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混沌邪妖戦記・ウニ=カレー  作者: 赤城てんぷ
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『インド人とウニ』企画

 7月20日・土曜日、滋賀県・彦根市――『インド人とウニ』企画・授賞式会場――。





 この日、『インド人とウニ』企画に参加していたなろうユーザーの面々は、企画の授賞式に参加するために企画の主催者である伊賀海栗氏の招待のもと、滋賀県彦根市へと集まっていた。


 まだ主催者だけでなく、この会場に来ていない参加者もいたが、皆企画に参加した所感などを各々語り合っていた。


「いや~、今回の『インド人とウニ』企画は本当に大盛況でしたね~!!参加して、本当に良かったです!押忍!!」


「マックロウさん、それ俺の持ちネタ挨拶じゃないですか~!……でも、本当この企画に参加したおかげで、こうやって皆と知り合えたわけだし、主催者である伊賀海栗さん様様に違いないですわ!」


「……それにしても、その肝心の主催者である伊賀海栗さんがまだ、こちらに来られていないようですが……?」


 確かに伊賀海栗氏の姿を、ここに来るまで誰一人として見かけていない。


 その事を参加者の一人が疑問として口に出した――そのときである!!





『……グゥゥゥゥゥゥゥッ……!!』





『ッ!?』


 声のした方に向けて、企画参加者のユーザー達が一斉に顔を向ける。


 その先にいたのは、生気が全く感じられない土気色ともいえる顔に白濁した眼をした男達が、なろうユーザー達に向かって害意を放ちながらこちらに迫ろうとしていた。


 地獄の底から響き渡るような呻き声を放ちながら、こちらに近づいてくる不気味な存在……さながらそれは、墓の下からこの世へと起き上がってきた亡者を彷彿とさせる姿であった。


 予期せぬ来訪者を前に困惑するなろうユーザー達だったが、男達は彼らに顔を向けると牙を見せて叫びながら、盛大に襲い掛かってくる――!!


『ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』


「な、何なんだコイツらは……!?やむを得ない!こうなったら、とにかく僕達も応戦するぞ!!」


(オゥ)ッ!!』


 あるメンバーの呼びかけを皮切りに、他の企画参加者達達がそれぞれの自作品の力を用いて、次々と不死者の如き者達を打ち倒していく――!!


「がおー!!」


(ふん)……()ッ!!!!」


吸血鬼風(カズィグル)に、串刺しに(ベイ)してやらぁ……!!」


 尋常ならざる耐久力を持つ不死者(アンデッド)達だったが、単調な力攻めと数任せな者達など、筆力を鍛え上げたなろうユーザー達からすれば敵にすらなり得ない。


 この異常事態の原因は分からないまでも、このままいけば不死者達を駆逐するのも時間の問題……かと思われた、そのときである!!





「な、何よコイツらッ!?」


「うわぁぁぁっ!?誰か、助けてくれ!!」


「こんな事になるなら、もっと雄琴おごとで遊びまくりたかったナリ〜……!!」





 悲鳴を上げていたのは、何も知らずにこの近くを通りかかった地元住民達であった。


 彼らは迫り来る不死者達を前にして恐慌寸前に陥っていた。


「やれやれ。危機に曝された人々を救うのも、"なろうユーザー"としての責務って奴だな……みんな、悪いが後は頼む!」


 そう口にすると、企画参加者の1人である青年:朝倉 ぷらすが襲われそうになっていた彦根市民達のもとへと、颯爽と駆け出していく――!!


 ぷらすは走りながら、自身の内から生じた暗黒障気を右腕へと練り上げると、力強く詠唱を行い始める。


「呼応せよ、我が悪意の研鑽、辿るべき魂の軌跡!!――今ここに顕現せよ!……情欲剣・"毘盧遮那如来(びるしゃなにょらい)"!!」


 刹那、ぷらすの右腕から膨大な力を纏った漆黒の大刀が、瞬時に姿を現す――!!


