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歩いてなんぼ

作者: 孤独

ガタンゴトン


「……………」



ガタンゴトン



死ねる場所は近くにいくらでもあった。いつもみんな、勇気がないだけである。

あの長い列車にこの身体を投げれば、楽に死ねるだろう。

もうこんな人生は嫌だ。

神様に会えるのなら、もっとマシな人生にして欲しい。



ドーーーーンッ



男は駅に入って来る列車に向かって、飛び込んだ。

通勤時間帯という周囲が忙しい中でのこと。



◇       ◇



死後。すぐに意識を自覚するらしい。

あたり一面が白い空間に自分ともう一人の老人がいるだけの空間に飛ばされていた。

死んだばかりだというのに、自分の身体から溢れて来るこの元気は死を経験したばかりとは思えない。

拳を握り、声を張り上げる。


「ははは、なんだ!?体が元気だぞ!!」

「ゲームオーバーで倒れられても困るので、身体だけは戻してあげるんですよ。神様は」

「おおっ。これで新たな人生が始まるのか」


自分の近くにいる神様らしきご老人は、声を掛けてきた。

その神様からのご案内は


「じゃあ、とりあえず。神田駅からニノハタ商社ってところまで歩いて来てください」

「いや、新しい人生を始めさせろよ!なんだそれは!?ただの通勤じゃねぇか!」

「なんで自殺した人に新しい人生を勧めるんですかねぇ?」


神様は指先一つで、この白い空間を変化させ、神田駅の改札口を再現してしまう。

そして、俺の手にはいつの間にかスマホが現れ、マップ情報が載ったアプリが起動していた。


「スマホも便利になりましたね。ルートの入力したんで、歩いて来てください」

「いや、聞けって!!これじゃあ、通勤じゃん!!俺、今すぐ新しい人生やりたいの!!」

「え~~……自分がやったこと覚えてないんですか?」

「自殺しただけだろ」

「それだけ?」


勝手に自殺をするんじゃない。それでも自殺したい時はある。

だったら、手段をもうちょっと考えて欲しいと、そんな言葉を神様から返される(死ぬ事は止めない)。


「あなたのせいで、約60万人の通勤に影響が出たんですよ」

「死んだら関係ねぇだろ!」

「大アリですよ。そのせいで苦労している方がいるんです。神様らしく、死んだ魂が天国いくか地獄にいくか、判断するためにも罰や課題を与えるんです。あなたに課したのは、60万人分の通勤を行うことです」

「は~~~~!?」

「そうしないと次の人生に進めないようにしましたから。別にここに留まってもいいですけど、ずーっとお一人になられるか、更新がかんばしくなければいずれは地獄行きですよ」


地獄はどーいうところか分からない。このまま留まるのは良くない。

そんな考えをしているところに


「達成すれば、天国。あるいは素敵な人生を始められるでしょう」

「!……約束だぞ。やってやるよ!60万人の通勤を!通勤だけでいいんだよな!」

「通学も含まれてるんで、頑張ってくださいね」


神様からの優しい褒美を聞いて、男は60万人に及ぶ通勤を行った。人によっては徒歩で済むところもあれば、乗り換えがあったり、バスに乗ったりと様々。しかし、男はやっていく。死んでから毎日毎日、少しずつ。あの時止めてしまった、60万人分の通勤をやって、新たな人生を目指す。


通勤から始めた、新生活だった。



◇        ◇



ガタンゴトン


「………………」


ガタンゴトン


『次はー、神田駅。……神田駅。お乗り換えは~』


車内のアナウンスを聞いて、意識を取り戻す。

おっと、ここで乗り換えだった。

なんだか、とても長い夢だったな。



プシューーーー



「あ~、転職しよ。騙されたし~(年収だけしか良いとこなかった)」


電車から降りて歩いている周りも、自分と似たような社会人。色んな事を考えているんだろう。

辛い会社があったら、とっとと辞めちまってもいい。自分の命と娯楽が最優先だ。電車2つとバス1つの通勤なんてもうコリゴリだ。



ピローーーンッ



通勤途中にLINEでメッセージ。

この前やってみた転職サイトからのご連絡。


「おっ」


今の会社と似ているし、自分の家から近い。こんな会社があったのか。

よーし、応募してみっか。

今日はなんだか運がいいかもな。


『ご通行は左側通行でお願いします。足元の段差にお気をつけください。歩きスマホは大変危険ですので~』


駅の混雑の中に紛れて進み、早いとこ、こんな通勤と会社を辞めたいなーって思っている時。


「ん?」

「……………いってらっしゃい」

「??ああ」


どこかで会ったような、老人とすれ違っては挨拶をされる。

お客様の1人だったっけ?そんな感じであったが、すぐに忘れてしまった。

なんかの気のせいだろうって、男は会社へと向かう。

男がそのすれ違った老人とその人物の隣にいる小学生もまた、どこかに行くためか、乗り換えをしている最中のようだ。


「いいですか、のんちゃん。何事も、何気ない継続が、生命の幸福に繋がるんです」


そりゃ刺激のある生活も悪くはないのだろうけど。どんな生活にも、いつも急変するような出来事はない。淡々とこなしていくだけ、過ぎていくだけ。


「私のように、本当ならば自殺した人に対し、転職を勧めつつ希望を見いだせるよう課題を与えて、生き返らせる。そんな事だって楽しみなんですよ」

「そうですか、アシズムさん」


小学生ののんちゃんは老人のアシズムの行いに対して、すっごくバッサリと


「でも、男の人の転職先が今よりキツイブラック企業なのってどうなんですか?というか、自殺した人を助けるためじゃなくて、ブラック企業を存続させるために死者蘇生や転生とかさせるのって、アシズムさん、ホントに神様なんですか?」

「ははははは、人間観察が趣味なもんで。ごめんごめん」


…………。

今後の彼の活躍に、期待しよう。人生いつでも、波乱万丈。





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