表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

伝説に憧れて

一気にポイントが上がって夜も眠れません。


本当に、本当にありがとうございます。






あの集会の後、モーガン達は団長の元へ呼び出された。

スタンドリッジは壇に腰掛けて、集まった憲兵達の顔触れを静かに眺めた。

そして、全員が集まった事を確認すると、徐に口を開いた。


「さて、皆さん集まりましたね? 十八人の精鋭達」


その眼光は鋭く、まるでここに集結した憲兵達の魂を見ているかの様に思えた。きっとそれは錯覚なのだが、そう思わせる程にその眼は真剣味を帯びている。


「魔法使い六人、剣士十二人、計十八人。大規模な作戦を行う最低人数です。ですが、個々の能力は非常に高く、指揮を任された隊長等を除けばそれこそ憲兵団トップクラスであると評価しています」


だからこそ、と彼女は整った形の顎に手を置いた。


「貴方達には、ある特別な任務を与える事が決定しました」


特別な任務、だと?

憲兵達が一同に首を捻ると、それに応えるかの様に彼女は説明し出した。


「先程、私は件の虫に関する有益な情報を手に入れました。それによると、虫はヤドカリの様に殻を背負うという生態があるという話です。それも、人間の作り出した建築物を再利用した殻を」


それは先程モーガンが会議室で提供した情報だった。

やはり名は伏せられていても、自分が持ち上げられる事はむず痒くて好きにはなれない。

だが、自分が憲兵団の為に役立てたのなら、それは嬉しい事だ。


「さて、貴方達に課す任務はただ一つ。背中の塔の中に忍び込んで、内側から虫を殺す事です」


成る程な、とモーガンは内心感嘆した。

外部からの攻撃は塔に付与された防御系魔法と虫本体の持つ甲殻で弾き返されてしまう。それならば内側しか無い、と踏んだのだろう。

当然と言えば当然の策であった。


「殻で守っているという事は、背中部分には重要な器官が詰まっており脆弱だという事だと予想されます。だからこそ、外的攻撃が効かなかった際の保険として、貴方達を内部に潜入させます」

「ち、ちょっと待って下さいよ団長。仮に侵入出来たとして……もし防御系魔法が解けたらどうすんだよ。俺達に死ねとでも?」


第五部隊隊長エスクド・ホイットマンが抗議の声を上げた。

いくら塔が魔法により強固に守られているとはいえ、それが永久に破られないという保証は一切無い。

もし何らかの拍子で防護壁が破られ、その瞬間に砲弾が命中したとしたら、

矮小な人間など、瓦礫の下敷きになってあっという間にお陀仏だろう。


そんなホイットマンの届け出を聞いたスタンドリッジは、静かに笑った。

そして彼女は、ポケットからやや膨らんだ小さな袋を取り出した。


「そんな事はありません。貴方達にはこれを支給します」


彼女は袋の中から幾つかの白濁色の石を取り出した。


「これは『帰還の日向(ボラ)土』と呼ばれる魔道具です。予め指定した場所に召喚サインを書く事で、それを砕いた時にワープ出来るという物なのですが……これを全員に一つずつ、渡します」


そうして、彼女は十八人の憲兵全員に手の平程度の小振りな『帰還の日向土』を渡した。石と呼ぶには表面は穴だらけで、とても軽く、脆かった。

手の中でそれを弄っていると、スタンドリッジが再び話し始めた。


「今回ばかりは、とても危険な任務です。そして貴方達は憲兵団の中でも特に貴重な人材、だからこそ許可します。もし塔全体に付与された防御系魔法が打ち砕かれた場合に限り、それを用いて逃亡して下さい。あ、因みに破られてない状態にも関わらずそれを使って逃げたのなら死罪ですので、ご注意下さい」