 ぷらすはそのままの勢いで、"毘盧遮那如来(びるしゃなにょらい)"を不死者の集団に振るい、切り裂いていく。


「キャー、素敵!!抱いてー!」


「アラアラ。……魅惑の一夜限りのワンナイト・遊戯ゲームが、ここに幕を開いちゃうのかしら……?フフフッ……♡」


「ッ!?ゲ、ゲギギャッ♡」


 ”淫蕩”の力が込められたぷらすの愛刀は、守られている市民達だけでなく斬り伏せている不死者アンデッド達すらも魅了していく。


 刀を直視しないようにしながらも、ぷらすの獅子奮迅ぶりを見ていた企画参加者が驚きの声を上げる。


「ス、スゲー!!……これが全年齢版という枠を飛び越えた、ノクターン作家としての実力なのか!?」


 単純ななろうユーザーとしての能力と、”自分TSヒロイン”のブーム到来を見抜き、それよりも先に作品を執筆し始めるほどの優れた洞察力から繰り出される鋭い剣技。


 ”朝倉 ぷらす”が誇る尋常ならざる戦闘力を前にして圧倒されているメンバーに向かって、一人のなろうユーザーが叱咤の声を飛ばす。


「ボサッとすんない!敵はまだまだ押し寄せてやがるんだぞ!!」


「ッ!?って、暮伊豆さん!!アンタが一番ヤバイじゃないですか!」


 見れば、暮伊豆というユーザーのもとには、他の企画参加者以上に敵が押し寄せていた。


 それも無理からぬことであり、彼のなろう作家としての力は『相手に自分と契約させた事を必ず順守させる』という”契約魔法”であり、契約どころか知能すらなさそうな不死者達にはロクに効き目がなかった。


 そのため撃退している他のなろうユーザー達よりも、倒しやすいと判断された暮伊豆のもとに敵が殺到する形となっているのである。


 他の味方もそれぞれの持ち場で戦っているため、こちらに駆けつける事は出来ない。


 絶体絶命のピンチにも関わらず、暮伊豆は余裕の笑みを口の端に浮かべていた。


「流石に”あー、”やら”うー、”とか呻いているのを”契約への同意”と見做すのは無理があるか……仕方ねぇ、奥の手を使うとしますかね!」


 刹那、暮伊豆の右腕が眩く輝き始める――!!


 それと同時に、暮伊豆が勢いよく叫ぶ――!!





「――我は願う、この世界との”盟約”を。……呼びかけに応じ、この星の力を我に与えたまえらんかし――!!」





 力強い詠唱とともに、暮伊豆の右手から強大な業火が放たれる――!!


 それだけでなく、圧倒的な竜巻や津波、轟く雷鳴が次々と不死者達を殲滅していく。


『グギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!?』


 これこそが暮伊豆の奥の手であり、彼が”契約魔法”の相手に選んだのは、迫りくる亡者の群れではなく――この地球そのもの・・・・・・だった。


 暮伊豆はこの星から力を借り受ける事によって、大自然の力を単身で行使できるようになっていた。


 自作品に覚醒めたなろうユーザーの中でも、まさに圧倒的という他ない最強クラスの能力であり、現に暮伊豆の能力によってあれだけ膨大な敵の大半が壊滅状態になっていた。


 ……だが、これは寄与されたモノではなく”盟約”で借りたモノに過ぎない以上、当然代償は存在する。


 それは、如実に暮伊豆の肉体に影響を及ぼしていた。


「グッ、ガハッ……!!」


「ッ!?く、暮伊豆さんッ!!」


 企画参加者の一人が慌てて駆け寄る。


 見れば、暮伊豆は口から盛大に吐血し、顔色は酷く青ざめていた――。





 ――これこそが、世界との”盟約”による代償。





 暮伊豆は”温暖化”や”環境汚染ならびに破壊”といった人類によって引き起こされた地球への被害をその身で引き受ける代わりに、個人では行使する事が不可能なレベルの大自然の力を借りる事が出来ていたのだ。


 その結果は見ての通り深刻なモノであり、暮伊豆の肌は高温で灼け始めその身を毒が周り始めていく……。


 だが、それでも構わないと暮伊豆は額から汗を流しながら不敵に笑う。


「へへっ、このくらいで同じなろうの仲間達や地元の住民を護る事が出来るなら、なろうユーザー冥利に尽きるってもんでさぁ……!!」


「く、暮伊豆さん……!!」


 暮伊豆の壮絶な覚悟を目の当たりにし、感極まったように背中に”漢”の文字を背負いながら咽び泣く『インド人とウニ』企画の参加者達。


 そんな彼らを見やりながら、「ほら、さっさと残った奴等を片付けるぞ!」と、暮伊豆が皆に発破をかけた――そのときだった。





 ズシィィィィィッン……ズシィィィィィッン……!!





