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曽祖父のこと

作者: 結崎香月

 父方曽祖父はとある春に逝った。90近くまで生きたその人生は、当時も今も「大往生」と呼んで差し支えないと思う。

 その頃あたしはまだ小学生になるかならないかで、親に連れられて祖父母宅に顔を出した夜は、必ずと言っていいほど「お隣に顔見せといで」と大人の誰かに言われて隣家に住む曽祖父母の元へ行っていた。

 記憶の中の曽祖父は所謂寝たきり老人で、常にクッション性の高い介護ベッドの住人だった。大人になって聞いた話では、糖尿病から各種合併症を併発していて、糖尿病が発覚した頃には手術もできないほど悪化した白内障を抱えていたらしい。それを主に小柄な曽祖母が祖父母の協力を得つつ介護していたのだ。

 顔を出す度、6畳ほどの部屋の殆どを占拠する介護ベッド(高さは当時のあたしの胸ほどまであった)の脇で、起きているのか寝ているのかもわかりづらい曽祖父に向かって「来たよー」とやるのだが、目は見えてない、耳も少し遠い相手である。触覚が頼りなのであたしはこちらに近い左手を握っているのだが、同席する大人の声がなんとか耳元に届いて初めて手を握っている相手を認識し、「おぉー」とくぐもったしわがれ声が聞こえてくる感じだった。それが少し怖くて、当時は自分から「お隣行ってくる」と言い出すことはまずなく、「お隣行っといで」と言われるのが実はちょっと嫌だったりもした。

 曽祖父は、幕末から明治初頭という過渡期に生まれた人間としては長身な方だったらしく、ウエスト付近の手元からだと布団越しにちらりと見える横顔しかわからない状態だったから、正面からの顔は白内障で目を完全にやられる前の写真を使った遺影で初めて見たようなものだった。大人になってから聞いた話では、若い頃の曽祖父は今で言う「イケメン」に分類されるような外見で、当時まだ珍しかったテニスやギターを嗜む多趣味な人だったらしい。最晩年しか知らないあたしにとっては寝耳に水である。

 仕事(宮大工)引退してかららしいけど、技能を応用して天満宮本宮の模型みたいなの作ったとかもう変態でしょう。それに焼き物の武官人形いくつかと小さな鏡置いて、神棚とは別に新年に飾る習慣もすごいけど。

 今は亡き祖父が家のどこで見つけたのかさっぱりわからないが、うちには家系図らしきものがあって、室町時代まで遡れたそれによると先祖は地元の武士だったという解説もその祖父から聞いたことがあるから、いわゆる「そこそこ以上にお金がある」状態が長かったおかげで「多趣味で道楽できた」というのもわからないではない。

 骨董にも手を出していたというか、生前気に入って集めて、戦後の物がない時期にすら手放さなかった焼き物類が、曽祖父曽祖母の遺品を集めた物置区画から発見されたというのは割と最近の話だったりする。

 曽祖父の人生の語り手としては最適だった曽祖母も祖父も亡き今、語れるであろう人物は、祖父の弟と、孫に当たるあたしの父親と叔父くらいになってしまった。曽孫世代では最年長のあたし以外曽祖父を直接知らない。しかもあたしが知っているのは曽祖父の人生では最後の3年程度でしかなく、その記憶も大人のそれより曖昧なもの。

 それでも身内の葬儀で斎場に行き遺骨を拾う度、「最初」の視点を思い出して苦しくなる。近い感覚を持っている可能性があるのは、当時のあたしと同じ年頃で曽祖母を見送った従弟くらいだと思う。


今回こうやって脈絡なく書きなぐったのは、覚え書きという意味合いのほか、モヤモヤしたものを形にして整理したいとなんとなく思ったからだ。死後20年以上経って、「テニスやギターやってた」なんて、初めて聞いた話もあったから。

そんな訳でこれは公開しなくても別にいいんだが、書いた以上は水面に浮かべて置いておくか、と思ったので、公開しておくことにする。

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