やっぱりな。

魔法の効力が切れたなら、それ即ちそのまま大砲の砲撃で倒し切れるという事。

そのまま砲撃で背中の塔を破壊し尽くして脆弱な背中部分を集中攻撃すれば、重要器官を抉り取る事が出来、殺せる。


もしその様な事態になれば、この憲兵達は既に用無しとなる。

そうなれば退かせるのが最善策だろう。


だが、やはりこの作戦でも敵前逃亡は死罪という憲兵団鉄の掟は適用されるらしい。

国の未来を背負うのだから、それ相応の覚悟が必要だという事か。


「それでは……これより、対超巨大生物特別作戦実行部隊を結成します……うん、長いですね、短くしましょう。作戦内容から、モグリとでも名付けましょうか」


……何やら非常にアレな名前だが、気にしたら負けなのだろう。


「この部隊の総指揮はエスクド・ホイットマン、貴方に預けます」

「あ、はい」

「頼みますよ。貴方に、この作戦の結果と王都の命運が懸かっていますから」


スタンドリッジはまるで冗談でも言うかの様に涼しい顔で笑ったが、その眼は真剣そのものだ。

憲兵団を、そして王都を背負う人間としての責任感と覚悟が燃え滾る炎となってその紅い瞳の中で盛っていた。


「……分かりました」


ホイットマンは力強く頷いた。

それを見て、スタンドリッジは微笑を浮かべた。


「宜しい。それでは、詳しい作戦をお伝えしましょうか」


そうして、彼女は作戦の細かな流れをモーガン達に伝えたのだった。

その内容を一通り聴き終えたホイットマンは、静かに尋ねた。


「………出来るんですか? んな事」

「出来る保証は無いです」

「それなら……」

「でも、やるしか無いんです。これしか、道はありません」

「………そう、ですか」


彼は他の憲兵達の方を見ると、満面の笑みを浮かべた。


「よし、みんな。やるぞ。どうやら憲兵団の希望はぜーんぶ俺達に託されちまったみてぇだし……何より、オメェ達も英雄になりてぇだろ? 王都の脅威をたった十八人で追っ払った伝説の部隊に仲間入りしてさ」


