282話 堕天使vs混沌の種
俺の号令で、バルツビーストたちが混沌の種目がけて動き出す。
イオリとユイもモンスターを呼び出しているが、今は待機させていた。まずは俺の攻撃で様子見だと分かっているのだろう。
4匹のバルツビーストたちが凄まじい速度で駆け、そのまま混沌の種に飛びかかる。
バルツビーストたちの攻撃は、何の動きも見せない混沌の種を直撃していた。その表面が深々と削れ、拍子抜けするほど簡単にダメージが通る。
だが、混沌の種が動いたのはその直後であった。
「ガルッルァァァ!」
「ガゴォォ?」
その表面から触手のようなものが一瞬で伸び、バルツビーストたちを貫いたのだ。
相当な威力があるらしく、一発でバルツビーストたちがカードに戻っていた。カウンターで攻撃を放ってくるらしい。
しかも、バルツビーストたちが付けた傷が再生して、すぐに治ってしまった。もしかして、普通の攻撃ではダメージが通らないのか?
「次は私がやる! 天使たち、攻撃の後も絶対に止まらないで、攻撃を躱し続けなさい!」
ユイの命令を受けた天使たちが、一斉に混沌の種に群がっていく。邪悪な存在に立ち向かう天使たちの姿は、非常に神々しかった。
だが、結果は俺と変わらない。混沌の種の攻撃はあまりにも早すぎて、天使であっても回避不可能だったのだ。
ダメージを与えた直後に、触手によって貫かれ、巻き付かれてしまう。一度捕らえられれば、逃れる術はなかった。
「うーん、これは、削り合いをするしかないのかな?」
「次は、私にやらせてください」
イオリの召喚した蛙が、口から水を吐き出した。こいつは、遠距離攻撃ができるタイプのモンスターなのだ。
だが、それでも結果は同じだった。どこまでも追ってくる触手は、距離など関係なかったのである。
しかも、次の行動を悩んでいる間に、混沌の種が俺たちに向かって触手を伸ばしてきやがった。モンスターの主であると、分かっているのだろう。
高速で襲い掛かってきた触手の槍が俺たちを吹き飛ばし、ライフバリアを3点削る。
全員同時に3点のダメージだった。一方的に攻撃させるのは危険だ。手を休めずに、攻撃し続けねば。
「風読みの白鷹召喚! 攻撃を仕掛けろ!」
「私たちもいくよ!」
「そうだね!」
手持ちのモンスターを召喚しては、混沌の種に向かって突撃させる。途中で、手札にあった生命即死を使ってみたんだが、混沌の種に変化はなかった。
対象にできなかったのではなく、黒い光が相手を包んだのに死亡しなかったのだ。
効かなかったのか、目に見えた効果がなかったのか……。俺が悩んでいると、ユイが声を上げた。
「あいつ、小さくなってる!」
「あ、本当ですね! トールさんの生命即死の後、目に見えて体積が減りましたよ!」
「言われてみたら……」
最初に比べて、僅かに縮んでいるように思えた。ダメージが通ると、縮む? 生命即死はダメージ系のスペルではないが、相手の生命力のようなものを削ったのかもしれない。
ともかく、こちらの攻撃が効いていないわけではなさそうだった。
「よーし! このまま攻め続けるぞ!」
バルツの森の大牙、灰色狼。間に大地の魔力を挟んで、バルツの森の主。赤火の魔弾を撃ち、次に風読みの白鷹を召喚する。
俺たちはそうやってモンスターとスペルを駆使して、波状攻撃を続けた。
途中でいくつかの試練が達成され、魔力が補充される。それでも、魔力がガンガン減っていく。首飾りも全て破壊したが、このままだと魔力が枯渇するだろう。
我ながら、デッキの回転率がよすぎたな。
だが、大量のモンスターが混沌の種に倒され、下地は十分。そろそろこいつの出番だろう。
「復讐の堕天使、召喚!」
「オオオオオォォォォォォォ!」
「で、デカい! それに、緑の光が……!」
以前、エマが呼び出した復讐の堕天使を見たことがあるが、あれに比べて倍近い巨体だ。それに、体を覆う緑のオーラは、眩しくて直視できないほどの迸りを見せていた。
「お、おっきいね!」
「前に敵だった時は、ワフちゃんがやっつけたんですよね? よくあれに勝てましたね!」
「あんときは、こんな巨大じゃなかったんだ!」
多分、憤怒の効果が発動することで、超強化された結果なのだろう。憤怒は、俺のモンスターが倒された分だけ、復讐の堕天使の攻撃力を高めているはずである。
推定で、+20。つまり、現在の復讐の堕天使は、25/7ということだった。
「やれ!」
「ルオオオォォォォォォオ!」
復讐の堕天使が一回だけ大きく翼を羽ばたかせると、その巨体が驚くほどスムーズに宙へと浮かんだ。さらにもう1回羽ばたかせると、滑るように混沌の種へと向かっていく。
大型トラックのような巨体が超高速で動く姿は、ただただ迫力があった。ユイやイオリも攻撃の命令を下すのを忘れ、復讐の堕天使に見入っている。
「ルアアアアアアア!」
会場内全体を揺さぶる様な、復讐の堕天使の咆哮。その勢いのまま、その手に握られていた巨大メイスが振り下ろされる。
ドゴン。
俺たちの足元に、真下から突き上げられるかのような衝撃が走った。両手を広げて、バランスを取らねば倒れかねないほどの揺れだ。
堕天使が繰り出したのは、それほどの一撃であった。会場の中央に巨大なクレーターが穿たれている。
ドラゴンすら一撃で粉々になるほどの威力があったはずなんだが――クレーターの中央から、黒い物体が再び浮かび上がるのが見えた。混沌の種は、健在だ。
そのサイズはソフトボール大にまで縮んではいるが、倒しきれてはいなかったらしい。
「堕天使、もう一発だ!」
「グガアァッ!」
「まじかよ!」
堕天使が動き出す前に、その顔面を複数の触手が貫いた。小さくなっても、その攻撃力は健在である。復讐の堕天使が、カード化してしまうのが見えた。
最大戦力が……!
だが、まだ攻撃の手を止めるわけにはいかないのだ。そして、手札を確認して、俺は勝利を確信していた。
「ここでこのカードを引くなんて、神引きってやつだな!」
ドローしたばかりのカードを手に取り、叫ぶ。
「魔力を統べる者・レムリアス! 召喚!」




