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 7 契機 (2)

 



 此処へ至る経緯を説明し終えると、それまで聞き手一方だったサミュエル司教の口から特徴の合う少女が一人、この孤児院に出入りしていると告げられた。

 慎重に言葉を選んで話し出す司教が言うには、その少女は孤児院預かりの者ではなく司教に頼まれて無償で子供達に勉強を教えに来ているそうだ。

 他所の家の娘だったかと、胸の内の熱い何かが冷えていくのを感じていると、司教の続く話に再び心臓がドクンと跳ねた。



「その娘は幼い頃両親を亡くして親戚筋の家の者に引き取られたのですーー」



 この町に住む老婦人に親戚の不報が届けられ、唯一の身内と言える老婦人は自分の姪を迎えに寄越したのだという。


 まだ夫婦も若かったろうに幼い子供を残して残念なことです…と司教の話は続いていたが、既にフレデリックの耳にはそんな呟きは届かなかった。



 よかった、その少女が件の娘かもしれない。どうやらこの町にいるらしい。ここまで来た甲斐があった。



 不謹慎にも心の内で密かに安堵し、その少女について司教の知る限りを教えて貰った後、この事は口外しないよう頼んだ。

 翌日、いつものように孤児院へやって来るアデルという名のその少女を、本人には気付かれないようにそっと覗き見した。


 明るい鳶色の髪色は、前妻であるアネットよりは少し色が濃いだろうか。

 12歳の年頃の少女の背丈がどの程度が平均なのかフレデリックには分からないが、それ程小さい方とも思えない。因みにアネットは背丈は平均的、フレデリックは背丈はやや高い方だ。

 遠くから見た分には顔立ちも瞳の色も残念ながらよく分からなかったが、成る程、自分と似ていなくはないようにも思う。

 ただフレデリックは自分の幼い頃の顔立ちなど既に記憶の彼方であったが、屋敷に一幅だけ掛かっている家族の肖像画では今の顔立ちと随分雰囲気が違う。

 古くから仕えてくれる家令に言わせると、ワイデマン家の家系の顔形は幼い頃と大人になってからとで大層変わってくるそうだ。


 遠目に見る娘を注意深く観察し、気がつけば少しでも血の繋がりを感じさせる所はないかと探していた。




 結局、これという確信も証左も得られぬままいつまでもこの町に留まる訳にもいかずにサミュエル司教には他言無用と念を押し町を後にした。


 とりあえず王都に戻ったフレデリックは人を遣ってアデルの身辺を探らせたが、芳しい成果は得られなかった。


 報告によると、アデルは両親と三人でフレデリックの訪ねて行った町とは遠く離れた村にある日やって来て移り住んだ。親子仲良く倹しく暮らしていたが、アデルが六才の頃、両親は揃って事故で亡くなった。今アデルの後見をしているのは母方の親戚に当たる老婦人で唯一の身内となるらしく、身を寄せている女とはアデルは血縁にはない。

 歳のいった老婦人では小さい女の子の世話は難しいと、老婦人が近くに住む姪に金を払って世話をさせているところまではすぐに分かった。

 しかしなぜかそれ以上の事実が出てこなかった。

 親子はいつから村に住んでいたのか、彼らのそれ以前を知る人物がいない。

 どこから来たのか、両親の出身や生い立ちが不明瞭なままだった。

 この世の中、そんな人は五万といるだろうが、知ろうとして分からないというのはどうしても引っかかってしまう。

反対に、アネットの実家近辺へもひっそりと調査に向かわせた。が、此方も何の音沙汰もない。


 調べが付かない中少女が気になり、フレデリックは田舎の町に足を運んで陰から見守るようになった。


 そうしてまだ何をどうするとも決めかねていた時だった。再び町を訪れて通りを行くアデルを見守っていると、平たい大きな箱を抱えた彼女がバランスを崩し、つい体が動いてしまった。








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