その口調は一見薄っぺらい物にも思えたが、その裏には断固たる決意と正義感が見え隠れしていた。


「さぁ、伝説になろうや。全員で」





~~~~~~~~~





朝靄を切り裂きながら進み、ガタガタと揺れる馬車の中。

荷台の中で、モーガンは木箱に腰掛けながら葉巻を吸っていた。

細い煙を立て、赤熱するその先端部分を眺める。


「おい、モーガン。そろそろ作戦が始まる、葉巻を吸うのはよせ」


隣に腰掛けるガンザが鉄兜に隠れた口で注意した。


「ん、スマン。ちょっとリラックスし過ぎたか」

「あぁ。此処が戦場である事を忘れるな」


ガンザはそう言うと、携帯用砥石で自らの剣を磨き出した。金属の擦れる甲高い音と共に、白銀の刃が洗練されていく。


「……随分と気合入ってるな」

「当たり前だ。これは俺の、守るべき物を守る為の戦いだ。俺はここで死んでも良い。あの糞虫を退けれるのなら、本望だ」


つくづく真面目な奴だ。


暫く進んでいると、朝靄の中から何か巨大な影が姿を現した。


それは、あの夜絵で見た物と寸分違わぬ造形をした、巨大な虫だった。

憲兵達は皆、その圧倒的な体躯に思わず息を飲む。


「………あれが、砦蟲…いや、トローノか」


驚いたのも束の間、一瞬で彼等は臨戦態勢を整えた。


やはり砦蟲は想像以上に大きかった。そして、その背で聳え立つ石の塔も。

あの中に砦蟲の弱点があり、そして恐らくセルヴィ弟皇子が居る。


「…………」


一瞬、ギアの横顔が脳裏に浮かんだ。

仮面の様に無表情だが、それでも彼女が胸に抱いている主人に対する忠誠心と敬愛。

弟皇子に手を出すという事は、彼女の信心を踏み躙る事と同等である。


だが、仕方の無い事だ。

これも王都を、民を守る為に。


ズシン、ズシンと地震の様な足音を響かせる砦蟲の近くに、馬車が寄ったその瞬間、ホイットマンが叫んだ。


「ッ、作戦開始ッ!」


その声で、馬車に乗る全員が一斉に動き出した。

後列の馬車に乗る四人の魔法使い達は杖を構えると、その荷台に積んだ大量の樽爆弾を浮かせて、それを凄まじい勢いで砦蟲の頭部へ放った。


『ギッ……ギギィッ!?』


爆風と衝撃に怯んだ砦蟲は両前脚で顔の前を覆い、足を止めた。

それが、狙いだった。


「今だ、バルディリス、ソラルテ!」

「うん……」

「畏まりました」


隊長の声に肉付きの悪い少女と線の細い優男が立ち上がり、その頭上に杖を掲げて叫んだ。


「「『相反する天地』」」


すると、その傍に立つ十人の戦士の身体が光り、その肉体が宙に浮かび上がった。

これが魔法『相反する天地』。全ての生物を平等に大地に縛り付ける重力の影響の一切を取り除き、対象を浮遊させるという物だ。

『揺れる綿帽子』とは異なり、直接手で触れずに複数個の物体を浮かべる事が出来る。


本来であれば自分の体重と同じ程度の物しか浮かせる事が出来ないのだが、やはり彼等の尋常ではない膨大な魔力量により、十人もの屈強な男の身体を宙に上げるという芸当が成せるのだ。


「お、おおおおおぉぉ……」


初めて感じる、奇妙な浮遊感にモーガンは心踊った。


「感動してる場合か、行くぞ。魔法使いが足止めしている間に」

「いや、でもな……ちょっとこの余韻に浸らせてくれ」

「ったく……」


ガンザは悪態を吐いたが、スリッド越しに見える目は笑っていた。


暫く浮かび続けていると、爆撃から身を守っている砦蟲と目が合った。

いや、正確にはその黒い複眼が見えただけなのだが、何故か視線が交わったかの様な感覚と、寒気を覚えたのだ。


『ギチギチギチギチギチィ……!!』


不意に、砦蟲が歯を噛み締めて歯軋りをした。

金属音とも取れる様な不穏な音が鳴り響き、まるで背筋に氷柱が突き刺さったかの様な悪寒が身体中を駆け巡った。


「な、何だ……!?」


誰もが不安に駆られていた

ブブブブブブ……という、地鳴りにも似た身の毛もよだつ様な気味の悪い音が彼等の鼓膜を揺さぶった。

その音に、この場に居る者は全て聞き覚えがあった。

幼い頃も、今となっても、生活の最中で見渡せば何処でも聞ける様な、密接で馴染み深い音。


「……この音は、まさか」


刹那、砦蟲の下から何か巨大な影が飛び出してきた。

その影は影ではない。

モーガンは思わず、生唾を飲んだ。


「ヤバイ、奴等だ」


蟲だ。

40程の体躯の蟲が大量に群がっていたのだ。

量は分からない。だが、数え切れない程の数多な蟲が一塊となって真っ直ぐ襲い掛かってきた、それが事実だ。


今から魔法を解いて地面に降り応戦するか?

いや、もう地面との距離が離れ過ぎている。今効果を解けば、そのまま地面に激突して、まず骨折は免れないだろう。


「ホイットマン隊長! 応戦しましょう!」

「おう、分かったよ! このまま上まで登り切るまで時間を稼ぐぞ!」


どうやら奴等は魔法の発動者である二人には目もくれず、ただひたすら此方へ向かって来ているらしい。

今モーガン達は塔の丁度中腹部まで浮かんできた、頂上まで上り切るまではあと一分。それをやり過ごせば、後は塔内に逃げ込めば良い。


ここで、まずここで命を張らねば。


「おいガンザ、行くぜ」

「あぁ」


モーガンはメイスを、ガンザは剣を引き抜いて戦闘に備える。

そして、蟲が眼前まで迫った刹那、その背中にメイスを振り下ろした。

下半身が動かせない為全力の一撃ではないが、それでも蟲の甲殻を叩き割るには充分だった。


蟲は爆ぜ、その体液がモロに顔面に降り掛かる。

だが、そんな事は気にも留めずにモーガンはメイスを振り続ける。

彼が四体目の蟲を叩き潰したその時、不意に彼はある事に気付いた。


「もしかしてこの虫……砦蟲の子か!?」


この黒と紫が混じった様な禍々しい甲殻の色は砦蟲のそれと酷似している。

次々に飛んで来る蟲達は羽こそ生えており、脚は貧弱であるものの、そのシルエットは砦蟲そのものである。


「成る程、自分で作りやがったか!」


師匠から聞いた事がある、蟲の中には一つの肉体に精巣と卵巣を宿し、自らの体内だけで子孫を作る事が出来る種があると。

恐らく砦蟲はそれと同じ雌雄同体で、その体内で子を宿している。それを産む事で、自らにとって都合の良い兵士として、使役する事が出来るのだ。


この体格からして、宿しているこの数は恐らく数百。斬っても斬ってもさながら湧き出るかのような勢いで現れるだろう。

埒が明かない。


九体目を潰した所で、何者かの悲鳴が鳴り響いた。


恐らく十人の中の誰かが蟲の餌食になったのだろう。数多の蟲に集られながら落ちていく憲兵の姿が見えた。少なくとも、ガンザではない事は明らかだった。


「っ、うおぉぉぉぉぉ!!」


モーガンは腰のポーチから小ガラス瓶を取り出して、それを空いた左手の中で握り潰した。

取り出した媒介に息を吹き掛けて、辺り一面に『毒霧』を散布した。

強力な毒性を孕む紫色の煙はその中に飛び込んで来た哀れな蟲達をことごとく死滅させ、地面へと落としていく。


「サヴィルアッ! 急げやァ!」


羽音に負けない様な大声でモーガンは叫んだ。


倒しても倒しても次々と湧き出てくる。

このままゆっくりと浮かび続けても消費するのは体力だけ。そんな事は避けたい。


「クソッ……」


メイスを振り、時々呪術を織り交ぜながら蟲の波を防ぎ続ける。

砦蟲の子達は絶え間無く飛び掛かり、その腹の先端に付いた毒針で人間を刺そうとしてくるのだ。


何度も何度もメイスを振り続ける。

そして遂に、彼等の身体は塔の頂上部分まで上り切った。


それと同時に『相反する天地』の効果が切れ、彼等は石畳の上に着地する。

モーガンは受け身を取るとすぐさま立ち上がって、メイスを構えた。


「みんな、もうちょっと耐え切るぞ!」

「「「おぉ!」」」


入口の扉とホイットマンを背にして、残った十人の憲兵は叫んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