284話 褒美
「やあやあ!」
「セルエノン」
セルエノンがフワフワと飛んでこちらへとやってきた。
そして、両手を上げながら、俺たちの前に降り立つ。
その顔にはいつものような軽薄な笑みではなく、本当の満面の笑みが浮かんでいるように見えた。
「よくやってくれたね!」
「主! やりましたな!」
「凄かったですね!」
「見事、神の使命を果たしたのだなっ!」
ワフ、エミル、ゼド爺さんもこちらへと駆け寄ってくる。客席からこちらに降りれるようになったらしい。
特にワフはすでに涙目で、顔がぐしゃぐしゃだ。
「主ぃぃぃぃっ! おめでとうごじゃいますぅぅ!」
「うげっ!」
ワフがアメフト選手のような高速タックルで、俺目がけて飛び込んできた。仲間だからか、ライフバリアは受け止めてくれない。
油断していて、もろに食らっちまったぜ。だが、鍛えてきた成果か、尻もちをつくことはなんとか防げた。
バランスを崩して、5歩くらい後ろに下がったけどね。
「ワフは……! ワフは感動しましたぞ!」
「ははは、ありがとうな」
「ぬおおぉぉぉぉぉぉん! ずびっびー!」
「ちょ、ワフ?」
こいつ、泣くだけじゃなくて、俺のローブで鼻かみやがった! く、離れん!
「まったく……。ほら、少し落ち着け」
「ワフちゃん、大丈夫?」
「ぬぐおおおおおおお!」
もう泣いてるんだか呻いているんだか分らんな。まあ、しばらく好きにさせてやろう。
「セルエノン。これで終わりか?」
「ああ! そうさ。あれが本当の本当に、混沌の最期だよ!」
「そうか……」
セルエノンのその言葉を聞いた瞬間、重い何かから解放された気がした。
そこまで気負っているつもりはなかったが、肩の力がフッと抜け、言いようのない達成感のようなものが沸き上がってくる。
自分でも気づいていなかったが、知らずしらずに重圧を感じていたんだろう。
「3人ともお疲れ様」
「はい!」
「はい……」
ユイとイオリも同様であるらしい。セルエノンの言葉を聞いた直後、その体から明らかに力が抜けるのが分かった。イオリは晴れやかな顔で涙を流し、ユイはその場で膝を突いている。
ただ、ユイには笑顔がない。
「……やりました。リシュー様……」
「ユイさん」
イオリが背中をさすってやると、それが呼び水になったのだろう。ユイは声を押し殺し、静かに嗚咽し始める。
「うっ……ぐす……」
戦いの最中は明るく見えたが、気にしていないわけがなかったのだ。相手は、自分の慕う相手の肉体を奪っていたのだから。
「ユイ様。ご立派でしたぜ?」
「アイオール……! 私! 私はっ!」
「リシュー様も、きっと褒めてくれるでしょう。あの方はそういうお方でした」
「うん……! うん!」
俺はリシューのことを詳しく知っているわけじゃないが、混沌の王に乗っ取られるまでは、素晴らしい人物だったんだろう。
ユイたちがリシューのために流す涙が、そのことを証明してくれていた。
しばらくユイたちを見守る。セルエノンも、この時ばかりは静かだ。
そして、ユイたちが落ち着いたのを見計らい。セルエノンが改めて口を開いた。
「君たち3人に課せられた使命は、これで果たされた。クレナクレムを救ってくれたこと、礼を言うよ。ありがとう」
セルエノンは笑いながら、俺たち3人と握手していく。いつもよりテンションが高いのは、喜んでいるからだろう。
「さて、使命を果たしたとはいえ、君たちの人生がここで終わるわけじゃない。むしろ、ここからが本番? 平和かどうかはともかく、滅ぶ恐れがなくなったクレナクレムで楽しんで生きて欲しい」
「世界を救ったから、地球に戻してやろうとかないよな?」
「おや? 地球に戻りたいのかい?」
「いや……」
俺は後ろを振り返る。そこには、ワフとエミルとゼド爺さんが並んでいる。少し不安そうなのは、俺の質問を聞き、元の世界に戻りたがっていると勘違いしたからだろう。
俺がいなくなったらこの3人が悲しむと断言できる程度には、信頼を築けているのだ。
地球では得ることのできなかった、大切な存在だ。きっと、少しのきっかけで、地球でもこんな存在を手に入れられていたんだろう。
異世界に来てようやく理解できるなんて、本当に馬鹿だよな。
「逆だ。地球に戻されるのは困る」
「はははは。そうかい。だったら安心してよ。残念ながら? 君たちを地球に戻す力は僕にはないからさ」
「そうか」
ユイとイオリを横目で見てみる。彼女たちにも、落胆した様子はなかった。きっと、俺と同じように、クレナクレムで大切なものを見つけたからだろう。
「さて、世界を救ってくれた君たちには、ご褒美を上げようと思う。まずは万能魔力10にライフバリアの全回復。あと、50ポイントを進呈だ。勝利者報酬ってやつだね」
「50ポイント!」
セルエノンの言葉にイオリたちが反応する。これで、聖霊を復活させられるからだろう。ユイも再び涙を流している。
「喜んでくれて嬉しいよ。それとは別に、願いを1つ叶えてあげる」
「願いを叶える?」
「その通り! 世界を救った報酬が、魔力やポイントだけなわけないじゃないか!」
「それは、どんな願いでもいいのか?」
「僕の力の及ぶ範囲ならね。万能ではないけど、そこそこ偉い神様なんだよ? それなりに大きな願いでもオッケーさ。なんなら、世界の支配者にでもなってみるかい?」
は? 世界の支配者?
「お、俺たちみたいな異世界人が世界の支配者って……」
「ふふふふ。世界を滅びから救ったんだ、その程度は安いと思うけど? 僕らにとって、世界の存続は最重要だけど、その世界の人間の在り様とかはあまり重要じゃないしね。何億年、何十億年と続いていく世界の、ほんの一瞬のことさ。何なら、民主主義でも広めてみるかい?」
楽し気に笑うセルエノンの瞳が、俺たちを見つめる。本当に、どんな願いでも――?
「俺は――」




