VS,うた
雪の深い時季。
二日間、ひと時も止むことがなく吹雪けば、この国では『 氷渡し』が来たと云われる。
戸や窓を開くにも雪や氷で動かない。
もうそんな日はいっそのこと何もせず、家の中に篭る。
城都ほどの大きな都市でも、氷渡しの日ばかりは動きが止まった。
町も人も眠ったように静まり返る。
もちろん城内もそれは同じ。
誰もが仕事の手を止めて体を休める日。
篭って大人しくするものだと、昔からの定めごとになっていた。
やたらと動かず、身を寄せ合って、燃料を無駄なく大事に使えという先人の知恵でもある。
騎士団長の邸宅も例外は無い。
侍従も、侍女たちも、みなそれぞれ部屋に篭る準備を整えて、満を持して遠慮なく休んでいた。
働き者代表のクロノも寝台から動かない。
真横にはうつ伏せの格好で本を読んでいたアメリが、少し前から眠りの海に撃沈していた。
しばらくはただ見つめて我慢する。
それが気がつくと、髪を撫で、頬をくすぐり、するすると滑らかな肌にもっと触れたくてアメリを抱き寄せていた。
半分起きて、半分眠って。
心も体も充足した気分でゆっくりと時間を過ごす。
「…………うた?」
「うん? ……起きたのか?」
「うたってた? クロノ」
「……いや……うん?そうか?」
「ふふ……はじめてきいた……クロノのうた」
「いや……聞かなかったことにしてくれ」
「んー? どうして?」
「……聞いて分かっただろう」
「クロノいいこえだよ……」
「才は貰えなかったぞ」
「うまいひとなんていくらでもいるでしょ?」
「そうだな」
「……うたってクロノ」
「……………………またいつか」
「けちんぼさんめ」
しばらくむぎゅむぎゅに抱きしめていたら、またアメリは眠りだしたので、クロノは静かに息を吐き出した。
◻︎◻︎◻︎第二回戦◻︎◻︎◻︎
クローディオス ✖️ー ◯ うた
そうです、クロノはプチ音痴。
下手なのに良い声でぎりぎりカバーできそうな中途半端ぶり。
そこが余計に痛々しいと自分で分かっているので、人前では決して歌わない。
アメリといちゃいちゃできてご機嫌だったのでつい鼻歌が出てしまいましたとさ。
因みにこの国では、晩秋から初冬生まれは『氷渡しの子』とか言ってからかわれる。
もう、外に出られないならやることは決まってるんだぜ。っていう。
……的な風習とか、習慣とか、それにまつわるエトセトラを考えるのは楽しいですね。