第二話 舞島マイカの好き嫌い。1
今回も長くなってしまったので、書き上げた一話分をセパレートしました。
後編は明日の昼頃に上げようと思います。
それと言い忘れてましたが、この小説は貞操逆転しません。
一応一話目にも同じ注意喚起を載せておこうと思います。
決して釣りではないので。
「マイカおっはよー!」
「あ、エリじゃん。おはよう」
帝総高校の最寄り駅である義矢九駅から電車を降りた私に丁度同じ電車に乗り合わせていたらしい、同じダンス部の友達であるエリが声を掛けてきた。
「マイカ今日は痴漢大丈夫だった?」
「ああ、今日は周りを睨みながら乗車したからな。それに昨日は未遂で捕まえたし、襲われてもあたしは大丈夫だよ」
エリが心配そうに痴漢について聞いてきたがそれもそのはず、私は昨日痴漢をされた。いや、されかけたの間違いか。
そこまで混んでいない電車の中で異常に距離の近いおっさんが真後ろにいて、息を荒くして突っ立ってたから「なんか用か?」と言ったら突然謝りだして流れるように痴漢を自白。
どうやらあたしの匂いを嗅ぎたかったらしい。ゆくゆくは身体を……とか言ってたから絞めたけど。
たいていの男は気が弱くて困る。
あたしは別に不良でもないし、テストの点数だって赤点を切ったことは無い。
少しだけ口が悪いのと、あと派手な洋服が好きなだけ。
なのに周りの男子は距離を置くし、勘違いした不良男子は逆に寄ってくるし、もう最悪だ。
そんなこんなで心許せる異性は人生で一人もいたことが無い。当然好きな男もいない。
でもいいんだ、あたしにはダンスがある!
あたしの恋人はダンスだ!
……これは誰にも言わない方がいいな。
「まあ痴漢なんて気にしないで部活行こうぜ、エリ!」
「ええ、私結構心配してるんだけどな……。まあマイカが大丈夫って言うなら大丈夫か。よし、今日もがんばろー!」
「「おー!」」
今日は土曜で学校は休みだ。あたしたちは部室兼更衣室に行き、すでに着替え終えた後輩に挨拶されて着替えを始める。
この部活に先輩はいない。
何故ならあたしが部をゼロから作ったからだ。
しかしあたしが作った部活も大きくなったなぁ……。
「あ、そういえばマイカ聞いた?」
「ん? 何をだ?」
着替え終わったエリカが突然思い出したかのように話しかけてきた。
「今日の部活、男子が手伝いに来るらしいよ」
「は? 手伝い? 男子?」
いきなりの報告にシューズの紐を結ぶ手が止まる。
「手伝いっていってもダンス部は人手足りてるだろ」
「いやあそうなんだけどね、なんか顧問が生徒会に行って取り付けてきたらしくて。今日顧問来れないらしいから」
成る程。
普段私が部長兼顧問として練習や振り付けの指示を出しており、顧問はその代りにあたしたちのドリンクを作ったりタオルを用意したりほとんどマネージャーのような仕事をしている。
もともとダンスの知識がある先生なんていなかったからそれをやってくれるだけであたしたちは顧問に感謝しているのだが。
「そっか。それでその男子って言うのはどこの?」
「それがね、二年三組の辻君って人らしいんだけど……」
「おいおいらしいって、エリ同じクラスじゃないか」
「そう、なんだけどね? 私名前聞いた時にそんな人いたっけってなるくらい記憶になくて……。えへへ」
マジか。そんな奴がうちに来て役に立つのだろうか。
あのエリですら覚えてないということは相当な陰キャだろう。
対してダンス部はクラスでもかなり陽キャな部類に入る女子が多くおり、気をやられても困るな。
「でもでも!どうやらその辻君って人、いろんな部活とか委員会に手伝いに行ってるらしくてね。『帝総高校のマネージャー』って陰で言われてるんだって!」
「ほ、ほお」
「だから多分しっかり仕事してくれると思うよ!」
「期待しないでおこう」
「辻君可哀そう!」
そんなことを話しつつ体育館に入るとすでに見慣れない男子が後輩の女子に交じって部活の準備をしていた。
どうやら孤立することも無くスムーズに進んでいるようだ。
これなら大丈夫かな?
