第1話 In the Hell
☆☆☆☆☆は場面転換です
よろしくお願いします
村が燃えている。炎の中を逃げ惑う人々の嘆きの声が聞こえる。
恐怖、絶望、悲嘆、そんな感情が渦巻くこの地獄を演出した主は、炎の中にたたずんでいる。
人よりもはるかに巨大。全長十メートルほどの魔力を動力源に動く、騎乗式人型魔導兵器――通称【魔錬機】。それが地獄の主の名だ。
このガルダナ大陸を覆う戦乱と共に広く普及し、今では彼らの様な傭兵崩れの山賊共も使うようになった鉄の巨人。魔錬機は搭乗者の魔力を高め、その鋼の巨躯で矢や魔法を弾く戦場の支配者で、同じ魔錬機でなければ対処は困難を極める。
この辺境のラッセル村の様な場所に至っては、この地を統治する領主の軍勢も駆けつけるのは遅いだろうし、この山賊共のグレーのボディをした魔錬機〈牛頭鬼〉はまさに絶対的な強者と言える。
――が、一つだけ彼らには誤算があった。
この村には彼らのモノ以外の魔錬機が存在するということだ。
それが【松平マグナ】の操る魔錬機〈マグナレイド〉だ。
鎧武者の様ないかにも戦闘用といったフォルム。しかしそれに反して、戦場には似つかわしくないレモンイエロー色のド派手なボディカラーが目を引く。それがこの〈マグナレイド〉と呼ばれる魔錬機だ。
(マグナ、敵の魔錬機が来ているぞ!)
「わかっている【レイド】! ――ぐっ!?」
マグナの脳内に警告の声が響く――そして瞬間、敵機の刀の切っ先がこちらをかすめた。かすめた右肩に鋭い痛みを感じる。
当然の話だが通常、単なる兵器であるはずの魔錬機が受けたダメージを搭乗者が受けるはずなんてない。だがマグナは受ける。なぜならば、彼と魔錬機〈マグナレイド〉は本当の意味で一心同体だからだ。
『次が来るぞ!』
「ああ、だが攻撃は見切った!」
マグナは腰から刀を引き抜くと、そのまま振りかぶってきた敵機の腕に一撃。その握った刀ごと右腕を斬り飛ばした。〈牛頭鬼〉はたまらず距離を取り、マグナの追撃を防ぐ。
「てめえマグナ! 無能勇者のくせにやるじゃねえかッ!」
「川尻……!」
知り合いだ。
対峙する敵の名前は【川尻マサヤ】。かつて高校で、マグナのクラスメイトだった男だ。そして――、
「俺がなんて呼ばれているか、お前も知っているよなあ?」
「“武器の勇者”……!」
――そして、“武器の勇者”の称号を戴く、いわゆる異世界転移者でもある。
「正解ッ! 《武器錬成》!」
瞬間――何も握っていなかったはずの〈牛頭鬼〉の左腕にはトゲトゲとした凶悪な形のメイスが握られ、そしてあろうことか斬り飛ばしたはずの右腕も再生し、その手にも同様のメイスが握られた。
「再生……!? 魔錬機自体もか!」
「その通り! この俺の力も以前より高まっているんだよ! オラアッ!」
攻守逆転。連続して振り下ろされるメイスをマグナは懸命に回避する。
マサヤの攻撃に、かつてクラスメイトだったという情は全く感じない。存在するのはただ明確な殺意だけだ。
「どうだ“無能勇者”ァ? この“武器の勇者”様の攻撃は!」
「ぐっ……!」
(マグナ、このままではまずいぞ!)
「わかっている! というかそう言う暇があるのなら、レイドも何か考えてくれ!」
マグナは回避に専念しながらも、ろくなアドバイスもくれない自称歴戦の勇士である相棒に悪態をつく。戦いなんてものは素人の彼が今日まで生き残れてきたのは、レイドのおかげによる部分が大きいのだが、それはそれとして何とも他人事の様な発言にイラついていた。
(レイドのやつ、文句を言うばかりでちっとも戦闘のアドバイスをくれはしない。今更思うが、だから倉庫の片隅で”くず鉄”扱いだったんじゃ――)
(聞こえているぞマグナ。この私は決してくず鉄なんかじゃない。いいか、私は――)
「説教はいい!」
思わず心の中で悪態をついていたマグナだが、魔錬機〈レイド〉と《融合》している今、それらは筒抜けだったことを思い出し少し反省する。
だが、そういったくだらない雑念の類でさえ把握しているのなら、彼が考えている策も瞬時に理解してくれているということだ。
「終わりだア、無能野郎ッ!」
川尻の機体が、こちらにとどめをさそうと勢いよく迫ってくる。
「まだだ。まだ。ビビるなよ俺」とマグナは自分に言い聞かせる。
まだ遠い。あと少し。川尻が勝利を確信して腕を大きく振りかぶる――その隙をマグナは待っていた。
「《雷撃》ッ!」
――刹那、〈マグナレイド〉の右腕から一筋の雷光が激しい光とともに迸り、〈牛骨鬼〉へと直撃した。
「ぐわっ!? 何だ、魔法だと!?」
「ああそうだよ。お前も当然知っているよな? 風属性魔法の《雷撃》。どうだ? 痺れたか? 痺れただろう? 痺れるよなあ!?」
「な、なんでお前が魔法を……? それにその魔法は、瀬名の……! ぐおっ!?」
稲妻によって痺れ動揺した川尻の乗る〈牛骨鬼〉に、マグナはすかさず足払いをして組み伏せる。
手には再び刀を握った。その切っ先を〈牛骨鬼〉の操縦席のあたりに突きつけた。
「気になるよなあ? なんなら俺自身不思議だよ。……試してみるか?」
「な、何を……!」
「俺の能力をだ! 俺が戦場で死肉を食らう死体漁りなのか、はたまたこの勇者大戦なんて馬鹿げた戦いを終わらせる“真の勇者”なのかを、お前の命を使って!」
果てしない戦いの続くガルダナ大陸。
長きに渡るその戦いはいつしか、俗に【勇者大戦】と呼ばれていた。
令和日本で平和にごく普通の高校生活をおくっていた松平マグナや川尻マサヤが、何故こんな血なまぐさい地獄の底の様な世界で命をかけて戦っているかは、実に三年前にまで遡る――。
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