VS ,かわいい
☆この回は騎士団各隊の大隊長がおりますので補足☆
第一大隊、アルウィン(見た目は14歳)
第二大隊、ハルエイクロイド(人たらし)
第三大隊、アンディカ(ストイック)
副長、ローハン(フレキシブル担当)
第四大隊、エイドリク(空気、今回は出番ナシ)
第五大隊、ブライス(豪胆な親父さま)
第六大隊、ルシアン(城都外に滞在、欠席)
早朝の稽古の終わった後の時間。
城内にいる騎士たちは、月に一度、必ず詰所にて協議の場が持たれる。
騎士団長以下、各隊長級が揃っているが、ひとつも堅苦しくはなく、賑やかに朝食を取りながらのものだった。
情報や、意見をやり取りすることもあれば、和やかにただ談笑して終わる場合もある。
自由参加でも、欠席する者はおらず、逆に居なければ城都を離れているということにもなる。
いつもならそこまで狭く感じない場所なのに、月に一度のその日は違う。
白金級の騎士たちで、詰所の食堂はぎゅうぎゅうに混み合っていた。
大きな卓と長椅子を分け合ったり、譲り合ったりしながらも、賑やかに食事をしている。
大概そういう場でとばっちりを食うのが、体の小さな者だった。
総長のいる卓で言えば、アメリ。
それからその隣にいる、第一隊大隊長のアルウィン。
体が大きく、加えて気を使える者を両脇に配置しないと挟み潰されそうになってしまうので、要注意だったりする。
「ほら、アルウィン。もっと食わないと大きくなれんぞ!」
「……何百年同じ話をする気だ」
わははと豪快に笑いながら、向かいにいるブライスがアルウィンの皿にもりもり肉を乗せる。
「朝から 肉 は要らない」
「何言ってる、お嬢はめちゃくちゃ食ってるじゃないか、負けてるぞ、アル!」
「奥方様と一緒にしないでもらいたい」
「んう? ……美味しいよ? ホラ食べて食べて……野菜も」
隣から回ってきた皿から、アメリもどさどさと、アルウィンの皿に蒸し野菜をもりもりに乗せる。
「……食欲が失せるのでやめて下さい」
「アルは繊細だなぁ。アメリの方が豪快だよね」
向かい側でハルがくすくすと笑う。
「比べないでくれ、失礼な」
「え? それ、どっちの話? アルウィン? 私?」
分からないのかと言いた気な目を向けて、アルウィンはふんと鼻で笑う。
アメリはにっこりと笑い返して、アルの器の上にさらにもりもりに肉を乗せた。
「……こうやってふたり並んでるとさぁ。ホントかわいいよね」
仲良くケンカしていたアルウィンとアメリは同時に揃って不貞腐れた顔になった。
それを見ていた周囲が笑いを堪えている。
総長、アメリ、アルウィン、アンディカ。
この並びなので、間のふたりは余計に小さく見える。
見た目だけなら十九と十四歳、最年少組だから更にかわいいに拍車がかかる。
周囲の騎士たちも何だかんだと好きに話していた。
「最近……こう……一周回って、第一大隊長かわいいんだよな」
「だよな! 不機嫌そうな顔も、嫌味な言葉も……もう、なんかかわいい」
「それわかるー!」
「分かるな!」
どん、と卓の上を叩いて周りを静かにさせると、一拍後には野太い声のかわいいの嵐が吹き荒れた。
「……あれれ……かわいいの称号がアルに取られちゃったね、アメリ」
「うん? いいよ、どうぞどうぞ。私は要らないから」
「私もそんな称号は要らない」
「えー? じゃあ、僕が貰おうかなー」
にこにこ笑いながらハルが言うと、周りからは「うわ、気持ち悪ぅ」「不採用」「却下」「無理」の声が聞こえてくる。
ちえーとわざとらしくハルが口を尖らせると、それすらも「あざとい」「ナシで」「やめて」と返ってきた。
「えー? じゃあ、宙ぶらりんになったかわいいの称号は誰に渡そうか? アメリはこの中で一番かわいいのは誰だと思う?」
「うん? この中の一番は総長だよ」
ぶはっと吹き出したのは、ハルと、少し離れた場所にいたローハンだけで、それ以外は陽の昇る前の草原のような静けさだった。
いつの間にかそれは伝染して広がり、食堂全体が、呼吸の音すら控えるほど静まり返る。
「あれ? 総長かわいいでしょ?」
「……やめてくれ、アメリ」
「え? かわいいよ、総長」
「……頼むから」
かわいいの称号は、しばらく空位のままで、後にアルウィンが頂くことになる。
◻︎◻︎◻︎第一回戦◻︎◻︎◻︎
クローディオス ー不戦敗ー