あたしは手を叩くと「集合!」と合図を掛けた。
部員が次々に集まってきて私を中心に円状に取り囲む。
辻はそのまま黙々と作業を続けていた。
それを見つつ私は今日の練習内容を伝えると、最後に辻を呼ぶ。
「あー、辻って言ったっけ? ちょっとこっちに来てくれないか?」
「……」
あたしの声に振り向いた後、何かを小声で呟いてこちらに歩いてきた。
やばい、あたしの苦手なタイプかもしれない。
やってきた辻をあたしの隣に立たせて自己紹介をさせる。
「どうも、箪笥先生に頼まれてダンス部の手伝いに参りました。それじゃあ」
「ちょっと! ちょっと待て!」
ものすごく端折った名前すら言わない自己紹介をされて思わず引き留める。
「なに?」
「な、名前は……?」
辻は数秒間黙ってから、「桐乃丞」とだけ答えて今度こそ準備に戻ってしまった。
そのときのあたしは確実に額に青筋が浮かんでいたと思う。
「ま、マイカ? 彼もきっと早く準備を終わらせたかったんだって!」
「そ、そうですよマイカ先輩。あの人声小さいけどめっちゃ仕事できますから!」
「……練習開始!」
部員が辻のフォローをするのもムカついて無理やり部活を開始した。
そしてその日の部活は散々だった……。
休憩の時間になると普段の顧問なら一人ひとり「お疲れ様」と言いながらタオルとドリンクを渡してくれるのだが、辻は四つほどのパイプ椅子にそれぞれのネームプレートの下にタオルとドリンクを置いていた。
確かにそっちの方が効率がいいし、全員同じタイミングで休憩に行ける。
それに彼は来たばかりで部員の名前と顔が一致しないだろう。
しかし先の件からずっともやもやしていたあたしは思わず彼に噛みついた。
「ちょっと。勝手にやり方変えないでくれる?」
「……」
まさかの無視!?
ありえないありえない。わざわざ文句言ったあたしもわりーけどこいつの態度が気に入らなすぎる!
「ちょっと、無視するわけ!?」
「……」
再び無視。
あーあ、あたしキレたわ……。
喧嘩腰に話しかけたとはいえ二度も無視するとか本当にありえない!
「なああんたのことだよ辻桐乃丞! 聞こえてんだろ、おい!」
「はぁ……。なに?」
たっ、ため息!?
こうなったら徹底的に攻めてやる。
「だから勝手にやり方変えないでって言ってんだけど。耳聞こえないわけ?」
「……耳は聞こえるしやり方に関しても――」
「なのに無視したわけ? ありえないんだけど」
あたしは返答する隙すら与えずに詰める。
こうすればあたしにビビッて謝るしかあるまい。
しかしあたしの予想は次の瞬間果敢なく散った。
「いいか。名前も呼ばずいきなり文句を垂れてきてお前は一体何様なんだ。それにやり方については自由にしていいと顧問の箪笥先生から言付かっている」
「んなッ! そ、そんなの関係ない。部長はあたしだ!」
まずい、予想が外れて我ながら最低のことを言ってしまった。
「と、とにかくうちのやり方に従ってくれ。それができないなら帰っていい!」
「……まさかそこまで傲慢なやつだとは思わなかったよ。分かった、俺は帰るわ」
しゃがんで足を挫いた後輩の手当てをしていた辻はそれを手早く終えると、そのまま荷物をもって靴を履き始めた。
「は? おいまさか本気で帰るつもりか?」
「勿論。生憎俺はセクハラセクハラうるさいこのご時世に、出会ったばかりの女の子にお疲れさまと言いながらタオルとドリンクを渡すような真似は出来ないからな。それじゃ皆さんお疲れさまでした」
辻は軽くお辞儀をして体育館から出ていく。
とんでもないことになった。
しかしあたしが言い出した手前引き留めるわけには行かないし、周りの部員もあたしの目を気にして誰も声を掛けない。
「ねえマイカ。流石にあれは言い過ぎだと思うよ? 辻君結構仕事頑張ってくれてたし、後輩の怪我もしっかり手当てしてくれてたのに」
「ええ、辻先輩に手当てしてもらってから足がめっちゃ楽っす!」
くそ、なんであたしが窘められなきゃ――!
全部あの辻桐乃丞のせいだ!
「練習再開!」
あたしは鬱憤を晴らすように再開を叫ぶ。
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