283話 混沌の最期
俺の手札が消え、大きな魔法陣が描き出される。そこから立ち上るのは、7色のオーラだ。
その虹色の光が混ざり合って繭となり、解け、中から光が溢れだした。
繭の中から立ち上るのは、金色の光だ。そして、その光を身に纏うかのような、黄金と白銀の化身が姿を現す。
威厳と優美さを兼ね備えた、妖精の女王だ。
「綺麗……」
「美しいです」
ユイたちが思わず、ため息をついて見とれてしまうほどに、絵になっていた。俺も、彼女たちと同じだ。
何度見ても、見惚れてしまう。
金に輝く髪と、銀色の衣装。背に輝く翅から5色のオーラを振りまきながら、レムリアスは俺に向かって優雅に一礼をする。
「お久しぶりでございます。主様」
「ああ! またまた戦場で悪いが、力を貸してくれ!」
「勿論ですわ!」
魔力を統べる者・レムリアス 妖精
XX 1/1 LR
飛行
召喚時に支払う魔力によって能力が付与される。
緑魔力を支払っていると、『対象を1時間、+2/+2修正する』能力を得る。
赤魔力を支払っていると、『対象に2点ダメージを与える』能力を得る。
青魔力を支払っていると、『対象は10分間、全ての行動が不能となる』能力を得る。
黄魔力を支払っていると、『対象に1時間、飛行を付与する』能力を得る。
白魔力を支払っていると、『対象のダメージを2点回復する』能力を得る。
黒魔力を支払っていると『対象のオブジェクトを1つ破壊する』能力を得る。
特殊能力は、1ターンにつき、X回使用可能。
レムリアスを生贄に捧げる:アタックする代わりに、指定した全ての対象に攻撃力分のダメージを与える。
召喚中は毎日零時に、X魔力を支払うか、Xダメージを受けることを選択しなければならない。
召喚に使った魔力は、万能2、白、黄、赤、黒を1ずつに、緑を2だ。1/1で、青以外の能力を全て使える形である。
まあ、使うのは緑一択だが。
「レムリアス! 自身を強化して、あいつを攻撃だ!」
「お任せくださいまし」
これで、レムリアスは9/9である。さらに、俺は残っていた緑魔力を使い、肉体強化の呪印を使用した。それだけではなく、ユイからもスペルの援護があった。
「力が溢れ出てきますわ!」
自身の能力と、俺たちのスペルにより超強化されたレムリアス。その翅から放たれる5色の魔力はより輝きを増し、ただただ美しかった。
「この力で、主に勝利を捧げましょう!」
レムリアスが、心強い言葉とともに超高速で動き出す。
そのままの速度で突進をするのかと思ったら、違っていた。レムリアスは、混沌の種の直前で急上昇したのだ。
「私の全てで、あなたを滅ぼします! 主様の敵となったことを、後悔するのですね!」
レムリアスを包むオーラがその手元に集まり、混ざり合っていく。数瞬の後、その手に握られていたのは青黒く輝く光の剣であった。
その刀身に宿る暗い輝きは、どんなものでも切り裂けそうなほどの迫力を放っている。
金色に輝く妖精の女王が、不吉にさえ思える青黒い光を操るその姿は、神話の一節に相応しい超然さを秘めていた。
「はぁぁぁぁ!」
黒い剣と共に、レムリアスが急降下してくる。あまりの速度に、目では追い切れなかった。
黒と金の混じった神秘的な光の帯が、天から降ってきたかのような光景だ。
そして、その一条の光によって、混沌の種が真っ二つに切り裂かれる。
気づいた時にはレムリアスが大地に片膝を突き、その上では混沌の種が左右に分かたれるところであった。
俺は、咄嗟に叫ぶ。
「レムリアス! 逃げろ! 反撃が来るぞ!」
「ふふふ。大丈夫でございますわ。主様」
レムリアスは、こちらを振り返って微笑んだ。
「言いましたでしょう? 主様に勝利を捧げると。この戦い、あなた様の勝ちでございますわ」
レムリアスがそう言って剣を消した直後、一刀両断されたままだった混沌の種が、ボロボロと崩れ始める。それは、混沌の王が滅んだ時と、全く同じ現象であった。
一瞬の静寂の後、遊戯の神による喝采が響き渡る。
「おめでとう! 君たちの完全勝利だ! 混沌の力は完全に消え去ったよ! よくやってくれた!」
「主! さすがでありますぞ!」
「やりましたねぇ!」
セルエノンの言葉に続き、ワフとエミルも拍手をしながら歓声を上げた。そして、こちらに手を振ってくれる。
俺はワフたちに手を振り返しながら、勝利の立役者に声をかけた。
「こうやって、勝った後に話をするの、初めてだな」
「はい。そうでございますね」
これまで、レムリアスは常に危険な場面で召喚され、その度に俺たちを助けてくれていたのだ。その身を捧げて、敵を殲滅することで。
至らない主のせいで、勝利の瞬間に立ち会うことはなかった。
初めて、彼女と勝利の喜びを分かち合うことができるのだ。
「ありがとう。レムリアス」
「ふふ、主に喜んでいただけることこそ、私たちの喜びですわ」
俺が手を差し出すと、微笑みながらその上に腰かけた。小さい。妖精なのだから当たり前だが、人形のような姿だ。
だが、この華奢な存在が、混沌の種を滅ぼしたのである。
「お前のお陰で、勝てたよ」
「そのために、我らは存在しているのですから、当然のことをしたまでですわ」
相変わらず、俺への忠誠心みたいなものが凄いな。そんな。敬意の籠った目で見られるような人間じゃないんだが……。
すると、レムリアスの笑顔が僅かに陰った。もしかして、俺の考えていることを見破られた?
だが、そうではなかった。
「主様。私の生贄能力をお使いになられたほうがよろしいかと存じます」
「は? まだ敵が……!」
「そうではございませんわ。恥ずかしながら、私はこの矮小なる身でありながら、非常に大食らいなのです。存在しているだけで、貴重な魔力を消費してしまうのですわ」
自身が毎日魔力を必要とすることを、気にしているらしい。自身を生贄に捧げろと言いだした。
確かに、彼女を召喚し続けるには、多くの魔力が必要である。土地カードからもたらされる魔力の半分以上が、レムリアスの維持に消えるだろう。
今までであったら、俺も悩んでいたかもしれない。だが、これまで何度も窮地を救ってくれたレムリアスである。
俺が彼女に言える言葉は1つだけであった。
「ダメだ」
ここで消えるなんて、ダメなのだ。
「なぜです!」
「少しの魔力なんて問題にならないくらいの価値が、お前にあるからだよ。俺の魔力が続く限り、一緒にいて色々と働いてもらうからな?」
「主様……。勿論ですわ! このレムリアス、存在する限り主様の期待を裏切らぬ働きをすることを、ここに誓いますわ!」




