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冒険者マリー・パスファインダーの日記  作者: 堂道形人
水夫はつらいよ

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イポリト「イサークにあんな従妹が居たのか」ヘシカ「イゲラスの所の嫁にどうかね?」コンチータ「イサークに嫁が居ないのにかい?」ロヘリオ「あんな別嬪さんイゲラスにゃ勿体ねえ」

ロイ爺はあくまで優しかった。ほっと胸を撫で下ろすマリー……いやいや、ロイ爺は本当にそれでいいの?

そんな中、マヌエラさんが一人で遠出しているという知らせが。

 イサークさんはマヌエラさんが少しボケて来ていると言っていた。私にはマヌエラさんはそこまでの歳には見えなかったが、感情の起伏きふくが激しくなっていたというのは気にかかる。


「ロイ爺はゆっくり来て、色んな意味でその方がいいでしょ」

「う、うむ、すまんの」


 私は走って隣村に向かう。


 ヴィタリスに昔は炭焼きだった老人が居て、その人は80を過ぎているのだがボケてしまっており、時々村から居なくなる。そういう時は衛兵隊長のオドランさんが皆にも協力して貰って一帯を探すのだが、若い頃から柴刈りの為に野山を駆け巡っていたそのお爺さんは今でも大変な健脚で、一筋縄では捕まえられず、皆大変困っていた。


 マヌエラさんもかなり元気そうだったよな……肥え桶を手に追い掛けて来るあの姿は夢に出そうだ。いや、そんな事考えてないで、きちんと探さないと。



 隣村の人達は、井戸端に集まって何事か話していた。余所者の私は自分から挨拶をする。


「こんにちは! 私は隣村のイサークさんの親類でマリーと言います、マヌエラおばさんがこっちに来てたとうかがいまして!」

「ああ、イサークの親類か。ちょうど今その話をしていた所だ」

「マヌエラは様子がおかしかったね、ありゃ誰かと喧嘩でもしたのかい?」


 田舎では噂話は最小限に留めろ。祖母コンスタンスの教えである。


「あ、あの、良く解らないんですけどイサークが探してるんです、どちらで見掛けられたのでしょう、教えて下さい!」

「そこの道の先の、北の峠の方だ、あの辺りは最近大きなイノシシがうろついてるから、村の者もなるべく近づかないようにしてるんだが」

「特にオスは今時分は気が立ってるからなあ」

「ありがとうございます、行ってみます!」

「お待ちよ、今、村の男手を集めているから……」



   ◇◇◇



 オオカミは、実際には余程の事がなければ人を襲ったりしない。

 それでもオオカミがちょっとでも人を傷つけると、大変な騒ぎになる。村の衆は団結して武器を取り、領主は兵を差し向け、徹底した狼狩りが始まる。


 一方、イノシシは割と気軽に人を襲う。危険を感じて襲って来る事もあれば、何かが気に入らなくて向かって来る事もある。実際イノシシに襲われて怪我をする人は後を絶たないし、命を落とす人も居ると聞く。

 そしてそんな場合には領主や騎士も参加する徹底的なイノシシ狩りがもよおされるかというと……そうでもない。ほとんどの場合は、猟師が罠をいくつか増やして終わりである。

 オオカミの側から見たら、はなはだ不公平な話ではないのだろうか。彼等はこの事についてどう考えているのだろう。


「マヌエラさぁぁん!」


 私は大声で呼び掛けながら山道を走る。この声にはマヌエラさんを探すのと同時に、イノシシを追い払う効果もあるはずである。


 船酔い知らずの魔法の服は森の中でも有効だ。その事に気づいたのは割と最近なんだけど、この魔法があれば普通なら折れてしまうような細い枝にも乗れるし、腕一本で体を引き上げる事も出来る……多分この魔法の使い方としては正しくないんだろうけど。


「マヌエラさぁぁん!!」


 私の声にマヌエラさんが反応してくれるかどうかは解らない。彼女にとって私は余所者で、ロイ爺の身内らしい小娘である。あまり気を許せる相手ではないのだろう。

 ん? あそこに何か見えますよ。

 高い木の上に登る事は探し物をする時にも有効だ。私は枝から枝へと飛び降り、発見したかごのような物に近づいて行く。



 森の高台の木陰に、かごと小さなスコップが落ちていた。近くには途中まで穴が掘られた跡もある。誰かがここで穴を掘っているのだろうか。何の為に?

 私は辺りを見回してみる……だけど周囲に気配は無い。


「マヌエラさぁぁん!」


 私はその場でもう一度叫んでみる。すると。


「ぉ、ぉぉぉぃ」


 どこか下の方から返事があった! 私は更に辺りを見回す……穴から5mくらい離れた所は景色の良い崖になっているようだが、声はその下から?

 私は崖下を見下ろす。


「……マヌエラさん!?」


 30mはあろうかという崖の中腹に、マヌエラさんは引っ掛かって止まっていた。

 崖の傾斜は結構きつく、マヌエラさんが引っ掛かった土台は決して大きくない、だけどこのくらいなら私は魔法で昇降出来そうだ。


「怪我は無いですか、マヌエラさん!」

「あ、あんたまで降りて来てどうするんだい」

「私はここを登れますから! 大丈夫ですか? 立てます?」

「腰を……腰を打って……」


 マヌエラさんが自力で立ち上がるのは苦しそうだった。それで私はマヌエラさんを担いで立てるか試そうとしたが。


「ふんぬぐぁうぁーッ!」

「無理だよ、あんた痩せてるし小さいし」


 マヌエラさんはかなりぽっちゃりとされていて、私の力は痩せたチビの小娘のそれでしかなく、船酔い知らずの魔法はこの事については何の効果も無かった。


「すみません、登って、助けを呼んで来ます……」

「そ……そうしておくれ……御願いだよ……」


 一先ずは良かった。良くないけど良かった、マヌエラさんは私を見ても怒って叩いて来たりはしなかった。

 何なら、今ロイ爺の話をするのはどうだろう? ロイ爺との間に何があったのか、許して貰う訳にはいかないのか聞いては……駄目だよ。それは卑怯ひきょうだ。


 私の船酔い知らずの魔法は、ごく小さな足場があれば体を支えられる。小さな足場からでもジャンプ出来て、小さな足場にでも着地出来る。だから船の舷側壁やこのぐらいの崖なら難なく登る事が出来る。


「き、気をつけなよ!」

「ハハッ、大丈夫です、私こういうの得意ですから!」

「あたしはトリュフを掘っていてイノシシに襲われたんだよ、体重100kgはあるオスのデカい奴だ、あいつら冬は繁殖期だからイライラしてるのさ、用心して!」


 崖の上に顔を出した私が見たのは、目の前で私を睨み付けている体重100kgはありそうな、明らかにイライラしているオスの猪だった。

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