279話 チームバトル決着
俺は混沌の王に飛びつき、覆い被さった。
俺の拙い技術でも、相手が動けなければ簡単にマウントポジションが取れる。
腹の上に馬乗りになると、その体に対して短剣を突き立てた。
ライフバリアに防がれてしまうが、知ったことか! このまま何度だって――。
「離せぇ!」
「くそ!」
動けるようになった混沌の王に、2撃目を防がれてしまった。やっぱり接近戦は向こうが強いか!
混沌の王は即座に対応し、俺の腕を掴んできたのだ。
マウントポジションで、俺が上から思い切り力をかけている状態である。それなのに、下から俺の手首を押さえる混沌の王の腕を、押し切ることはできなかった。
「このぉ!」
「やめろぉ!」
それどころか、気を抜くと押し返されてしまいそうだ。
音が聞こえるほどに歯を食いしばる相手の顔が、間近に見える距離。まさに、手を伸ばせば届く距離だ。
混沌の王の荒く熱い息が、俺の顔にかかる。俺が吐く息も、奴の顔に届いているだろう。俺の額から噴き出た汗が、混沌の王の首元あたりに落ちた。
「ぐぎいいぃ!」
「がぁぁぁぁ!!」
俺も混沌の王も目を血走らせながら、全力で押していた。
だが、それだけやっても、俺の短剣は混沌の王には届かない。このまま続けても、体力に勝る混沌の王が、そのうち俺を押しのけるだろう。
しかし、それでいい。
混沌の王はこのままではまずいと感じたのか、自身の支配下にあるモンスターたちを見た。
「モ、モンスターども――」
「トールさん! もういいよ!」
それではもう遅いのだ。
俺が混沌の王ともつれ合っている数秒の内に、ユイとイオリがスペルを詠唱し終えていたのである。
俺は咄嗟に体を横に倒しながら、混沌の王の上からどいた。その直後、少女らのスペルが放たれる。
「アクア・シュート!」
「フェザーショット!」
「ぐあぁぁ!」
俺への対応に集中するあまり、せっかく喚び出したモンスターたちに命令を下すのが遅れたな!
エリオの記憶が、過剰に俺への警戒をもたらしたのかもしれない。
その隙に、俺の仲間はきっちり仕事を終えていた。
ユイは、混沌の王が喚び出したゾンビに対して強化スペルを使用し、無理やりカードをドローしたらしい。何が何でもここで決めると、決意したのだろう。
俺の手で倒せずとも、時間さえ稼げば絶対に仲間がどうにかしてくれると思っていた。
俺が短剣を抜いて駆け出した時には、もうカードを構えていたのだ。
俺が一瞬でも絶望に支配されかかっていた時、彼女たちは諦めていなかった。本当に、自分が情けないぜ。
弾き飛ばされた混沌の王が、立ち上がろうともがく。まだ倒せていなかったか! しかし、奴のライフバリアが残り少ないことは確実なのだ!
「どらあああああああぁぁぁぁ!」
「がっ! これは……」
俺は手に持っていた短剣を振りかぶり、思い切り投げ放った。
重心が偏った短剣は、グルグルと回転しながら混沌の王へと迫る。
これは、俺が奥の手として練習していた技だった。
いや、技なんてたいそうな物じゃないな。ただの投擲だ。
それでも、日々コツコツと練習してきたおかげで、狙った的を外さない程度には上手くなっている。コボルトの狙撃手や虎人の大剣士にお手本を見せてもらい、投げ方も少しずつ工夫を重ねてきたのだ。
威力が高いとは言えない。だが、日々鍛えてきたおかげで、地球にいた時よりは腕力が上がっている。まともに当たれば、ダメージゼロとはいかないだろう。
この世界に来てからの積み重ねが、この一投に詰まっていた。
万全な混沌の王ならば、あっさりと叩き落せる程度の威力かもしれない。だが、ユイたちの攻撃によって、その体勢は大きく崩れてしまっている。
回避はできないだろう。混沌の王は咄嗟に右腕をかざし、直撃を避けていた。
ライフバリアに弾かれて、俺の投げた短剣が飛んでいく。
混沌の王がニヤリと笑った。周囲には、奴の支配する大量のモンスターたち。
俺のバルツビーストや、ユイの天使も、ゾンビ化した状態で唸り声を上げている。
混沌の王が命令を下せば、即座に襲い掛かってくることだろう。
だが、そうなることはなかった。
「なんだ、これは!」
混沌の王の体が光り始める。黒と赤と黄色。三色の光が混沌の王から立ち上り、周囲を強烈に照らしていた。
ライフバリアがゼロになったのだろう。
そして、ゲームが終わる。
モンスターが全て消え去り、俺たちの耳に『勝利しました。おめでとうございます』という無機質な声が聞こえた。
同時に、混沌の王が絶叫を上げ始める。
「ぐがああああああぁぁぁぁ! 何をするっ! 神めぇぇ! 我は不滅だ! たかがこの程度のお遊びに敗北した程度でぇぇぇっ! くそっ! 何がルールだぁ! やめろ! やめろぉぉぉぉぉぉ!」
最後は直接攻撃。作者も、こんな形の決着になるとは思っていませんでした……。
未だに全デッキを実際に組んでドローしているのですが、混沌の王の引きがよすぎましたね。




