表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
278/285

278話 窮地と勇気


 互いにライフバリアを減らした状態で、向かい合う俺たちと混沌の王。


 このままスペルを打ち合って、斬り合う。俺はそう考えていたのだが、ここで混沌の王が賭けに出ていた。


「……これは危険だが……食らうがいい! 邪悪なる痛み分け!」


 ここでそのカードか! 確かに危険だな!


邪悪なる痛み分け 黒3 UC スペル

使用者に1点のダメージを与え、その後対象に1点のダメージを与える。使用者は手札を3枚捨て、カードを3枚引く。その後、対象は手札を3枚捨て、カードを3枚引く。使用者は最も多く所持する魔力を1失う。その後、対象は最も多く所持する魔力を1失う。


 要は、使用者と対象、両者ともにダメージを受け、手札を捨て、魔力を失うというカードだった。


 こうやって追いつめられている場合では、博打的になってしまう。それに、手札の入れ替えが相手の有利に働く可能性もあるのだ。


 実際、それで奴は失敗している。暗愚なる王の勅命によって、俺はデッキの入れ替えを行えたからな。


 混沌の王も、そのことに気づいているだろう。それを承知で使うということは、相当追い詰められている証拠だった。


 ライフバリアが3に減り、手札を選べという、無機質な声が聞こえた。俺は、現状では使うことのできない神なる獣、バルツの森の大牙、バルツの森の号令役の3枚を選ぶ。


 その後、バルツの森の偵察者、風読みの白鷹、バルツの森の見張役をドローしていた。モンスターの召喚禁止でなければ、最高の引きなんだがな。


 その後、最も多い万能魔力が1減り、残り10となる。


 手札の入れ替えも無意味だったので、俺に対する攻撃としては成功だろう。さて、向こうはどうなっているのか――。


 そう考えて混沌の王を見た俺は、背筋に悪寒が走るのを自覚できた。


 混沌の王が、ニヤリと笑っているのだ。奴は、カードゲーマーとしては失格なレベルで、感情を隠すのが下手だ。


 だからこそ、相当な切り札を引き当てたのだと分かった。


「いと昏き冥府の支配者よ! 我が魂を贄として――」


 詠唱を紡ぐ声の、なんと力強いことよ。このままでは危険だ! 俺は手札からスペルを取り出し、混沌の王に続いて詠唱を開始した。


「力強き巨岩よ! 我が敵を打ち、潰せ! ストーン・キャノン!」


 奴のカードは詠唱が長かったらしく、俺のスペルが先に完成していた。


 巨大な岩が撃ち出され、混沌の王を下敷きにする。これで詠唱を途切れさせていれば、カードの使用を邪魔できたはずだ。


 だが、俺の願いも空しく、巨岩の下からは混沌の王の詠唱が漏れ聞こえていた。ライフバリアに守られていても、精神的なショックはあったはずなのに!


 知らないうちに、奴を下に見ていたのかもしれない。白井のような小物だと。だが、相手は世界を滅ぼす化け物、混沌の王なのだ。


 こちらの想定の1つや2つ、超えてくるのは当然のことだった。


 俺の撃ち出した巨岩が消え、その下から地面にめり込む混沌の王の姿が現れる。岩の圧力で、大地に押し付けられていたのだろう。


 その状態で、混沌の王は呪文を完成させていた。


「氾濫せよ! 死よ! 死よ! 死よ! 暴走する墓地!」


暴走する墓地 黒5 R スペル

詠唱

全ての墓地に存在するモンスターカードを−1/−0し、さらに全ての能力を失った状態で、あなたのフィールドに出す。それらのモンスターはアンデッド扱いとなる。ターン終了時、このカードで場に出したカードを全て各墓地に戻す。その後、貴方のライフバリアを1にする。


 ここにきてこのカードか!


 混沌の王だけではなく、俺たちの腰のデッキケースから、バラバラとカードがあふれ出していく。


 俺たちの墓地のカードも、奴の支配下のモンスターとしてフィールドに顕現しようとしているのだ。


 圧倒的な戦力差だろう。俺たちはモンスターを召喚することもできず、生み出される魔獣を倒す術もない。


 ユイとイオリが、蒼白な顔で手札を見つめている。彼女たちも、もうどうしようもないのだろう。


 負け、なのか? 本当に?


 俺の意思に反して、腕から力が抜ける。ダラリと垂れ下がり、力が入らない。体が絶望の想いに負けてしまったのか?


 そして、腰でカチャリと音が鳴った。


 デッキケースではない。視線を落とすと、そこにあったのは一本の短剣だった。エリオを殺した、短剣だ。


 あれから、護身術と一緒に、これの使い方も鍛えてきた。ゼド爺さんに基礎を習い、エミルやワフたちと一緒に毎日振ってきたのだ。


 そうだ。仲間たちと――。


 不思議と、腕に力が戻る。心の内側を黒く塗りつぶす絶望が薄れ、ゼド爺さんやエミル、ワフとの思い出が蘇っていた。


 走馬燈?


 いや、違う。これは、もっと前向きなものだ。だって、こんなにも俺に力を、勇気を与えてくれる。


 俺は腰から短剣を抜き放つと、そのまま前に向かって駆け出していた。奴のスペルによってモンスターが呼び出されているが、まだ全ての顕現が終わったわけではない。


 墓地のモンスターの数が多すぎて、術の完成までに僅かに時間がかかっているのだろう。


 せいぜい、4秒や5秒なのだろうが……。


「うらあああぁぁぁ!」

「近寄るな! 下等種が!」

「下等種の根性、なめるんじゃねぇぇ!」


 スペルの完成まで動くことができない混沌の王は、俺のタックルを無防備に食らうことしかできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やばい カードゲームで主人公側が負けそうになって 相手にダイレクトアタック(物理)とか初めて見るぞ でも世界が滅ぶ瀬戸際だしなぁ・・・ いいのかどうか判断に苦しむ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