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冒険者マリー・パスファインダーの日記  作者: 堂道形人
人生という名の冒険

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アイリ「今回は大丈夫よ、ちゃんと先手を打っておいたから」カイヴァーン「……」

フォルコン号への襲撃を撃退したマリー。だけどその事を当局には通報しないそうです。代わりにもう襲撃されないよう港へ移動して終わりですって。

 フォルコン号は航海中と同じ三直制でその夜を乗り切った。港でこんな事をするのは初めてである。


 タルカシュコーンの港は南大陸の最西端にあるのだが、港自体は泰西洋に突き出た岬の南の端の、東側に造られている。これは勿論泰西洋の荒波を避ける為だろう。朝の太陽は、東の海から昇って来る。


「買い出しはどうする? 昨日は結局何も出来なかったし」


 まあ船はゼイトゥーンに長居したばかりで、乗組員もそこまで陸の食べ物にがれてはいないのだが、目の前に港があるのに買い物に行けないというのも寂しい話だ。


「じゃあ私が買い物に行って来ます、不精ひげボート出して」


 そう言って早速舷門へ向かった私の肩を、アイリさんががっつり掴む。


「行きますじゃないでしょう貴女が一番危ないの、行かせられる訳ないじゃない」

「自慢じゃないけど船で一番逃げるのが上手いのは私ですよ、私が一番安全です」

「いいえ貴女は出て行ったら騒動を大きくするの、そして終わるまで戻らないの」



 私は結局船に置き去りにされ、買い物にはアイリとカイヴァーンが向かった。そして昨日に引き続き、私はまた暇になる。


「ねー太っちょ、カードでもしようよ」

「あ、あのね船長、僕もちょっと船を降りちゃだめかな、折角ここまで来たんだし、何か面白い物を仕入れられないかと思って」


 アレクはヤシュムなどから積んで来た商品を、ゼイトゥーンで暇にあかせて全部売ってしまっていた。それでせっかくタルカシュコーンに居るんだし、何か面白い商品を買い入れたいというのも嘘ではないと思うのだが。

 私はアレクの顔を下から覗き込む。アレクはたちまち目を逸らす。


「な、何か?」

「本当に仕入れに行くの? 昨日もロイ爺と一緒に出掛けたんじゃないの? どこで何をしてたの? まさか、父の足跡そくせきなんか探してたんじゃないでしょうね!? 言ったでしょ私、あの男の事は忘れてくれって!」


 私は逃げようとするアレクの左腕にしがみつく。アレクはますます慌てて、腕を振り解いて逃げようとする。


「解ってるよ、太っちょにとっても大事な仲間だったんでしょ、だけどあの男はその大事な仲間達を捨てて一人で勝手に居なくなったんだよ、もうあんな男の事はほっといてよ!」

「よすんだ、船長」

「勘弁してやれって」


 たちまちウラドと不精ひげが間に入る。悔しい……何で本当の事を言えないんだ。あの男(おとうさん)は今もレイヴンかどこかの大きな町の酒場だの貴族の屋敷だので、若い女に自慢のホラ話を聞かせてヘラヘラしてるのだ。それを、何も知らないリトルマリー号の水夫達が心配して……あんまりだ、こんなの。



