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冒険者マリー・パスファインダーの日記  作者: 堂道形人
人生という名の冒険

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エルゲラ「居たなあ、そんなやつ。元気にしてるんだろうかねぇ……」

マリーでした(白目)まあ、そうだよね。

思いつきで行動しろって言っても、限度があるんじゃないかしら。

 翌日も、その翌日も、ラクダの旅は続く。


 周囲の環境は少しずつ変わって来た。砂漠の灌木の姿が次第に増え、地面も乾燥した草に覆われ始める。乾燥に強い樹木の姿も見られるようになり、時にはそれが密生している事もある。


 動物達の姿も目につくようになって来た。大柄な羚羊レイヨウ類の群れが遠くで列を成して歩いている。


 緑の草地にはより小柄な羚羊レイヨウ類の群れが居た。オスは立派な角をつけ、化粧をしたような派手な顔をしている。

 音も増えて来た。風が木々を揺らす音、小鳥がきながら飛び立つ音。動物達も時折、遠くで声を上げている。


「のどかな眺めだね」


 サリームは遠くを見つめてそうつぶやいた。その途端。遠くの丘の向こうから、ラクダのような長い首の生き物が数頭、顔を覗かせる。何だか慌てているようにも見えるが。

 生き物は丘を越えてこちらに向かって来る……しかしその首が本当に長い、首が長くてなかなか胴体が見えない。


 サリームは以前知り合いの学者の家で何度も何度も読ませてもらった博物辞典で、その生き物の事を少し知っていた。


「あれは……キリン?」


 酷く首の長い馬とは読んでいたが、正確には足も長い。とにかくその全長5mはありそうな黄色と茶色のまだら模様の馬のような生き物が、何かに追われて逃げているのだ。

 追跡者は、すぐに現れた。


「あれは知っている。ライオンだ」

「うわああ!?」


 三頭のキリンを追い掛けて現れたのは、三頭の若いオスのライオンだった。周りに居た羚羊レイヨウ類も慌てて逃げ惑う。


「何してるんだ、俺達も逃げねえと!」

「音も聞こえないくらい遠いんだよ、大丈夫大丈夫」

「そ……そうなのか?」


 サリームはレイヨウやキリン、ライオンを見るのは初めてだったが、慌てる事はなかった。


「目の前に現れたら、大変だけどね」


 ライオン達は結局キリンにもレイヨウにも逃げられ、肩をすぼめて、元来た方へ去って行く。


「なんだか俺達みたいですね、あいつら」

「ああ? 縁起でもねえ事言うな!」



 さらに翌日には、周囲の環境は完全にサバンナと呼ばれるものになっていた。

 アカシアの大木やバオバブの巨木などの樹木が点在し、時には低木が密生する。地表の多くは乾燥に強い草に覆われていて、川や池などの水場も少なからず存在する。

 虫や鳥、小動物、さらには大きな草食動物や肉食獣まで、さまざまな生き物が住む生命力溢れる大地だ。



   ◇◇◇



「爺さん、あんた実は色んな所を旅して来た、冒険者なんじゃねーか?」


 夕方。この日の野営地で、カートンはそう切り出した。ライオンやその他の厄介な動物が近づいて来ないよう、焚き火はかなり盛大に焚かれていた。


「そ……そんな事はない、私は都会人、野宿だってほとんどした事がない」

「本当かよ。それにしちゃあ随分(はら)わってるじゃねえか。ライオンの群れを見てもまゆ一つ動かさねえ」


 老サリームの眉毛は刷毛のように太くて長い。前髪も長いのでクーフィーヤが作る影とあわせて、外からでは瞳が全く見えない。だから表情が解りにくい。


「ホッホ、年寄りだから反応が鈍いだけさ。君達こそ噂にたがわぬ勇士だ。私の判断は間違っていなかった。君は金貨20枚は高いと言ったが、キャラバンを雇ったらもっと金がかかるし、彼等は君達のように危険を冒してはくれない」


 カートンは考える。なるほど、そういうものなのか。サリームはやはり旅慣れた男なのだ。そして平凡な多数を雇うより、少数の精鋭を雇う方が効率的だと考えているらしい。


 という事はつまり、あの大金でのオファーは当然の事だったのか? 自分は変な遠慮をしてそれを断ってしまったが、そうすべきではなかったのか?

