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 15 転機 (2)

 新年、明けましておめでとうございます。

 



「王都の学校に行く気はないかい?」



 耳に届いた言葉の意味が最初は分からなかった。

 オウトノガッコウ……オウトノ、ガッコウ……王都の、学校?



 アデルの頭の中を草原を駆け巡るつむじ風よろしくフレデリックのかけた言葉がぐるぐるとしている間に、フレデリックは言葉を継いだ。



「君はとても優秀だし、何よりも向上心がある。私は君の伸び代が何処まで伸びるのか見てみたいし、もっと広い世界を見せてあげたい」



 はっきりと力強く言い切られてアデルは先程の言葉の意味をやっと理解した。どうやら自分の耳は正常に機能していたらしい。

 けれどあまりにも急な話にアデルはなんと答えていいのか分からなかった。



「わ、わわ、私がですか!? む、無理です、私が王都の学校へ行くなんて! 王都の学校って、この前ワイデマン様がお話して下さった所の事ですよね? 貴族の人達や平民でも物凄く優秀な人達が集まるって言う……」



 フレデリックの突飛な発言に目を白黒させながらアデルは訊ねた。

 そんなアデルに面白そうに小さくククッと笑って、フレデリックは話を続ける。



「優秀…な人物ばかりかどうかはさておき、君の学力ならば大丈夫だよ。勿論、このまま直ぐにという訳にはいかない。これからもう少しきちんと勉強して、一般教養とマナーも勉強するといい。問題ない。手続きも全て私の方で手配しよう。安心して勉強に専念して欲しい」



 問題ないって、問題ないことないでしょう!ありまくりでしょう!!

 心の中で叫ぶアデルの声はフレデリックには届かない。目をまん丸にして驚くアデルを可笑しそうに見つめている。

 少しして落ち着きを取り戻したアデルは(かぶり)を振ってフレデリックに答えた。



「そんな事無理です。私なんかが行ける訳ないじゃないですか! 大体おばさんや大伯母さまが許してくれる訳ありません。ワイデマンさまがそうまで言ってくださるのは嬉しいですけど…」



「決めつけるのはよくないよ、アデル。私は君なら出来ると思ったから勧めたんだ。私が信じられないかい?」



「ワイデマンさま…」



「君の保護者たちの事は私に任せてくれ、私が説得する。勿論君がその気になってくれればの話だけど。いいかい、よく考えてみるんだ、学校へ行く事は君の将来に必ず役に立つ」



 そう言ってじっとアデルを見つめ返事を待つフレデリックにアデルは「しばらく考えさせて下さい」と返した。





 フレデリックが帰り、アデルは孤児院の隣、教殿の裏手にある開けた物干場に来ていた。此処は時間帯によっては陽もよく当たり、けれど子供達もあまり来ないアデルの密かな憩いの場だった。


 取り込んだ洗濯物の入った籠を脇に下ろし、二つある切り株の一つに腰掛ける。この切り株はいつも一休みするのに丁度いい。ふと、残ったもう一つの切り株に目を向ける。

 アデルの座った切り株よりも少しだけ高さのあるその切り株に手を伸ばし、そっとそのざらつく表面を撫でてみた。茶色い埃や砂礫が掌に付いた。表面に浮かぶ細かな年輪を見ながら先程のフレデリックの話を思い出していた。


 前に王都の学校の話を聞いた時にはただ単純に憧れた。アデルのような田舎娘からしたらそこは別世界のように感じられた。フレデリックから聞いた話では王都には三つの学校があるそうだ。一つは貴族や裕福な平民が主に通う王立学院。一つは騎士を目指す者が行く王国立騎士学校。残る一つは身分的にも費用面でも比較的通い易い王国立学園。

 後の二つは王国立とあるように国の運営だが、学院の王立とは王家の所有である事を意味している。

 其々が十三歳以上から三年間学び、卒業後は各々の道を進んでいく。

 特に優秀であり諸条件を満たせば裕福でなくても学院に通う庶民もいるそうだが、ここでフレデリックがアデルを誘った学校とは勿論平民や下位貴族家の者が多く通う学園の方だろう。それでもアデルのような娘には降って湧いたような幸運に思えた。


 私が学校に通えるの…? ここから、この町から出て王都の学校に…?


 暫くしてアデルはそっと手をはたくと立ち上がり籠を拾い上げると物干場を後にした。





お読みいただき、ありがとうございます。

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