   ◇◇◇



 アレクとロイ爺は本当に船を降りて行った。はあ。また罪悪感だけが積み重なって行く。

 船に残っているのは不精ひげとウラド、それに私、ぶち君だけである。


「ねー不精ひげでもいいからカードの相手してよ」


 不精ひげでもいいからと言われた不精ひげは、細い目をますます細めて言う。


「船長は賭けないから面白くないんだよ」

「当たり前じゃん、だめですよ博打は! アタシだってお父さんが博打好きじゃなかったらね、こんなに背ぇ低くなかったんだよ!」

「ごめん、意味が解らない」

「船長、ニック、ボートが近づいて来るぞ!」



 ウラドが言う通り、フォルコン号に一隻のボートが近づいて来る。見た目はパン屋にもレイヴン海軍兵にも見えない、現地の役人さんらしき人が乗っている。


「フォルコン号、パスファインダー船長!」

「はい! 私がマリー船長です!」

「王宮からの使者が波止場にお越しです、同行していただきたい!」



 まさかこれもパン屋の陰謀という事はないだろうか? まあ仮にその疑いがあったとしても、私の立場では同行を断るという事は出来ない。


「じゃあ行かないといけませんね、どうしよう、着替えようか」


 私は今日は銃士マリーの服を着ていた……まあこれでいいや、タルカシュコーンの王様は決して華美な服装はされてなかった。


「ちょっと待て船長、アイリさんが戻って来てからじゃ駄目か?」

「王宮の使いを待たせる訳には行きませんよ」

「今誰も居ないじゃないか、ウラド、船長について行ってくれないか」

「わ、私の種族の者が王宮の使いは無い、ニックは昨日も行ったのだろう」

「俺は昨日襲撃されたんだぞ、誰かと間違えられて」

「いいから二人はフォルコン号を守ってて! 行くよぶち君!」


 大の男二人は、どちらも遠慮してついて来ない。

 一方ぶち君は私が呼ぶ前から、当たり前のような顔をして役人さんのボートに乗り込んでいた。



   ◇◇◇



 波止場で待っていたのはパン屋の秘密組織……ではなく昨日の幌付きの四輪馬車、ならぬラクダ車だった。馭者ぎょしゃも昨日の人だな。


「今日はアミール王子が御会いになられます」


 同行の役人さんが言う。なんと、今度は王子様が出て来るんですか。アイリさんって運の無い人だよなー。どうしてこういう機会に限って居ないのだろう。



   ◇◇◇



 私が案内されたのは敷地内の昨日と違う建物だった。

 庭には実に見事な花壇がある。小まめに手入れされているのだろう、様々な花や葉が瑞々(みずみず)しく生い茂っている。この辺りの野山は今は乾季なので草花は少ないのだが……ここはまるで別世界だ。


 建物の二階の応接間でぶち君と待っていると、三階から大変恰幅の良い、栗色の肌の男の人が降りて来た。質素だが清潔で手入れの良いガラベーヤを着ている。


「わざわざ御足労いただいて申し訳ありません、私はムスタファの息子でアミールと申します。父は最近体調を崩しておりますので、イマード首長の親書の件は私が責任を持って当たらせていただく事になりました」


 アミール王子はそう言って、福々しい御顔をますます丸めて微笑む。年上の貴人に向かってこんな事を思うのは失礼かもしれないが、何とも可愛らしい人だ。



 私は庭を見下ろすバルコニーのテーブルの席に案内された。ここからは素敵な庭が一望出来る。


「昨日は父の機嫌があまりよくなかったのではないでしょうか。申し訳ないです」

「い、いいえそんな事はありません、良くしていただきました」

「北大陸の列強諸国は毎月のように父に外交要求を突き付けて来て、父はその対応に疲れているのです。まあ、その他の理由もあるのですが」


 タルカシュコーンは、北大陸諸国にとって非常に重要な港となった。

 だけどそれがタルカシュコーンの人々にとって何だと言うのか。


「マジュドも北大陸列強に振り回される立場にありますので……どうにか貴国と共同歩調を取って対抗出来ないかと、イマード首長は考えているのですが」

「しかし私共がマジュドと共同した事を知れば、列強はその件に対しては列強同士で共同して対処して来るでしょう……父もそれで慎重になっているようです」


 アミール王子はそう言って、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。そっか。よく解らないけど難しいのね。

 しかしここで引き下がってしまっては子供の使いになってしまう……いやまあ私は子供の使いなんだけど。


「北大陸列強にも色々な思惑の違いがありますから、私達も情報を共有する事で、出来るようになる事があると思うんです。イマード首長はロングストーンやストークなどの新興勢力を取り込んで対抗しています。それに……」


 私は意味ありげに窓辺に歩み寄る。


「タルカシュコーンの町、()は初めて来たんですが……本当に良い活気のある素晴らしい町ですね。私は昨日モーラのお料理をいただきました、宮廷や資産家に雇われた料理人ではなく、町で立派に独立営業されているのです。私は最近レイヴンの首都ブレイビスに行きましたが、あの町にだってこれ程の多様性はありません、この町は本当に素晴らしい」


 窓辺で偉そうに腕組みをしている田舎のお針子に気分を害した様子もなく、アミール殿下は微笑んで答える。


「モーラの料理ですか、私もなかなかここを離れる機会がないので頂いた事はないのですが、スパイスの使い方が独特と聞きますね」


 私は満面の笑みを浮かべて振り返る。


「そうなんです! 私も初めて食べるはずなのに、食べる前から香りを嗅いだだけで美味しいと解るんですよ、まるで魔法のようです、殿下、この機会にいかがですか、初めてこの港に来た私がおこがましいとは思いますが、ここは私に殿下の御昼食を案内させてはいただけませんか?」

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