 カートンは思う。フォルコン船長ならどうしていたか。フォルコン船長なら……間違いなくそのまま週に金貨20枚受け取っていただろう。それが大物(ビッグ)というものだ。

 いや。自分達はまだ大物(ビッグ)でも有名(メジャー)でもない。今の自分達なら一日銀貨5枚が妥当だ……いつか大物(ビッグ)になった時はもっと貰う。それだけだ。


「さあ、ウナギが焼けただよ」


 焚き火の上では不気味なぐらい大きく寸胴な地ウナギが焼かれていた。おびたたしい量のあぶらが焼け焦げてバチバチと音を立ててしたたる……アイビスあたりで獲れるウナギと比べると、身が固く骨も大きそうだ。獲ったのはバクロだが開いてくれたのはサリームである。


「うむ、中までよく火が通ったようだ」


 サリームは大きな岩の上で焼けたウナギを10cm幅に切る。若者達はそれをさじで刺して喰らう。


「アチチチ……ピロ、塩貸してくれ」

「どうぞ兄貴」

「あがが、噛みきれない」

「でもうめえ」


 ナツメヤシにも飽き飽きしていた四人は、野性味あふれる地ウナギをめいめいに堪能たんのうする。



「そろそろ教えてくれよ。ナーディルってのはどんな奴なんだ?」


 食事をしながら、カートンはそう尋ねる。当然だろう。そういう人探しをする為に旅をしているのだから。サリームはここまで、ナーディルという人物の人となりに関して何も話していなかった。


「う、うむ……年は私と同じくらいで、男だ」

「爺さんなんだな。それから?」

「それから……髪は黒髪で長い、背は私より少し高い……」

「いや、そういうんじゃなくてよ、どんな奴なんだ? 仕事は何をしてる? 金鉱石の取り引きに行ったと言うが一人で行った訳じゃねえだろ? とにかく何でも話してくれ、何が訳に立つかわかんねえから」


 サリームは少し後ずさりして、少しの間固まっていた。カートンはウナギの刺さったさじを持ったままサリームに近づく。


「……む?」


 辺りを見回していたサリームは、近くの森に目を留める。この辺りはサバンナとジャングルの境界線になっていた。低い土地には密度の高い植生が広がり、密林を形成している。


「どうした爺さん?」

「今そこに誰か居たような……いいや! 居る、あれは! おお、あれはナーディル君に違いない、なんと、こんな所で会えるとは!」


 サリームは突然そう叫んだ。そしてカートンの方に振り向いてうなずき、また密林の方を見る。


「待てじいさん、どこに居るんだ? その人は」

「どこって、そこに居るだろう、いや、いいんだ、はははは、驚いたよカートン君、君は間違いなく英雄だ、こんなに早く私の友達を見つけてくれるとは!」


 カートンは密林に目を凝らす。しかしカートンの目にはどうしても、そこにナーディルという名のマジュドから金鉱石の取り引きに来た老人が居るようには見えなかった。


「ここで待っていておくれ、まず私が挨拶して、それからここに連れて来るから」


 サリームはそう言って、密林の方に走って行く。その様子は軽快で素早く、とても老人のそれには見えなかった。


「ええ……マジかよ……ナーディルって奴はこんな所で何をしてたんだ」


 カートンもピロもバクロも、走り去るサリームの背中を見つめ一様に首をひねる。



 マリーは斜面を駆け下り、小さな枯れた川の向こうにある密林へと駆け寄る。ここまで来ればカートン達に声を聞かれる心配は無い。


「オランジュさーん!」


 マリーは見たのだ。アイビス海兵隊の士官で、かつては連絡船ポンドスケーター号付きの少尉だったが、ゲスピノッサ討伐戦の成功により二階級特進してグラスト第一艦隊の旗艦海兵隊長として勤務していた、レオン・オランジュ大尉の背中を。


「こんな所で何をしてるんですかオランジュ大尉! やっぱり提督に嫌われて左遷されたんですか!? でもここで会えて良かった、オランジュさん御願いがあるんです、ちょっと芝居に付き合ってはいただけませんか、マジュドから来たナーディルさんという人に成り済まして欲しいんです!」


 マリーは密林の中で、背中を向けてたたずんでいたオランジュ大尉の肩に手を置く。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わかってても笑う
[一言] サバンナ…オランジュ… それってゴリrいや、何でもない
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