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勇者大戦マグナレイド  作者: 青木のう
第1章 In the Hell
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第8話 古代魔法

 マグナ達が勇者召喚されたこの世界には、六人の神様に対応した六種類の魔法属性が存在する。すなわち、火、水、地、風、光、そして闇の六種類……というのが、彼が座学で得た知識だ。


古代魔法(こだいまほう)は、それら六属性とは違う魔法体系の魔法だ。系統化され、扱いやすくなるにつれ、人類から忘れ去られた古の魔法)

「えーっとつまり、進化の過程で淘汰された魔法ってことか? それって六属性より劣るから消えていったんじゃ……?」

(決してそうではない。扱いが難しかったり、魔法学者の考案した系統に不都合だったりして外されただけだ。むしろ()()()()()()()()()だったと記憶している)


 “強力”という言葉に思わずごくりと唾を飲みこむ。この世界に来て何度か魔法というものを目にする機会があった。それよりも強力な力を行使できる可能性がある。その可能性だけでマグナは身が震えた。


(私は君から確かに魔力を感じた。けれど魔力測定の水晶は反応せず、現行の魔錬機(マギティファクト)は反応しなかった。それはなぜか? 君の魔力が古代魔法に由来するもので、現代において使用される魔道具とは――言わば相性が悪かったのだと私は考えている)

「それってハイオクの車にレギュラー入れたり、軽自動車に軽油入れたりみたいな感じか?」

(その例えはよくわからないが、燃料の相性ということだろうか? だとすれば肯定する)


 人が食事をしなければ活動できないように、機械も適切な燃料を得なければ動作しない。それは魔法という、文明世界に慣れ親しんだマグナからしてみれば非科学的な存在を(ことわり)とするこの世界でも同じことだった。


「ん? その話の感じだと、つまり〈レイド〉は現代魔法の魔力とは相性が悪いのか?」

(肯定する。長く休眠していたため記憶があやふやな部分があるが、私の建造時期は遥か昔だ。現代の体系化された魔法よりも、どちらかというと古代魔法の方が相性いいのだと思う。マグナの魔力に反応して目覚めたことからの推定だがな)


 なるほど。それだと辻褄があうかと、マグナは納得した。彼この喋る魔錬機〈レイド〉の事を完全に信用しているわけではない。だが、今のところ嘘をついていないと思う。


「で〈レイド〉、その古代魔法とやらを俺はどうやって使えばいいんだ?」

(ふむ……、いろいろあるが、感じる魔力からすると《融合(ゆうごう)》の魔法が相性良さそうだ)

「ゆうごう……物事を繋ぎ合わせるという意味の《融合》か?」

(肯定だ。《融合》とは、その名の如く他の物を一時的に一体とする魔法だ。魔力を流し込んで物質や肉体を強化する光属性の魔法があるが、《融合》はそれよりもはるかに強大で応用が効く……と思う)


 “思う”。“思う”かとマグナは心の中で溜息を吐く。〈レイド〉は嘘をついていない。嘘をついていないが、いかんせん長い間眠りについていただけに記憶は不確かだ。……けれど仕方ない。マグナには他に掴むべき(わら)は存在しないのだと、首を振って疑惑の心を封じ込んだ。


「まあいい、強化魔法というとイッセイのギフトのあれか。で、その《融合》魔法ってのはどう使うんだ?」

(マグナ、試しにそこにある金属の棒を手に持ってくれ)

「わかった。――これか」


 マグナは、〈レイド〉の指示通り近くにあった金属棒を右手に取り握りしめた。金属特有のひんやりとした感触が手に伝わる。


「次は?」

(魔力を込めるんだ)

「いや、その魔力の込め方がわからないんだって……」


 マグナが呆れて返すと、〈レイド〉は「むむっ……、すまない」と謝りうなるように考え込んだ。やがて何か閃いたのか、再びマグナの中に声が響いた。


(その握った鉄も、自分の身体の一部だと考えるんだ)

「身体の一部?」

(肯定だ。その鉄にも血が流れていると思うんだ。自分と物との境界をなくし、魂すら結びつくように)

「魂すら……わかった!」


 機械の〈レイド〉が魂なんて言うのを不思議に思ったが、言いたいことはわかった。マグナは瞳をつむって身体の内を流れる血液を思い描き、それを右手に握る無機質な鉄の棒へと流し込もうとする。


 マグナの心臓から肩、腕を通ってやがて指先へ。神経の一本一本、血管の一筋一筋を意識し、自分の魂が熱となって溶けあうのをイメージする。


 握る鉄の棒から熱を感じてきた。マグナの掌と鉄の棒との境目が、曖昧になっていく気がする。身体を伝う脈動が、呼吸が、彼の全てが無機質な金属に命を吹き込んでいる気がする。そして――。


(唱えろ、マグナ!)

「ああ! 《融合》!」


 ――周囲の目なんて気にせず、渾身(こんしん)の想いを込めて叫んだ。


「……やったか?」


 ゆっくりと目を開ける。そこには――。


「って、何もなってねえじゃねえか!」


 ――瞳を閉じる前となんら変わらぬ、ただの鉄の棒を握るマグナの右手があった。


 遠くにはこちらを見てひそひそ話をする兵士の姿が見える。もはや怒鳴り散らすなんてことはしない。哀れみすらこもった目だ。


(む……、そのようだな)

「そのようだな、じゃないわ! どういうことだよ!?」

(むう……。私の見立ては間違っていないと思ったのだが……)

「間違っていたからこの結果じゃないのか?」

(申し開きようがない……)


 まったく、頼りにならないやつだとマグナは心の中で毒づく。〈レイド〉の言葉に彼は少し――いいや、大いに期待していた。ここから逆転できるのではないか、川尻をはじめとした周囲を見返してやることができるのではないかと思い描いていた。上げて落とす。それだけに余計落胆が大きい。だが。


「ま、猿も木から落ちるって言うし、間違うことは誰だってあるよな」

(マグナ……?)

「なあ〈レイド〉、古代魔法ってのは《融合》だけじゃないんだろう?」

(肯定だ。私の知識の中に、他にもいくつか記憶がある)

「ならいろいろ試してみようぜ。《融合》も一回失敗しただけだしな。毎日掃除を頑張っていたおかげで、この砦は磨くところがないくらいピカピカだ。つまり、幸いにして時間だけはあるってことさ」


 落胆したのは事実だが、何かを失ったわけでない。しょせんギフトと魔力がなくて元々の“無能勇者”なのだから、へこむ理由もない。ゼロがゼロで変わらないだけで、マイナスになったわけではないのだ。


(その意気だ。素晴らしい心構えだと思うぞマグナ。人の一生は、重き荷を背負うて遠き道を行くが如し。急ぐべからず、と言うからな)

「へえ、努力と忍耐ってことか。誰の言葉だ?」

(私を造った人間がよく言っていたような記憶がある。確か……、その者の上司の()()()()なる人物が遺した言葉だとか。それだけは妙に記憶に残っているんだ)

「ゴンゲン、ねえ……」


 〈レイド〉を造り上げた人物なら大昔の人間、その上司ともなればこの世界の昔の王族だろうと思うが、それが古代魔法の習得に繋がるヒントかと言えばそうでもないだろう。マグナは雑談の内容を頭の片隅へと押しやった。


「さあ〈レイド〉、教えてくれ。お前が知っている他の古代魔法を」

(心得た!)


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