015 ゴールデンウィーク突入
四月も下旬に差し掛かり、もうじき黄金の週こと、ゴールデンウィークに迫っていた。世間では、珍しい最高十連休のゴールデンウィークとの話題で盛り上がっている。
そんな多くの人が待ち望んでいたゴールデンウィーク初日。
神戸港近辺のデートスポットであるハーバーランドでは、不景気な顔をした大学生二人が立っていた。
「それにしても…、せっかくのゴールデンウィーク初日だっていうのに、男二人で日雇いのバイトだなんて…どう思うよ翔くん!?」
「しょうがないだろ。先輩の頼みなら仕方ないさ…。そもそも先に了承したのはトミーじゃないか。」
翔よりも一回りでかいトミーと呼ばれる男は、ふてぶてしい表情を翔に向けながらパイプ椅子を運んだ。
トミーは翔の大学の友人で、同じく文学部であり、教員免許の取得を目指す同士でもあった。
本名の苗字が冨田であることから、トミーという西洋チックなあだ名で呼ばれている。
「あーもう、持てない。椅子重いよ。かえってゲームしたいよ。アニメみたいよ。」
「どうせ家でだらだらするくらいなら、健康的に身体動かして、社会貢献にもなって、お金までもらえるバイトをした方が有益だろ。」
翔は同じくパイプ椅子を担ぎながら、トミーに言った。
「翔くんは本当、教師に向いてるね。素晴らしいよ。だが…、私はそんなきれいごとをいう教師が大嫌いだよっ!」
吐き捨てるように言うトミーに、翔は呆れた顔になった。
同じ学年、同じ学部、同じサークル、同じ教員の卵として、何かと顔を合わせる機会の多い二人は、いつしか学内で自然と二個一で行動するようになっていた。
「本当に君ってやつは、どうしようもないな。」
翔が気兼ねなく辛辣な言葉を吐くのは、学内ではトミーに対してのみであった。
それはお互い気の置けない仲であるからというのもあるが、単純にこのトミーという男が、本当にどうしようもないやつだからでもあった。
「ぐちぐち言ってないで、ほらさっさと椅子運べよ。」
長期のゴールデンウィークに伴い、神戸でも多くのイベントが開催される。
あちこちで若い労力を求人する声があり、彼らの尊敬するサークルの先輩は、彼女と一緒にこのイベント設営のバイトをするはずであった。
しかし、先輩の彼女が「やっぱり、GW初日は遊びたい」と駄々をこね、イベント直前にバイトを断るわけにもいかず、後輩である翔とトミーが駆り出された。
「先輩も馬鹿だよな。GW初日なんて遊びたいに決まってるじゃん。それを一緒にバイトしようなんていう方がおかしい。」
トミーはかなり深いレベルのオタク気質なところがあったが、それゆえ数あるギャルゲーを攻略してきた彼は、非常によく女性心理というものに思慮が深かった。
そして腹が立つほどに、無駄に背が高く顔もよかった。
恋愛においてトミーは、経験も知識も翔の上をいっており、恋愛に関して彼の言うことは、概ね正しいと翔は受けとめていた。
「別に初日とか関係ないと思うんだけどな。最初はお金稼いで、それから遊びにいけばいいじゃん。」
不思議そうに言う翔に、トミーは口を尖らせた。
「まったく、翔君は理系脳で男性脳なんだから!そんなんだから付き合っても、すぐに彼女に振られるんだよ。」
「それはもう…そっとしといてくれよ。」
誰にでも親切にできるという翔の特徴は、色んな人から好意を持たれやすい。
しかし、彼の誰にでも優しいという特徴は、客観的に見れば美徳であるが、それは特別な存在でありたいと願う、彼女となる女性の心理を苛立たせることが少なくなかった。
会場の設営のアルバイトは朝早くから行われた。朝の七時に召集がかかり、イベントが始まるまでになんとか会場を設立することができた。
「ちなみに…これって何のイベント?」
トミーは汗を拭きながら、隣でポカリスエットを飲む翔に尋ねた。まだ春の優しい日差しでありながら、重い椅子や机を何往復もしながら運んだ二人の額には汗が浮かんでいる。
「あぁ、なんか色んな地方の食べ物とか、異国の食べ物の屋台が並ぶらしいよ。」
「翔君も私も、午後からの仕事まですることないし、一緒に店回ろうよ。」
「それもそうだな。」
ハーバーランド周辺の海岸沿いに、いわゆるB級グルメと呼ばれる屋台、そして神戸らしい異国情緒あふれる、見たことも聞いたこともない名前の物を売る屋台も見受けられる。
ぐるりと会場を一周したが、それぞれの屋台が工夫を凝らした商品を提供しており、二人はどれを食べようかと迷っていた。
すると、後ろからいきなり肩を、「トン、トン、トン」とたたかれ、鈴の鳴るような声で、「翔さん。」と名前を呼ぶ声が聞こえた。
※読んでいただける人が増えてきたので、今後の恋愛の展開等についてコメントでご意見いただけると嬉しいです。(誰と誰をくっつけろ、どのタイミングでくっつけろなど、お色気は控えろ、いやもっとやれだとか……こんなイベントやれ、こんな料理作れ、とか……)
邪道かもしれませんが、天の声のみなさま(読者様は神様)が喜ぶ展開になるよう、参考にしたいと思います。