 軍勢の行進による足音とも違う、地の底から響くかのような轟音。


 琵琶湖の方角から来たりし破滅の予兆を前に、なろうユーザー達が緊張した顔つきで睨みながら――すぐに絶望的な表情に変貌する。


「な、なんだよ……なんだよ!コイツはッ!?」


 見上げた先にある巨大な黒き影。


 その姿を見た瞬間、この場にいる企画参加者達は全員、自分達がどれだけ本気を振り絞り皆が束になってかかったとしても、この大いなる存在には敵わないのだという事を本能よりも深い場所で理解してしまっていた。


 今さら何をしたところで無意味に終わるかもしれない。――けれど、それでも今すぐにこの場から何もかも投げ捨てて逃げ出したい。


 そう頭で考えたとしても、それを実行に移そうとする者は皆無であった。


 それどころか、企画者は全員前を見据えながら――身体を恐怖で振るわせてでも、この敵と対峙する事を挑んでいた。


 何故なら――。





「――私達は”なろうユーザー”なのよ!戦えない地元の人達を残して逃げるだなんて……出来るはずないじゃない!!」





 都合の良いときだけグループを作りながら、メンバーの誰かが不都合な事を少しでもすればすぐに切り捨てる。


 それはこの混沌とした時代に人々の規範となるべき“なろうユーザー”の在り方などではなく、集団で不正なランキング工作に励む恥知らずな“相互クラスタ”が如き振る舞いである。

 

 ゆえに彼らは、”なろうユーザー”として曲げることの出来ない矜持を胸に、この場で最後まで戦い抜く事を決意する。


「……とは言っても、あんなデカブツに喧嘩売ろうとする辺り、僕達はとうに理性を失っているのかもしれませんね……!!」


「確かに!正気の沙汰じゃやってらんねぇよな!……なら、愛すべき天下一の大馬鹿野郎らしく!ド派手に一発かましてやろうじゃねぇか!!」


 その呼びかけに応えるように、危機が眼前にまで迫っているにも関わらず「そうだ、そうだー!!」「こんだけ目立った活躍をすれば、ひょっとしたら書籍化も出来るかもしれないしね♪」などと、軽口が飛び交い笑い声が響き合う。


 本当は皆、迫りくる絶望を前に理性が蒸発し、正気が尽きかけてもなお、歯を食いしばって耐え抜くのが精一杯だった。


 しかし、それでも彼らは最後まで”なろうユーザー”である事を選択する――!!


「それじゃあ、ここいらの住民の避難が終わるまで……お前等、気合入れていくぞ!!」


『応ッ!!』


 この星の力を行使出来ても、どれだけ力を合わせても敵わない事が決定づけられている絶対的強者による蹂躙。


 まさに”神”としか言いようがない存在を前にしても、『インド人とウニ』企画の参加者達は前に向かって疾走していく――!!


『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』









 強大な敵に挑んでいく最中、参加者の一人――あるいは、この場における者達全ての総意か。


 ある一つの考えが脳裏に浮かび上がっていく――。


(もしも、この場にあの人(・・・)が来てくれていたら……!!)


 それは、何らかの予定があったらしく、今日の授賞式に参加する事が出来なかったあるなろうユーザーの存在であった。


 そんな願いは最後の瞬間まで叶うことのないまま――この場に集いし『インド人とウニ企画』参加者達は、残酷なまでの敗北を迎えようとしていた……。

※本作を書くにあたって、"伊賀海栗"さん、"朝倉 ぷらす"さん、"暮伊豆"さんに出演する許可を頂きました。


本当に、ありがとうございます!!

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