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side.B シーニー

「いやはや。坊ちゃまがお戻になったおかげで、理不尽な専制と隷従が、この王室から取り除かれました。実に、めでたい」

「繰り言が多いぞ、ロー。僕は、当然のことをしたまでだ」

 玉座に座っているシーニーが、ひじ掛けに肘を置いて頬杖を突きながら、ウンザリとした口調で言うと、ローと呼ばれた壮年の痩せぎすな男は、四十五度に頭を下げてから、目尻に皺を寄せた喜色満面で言う。

「これは、失礼いたしました。それにしても、坊ちゃまは謙虚になられましたな。はてさて。魔女の退治に雷を応用した術を使ったことや、紙幣に精密な肖像画を刷って偽札を予防するようにはかったことなど、数々の武勇や偉業を書き残さねばなりますまいと思うのですが」

「あぁ、もう。書きたいんなら、勝手に書いてくれ。僕は、ここで失礼する」

 苛立たしげに言うと、シーニーは玉座を降り、両開きのドアに向かって歩いて行く。男は、すかさずドアに先回りして開け、その前に立って恭しく頭を下げた。

  *

「材料は合ってるはずなのに、何か、ひと味足りないんだよなぁ。……もう一回だ」

 小皿で味見をしながらシーニーが呟き、しばし思案してから宣言すると、横でかまどに置かれた大鍋をかき回してる若いフリをした女が不平を垂れる。

「また、作り直すの? いい加減、貴重な魔道具を異国料理作りに使うのは、やめて欲しいんだけど」

「おい、口を慎め。さもないと、蛙肉のハンバーグにするぞ?」

「何よ、そのハンバーグっていうのは?」

「火を通したタルタルステーキをイメージすれば、ほぼ間違いない。香辛料で臭みを抜けば、蛙だって食べられるはずだ」

 舌なめずりをしながらシーニーが女を見て言うと、女は、いささか引き気味に言う。

「ゲコッ。私を食べようとするのだけは、遠慮してちょうだい」

「だったら、黙って手を動かせ。助手として雇うことで、これまでの魔女としての悪行を帳消しにしてやったんだからな。こき使ってやるから、きっちり働いて償え」

「トホホ」

 女が鍋の上で杖を振って中身を別の場所に転送したり、調理台の上で杖を振って人参や玉葱といった材料を出現させたりする傍らで、シーニーは何かを閃き、グーとパーにした両手を打ち鳴らして言う。

「あっ、そうか! チョコレートが足りないんだ。チョコレートを作るぞ!」

「ヒエ~。まだ他にも、作るんですか? もう、嫌だ、この王子。猫になんか、するんじゃなかった」

 知的発見に興奮しているシーニーとは対照的に、女は、ぐったりと土間にへたり込んだ。

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