいし」

 「………もうできてるよ」

 「そなの」

 「あ、お兄ちゃん、おかえり」

 「おう」


 ご飯の用意はすでに終わってるらしい。丁度良く上の階から降りてきた妹も入れてテーブルにつく。


 晩飯は無難にカレー。食欲をそそる匂いに3人でいただきます、と呟いた。


 親父は仕事が終わるまで少しかかるらしく、妹の美羽と姉貴も入れて3人で早めの晩ごはんを食べる。

 母さんは親父が帰ってくるまで待ってるそうで、子供だけ早く食べた形だ。


 「ごちそうさま」


 早々に食べ終わり、食器を片付けると二階の自分の部屋に上がる。


 「お兄ちゃん、もう部屋に行くの?」

 「すまん、早くやりたくてな!」

 「ゲーム……」

 「あっ、お姉ちゃんも……はぁ」


 呆れた様子の妹の溜め息が聞こえて少し揺らいだが、勢いは止まらず、自分の部屋につく。


 部屋に入ると、ゲームの設定や環境を整えてすぐに寝れる体勢に入った。


 ___さて、今回のVRゲームは本当に『別世界』に行けるかな?


 ヒビキに聞いたβテストの様子を思い浮かべて、ワクワクしながらイヤホン型のVR機器を装着した。

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