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277話 形勢逆転


 大人しくなったドラゴンを見て悔し気に叫んだ混沌の王は、確認するかのようにドラゴンに命令を下した。


「ドラゴンよ! 何をしている! その女どもを殺せっ!」

「グルルルル……」


 混沌の王の命令にも、ゾンビドラゴンは反応を示さない。完全に、その支配が失われていた。


 それが理解できたのだろう。混沌の王が顔を歪めて唸る。


「そうか……! あの女は、青のカード使いだったな!」


 混沌の王も、イオリが魔獣調教でその支配を奪ったのだと気づいたらしい。


 ゾンビドラゴンはスペルによって特殊な喚び出され方をしているから、コストは0の扱いだからな。魔獣調教で支配可能なのだ。


 俺は混沌の王に背を向けて、ユイたちの元へと走った。混沌の王が慌てて剣で斬り付けてくるが、ウォーターシールドが完全に防いでくれる。


 軽い衝撃さえなかった。その結果に、混沌の王の顔が苦々し気な色に染まる。俺を逃したのが心底気に食わないのだろう。かなりイライラしているのが分かった。


 これは、さらに冷静さを奪うチャンスか? 俺は軽く振り返って、中指を立ててみた。こっちの世界じゃ通用しないだろうが、今の奴であれば意味は分かるだろう。


「待てぇ!」

「待たねぇよ! バーカ!」

「貴様あぁぁ!」


 追ってきたら儲けものだと思って再び挑発してみたが、こんな簡単に引っかかるとは思わなかった。


 いや、さすがに足を止めたか。


 一歩踏み出そうとして、ゾンビドラゴンが目に入ったらしい。その場で立ち止まり、こちらを凄まじい顔で睨んでいる。


「イオリ! 助かった!」

「間に合ってよかったです!」


 イオリが俺の無事を確認し、ゾンビドラゴンに命令を下した。


「さあ、混沌の王を攻撃しなさい!」

「ガアアアアア!」

「ちっ!」


 イオリの命令でゾンビドラゴンが動き出すと、混沌の王がカードを構える。


「炎々と燃ゆる――」


 俺とユイはその詠唱を聞いた直後、手元のカードを即座に使用していた。


「肉体強化の呪印!」

「天使化!」


 俺たちが使用したのは、共にゾンビドラゴンを強化する術だった。


 混沌の王の詠唱は、明らかに赤系の呪文だ。ということは、モンスターのコントロールを奪い返すためではなく、ゾンビドラゴンを攻撃するための呪文だろう。


 そこで思いつくのは赤の攻撃スペルだ。しかし、俺に使わなかったということは、何らかの制限があるに違いない。


 赤の初期デッキには、モンスターだけを対象にできる攻撃呪文があった。しかも、詠唱が必要だったはずだ。混沌の王が詠唱しているのは、その呪文である可能性が高かった。


 ならば、ここで俺たちがゾンビドラゴンを強化することで、倒されることを防げるかもしれない。


 また、俺たちが予想もしていない、モンスターを一撃で葬るような呪文だとしても、ドローするためにカードを使用しておきたかった。


 俺の使用した肉体強化の呪印は、対象を+3/+2するスペル。ユイの天使化は、対象を+1/+1し、飛行を与えるスペルだ。


 結果、今のゾンビドラゴンは6/9飛行持ちという、化け物と化していた。


 体が二回りほど巨大化し、その背には天使の翼が生える。一部が腐敗したゾンビドラゴンから、美しい天使の羽が生える姿は異様であった。


「ガアアアアアアアアアア!」

「灼熱の投げ槍!」


 咆哮を上げるゾンビドラゴンに対して、混沌の王がスペルを発動する。


 やはり、俺たちの予想通りのスペルだったか。コストが4でありながら、対象に5点のダメージを与えることができるカードだ。その代わりに、対象が限定されている。


 ゾンビドラゴンの右腕と胴体の一部が焼け落ちるが、まだ倒されてはいなかった。それどころか、動きが鈍るようなこともほとんどない。痛みを感じない死体の竜が、そのまま元主に襲い掛かる。


「ちぃぃっ!」


 混沌の王が剣を振るうと同時に、ゾンビドラゴンのぶちかましがその体を弾き飛ばした。


 多分、混沌の王の計算では、灼熱の投げ槍の5点と、自身の剣の1点で、ゾンビドラゴンを倒せる予定だったのだろう。


 だが、現実にはゾンビドラゴンは強化され、その計算は覆っている。


「くおぉぉぉぉぉ! なぜ上手くいかない! 下等種どもがぁっ! 無駄に抵抗しやがってぇぇぇぇ!」


 喚き散らすその姿は、本当に激昂しているようにも思えた。しかし、俺たち3人はその姿に違和感を覚える。


「ブラフだと思うか?」

「うん。声だけなら本当に思えるけど……」

「顔が笑ってます」


 やはり、混沌の王は、得たばかりの知識を使いこなせていないようだ。嘘を吐くことを覚えても、上手く演技できていない。


「こうなったら、直接殺してやる!」


 そう叫んだ混沌の王は、ゾンビドラゴンを迂回しながらこちらへ向かってこようとする。ゾンビドラゴンの攻撃を数度食らうものの、諦めない。


 まるで、ゾンビドラゴンを俺たちの近くに移動させたがっているかのようだ。


 俺は新たにドローしたストーンキャノンを構えながら、いつでも使用できるように身構えた。


 すると、ユイが俺に回復カードを使用してくれる。


「助かる」

「あと、今のでこれ引いた!」


 ユイが見せてくれたのは、ゾンビなどを問答無用で破壊する白のスペルであった。


「分かった。じゃあ、ゾンビに攻撃する場合はユイに頼む」

「了解!」


 俺たちが軽く確認し合った直後、混沌の王が叫んだ。すでに、俺たちまで残り10メートルほどの位置である。


「馬鹿がぁ! かかったな! アンデッドコントロール!」


 黒のスペルだ。フィールドか墓地にあるアンデッドカードを1枚、自分の支配下に加えるというカードだ。


 これで、ゾンビドラゴンの支配を奪おうというのだろう。


 だが、その直後であった。


「白の裁き!」

「な、なんだと!」


 ユイが即座にゾンビドラゴンを消滅させる。それを見て、混沌の王が驚愕の表情を浮かべていた。これは演技じゃないだろう。


 白のデッキに、この系統のカードは付き物だ。それを想像できず、自分の妄想通りに事が進むと信じ切っているところが白井っぽかった。


 白井を食らい、知識と力を得たのは間違いないだろう。だが、その性格面まで受け継いでしまったのは、やはりデメリットだったな。


「シャインランス!」

「ちぃぃぃっぃ! ぐぅ! く、くそっ!」


 ユイの放った攻撃スペルが、混沌の王に襲い掛かる。1点の弱いスペルだ。


 それを、混沌の王は大げさなくらい必死に躱そうとして、失敗していた。そして、こちらの攻撃をあえて食らっていた男とは思えないほどに、悔しがっている。それに、その顔には焦りの色もあるように思えた。


 もしかして、ライフバリアが結構ギリギリなのか? 考えてみれば、攻撃力6のゾンビドラゴンが、5回は攻撃を成功させている。


 それだけで30点だ。俺たちの計算以上に、奴のライフバリアは削れているようだった。あの焦りようから考えれば、残り10は下回っていそうだ。


 俺たちは目線を交わし合う。そして、全員がコクリと頷いた。ユイもイオリも、俺と同じことを察したのだろう。


 勝利を掴み取るため、俺たちはカードを構えた。



レビューをいただきました! ありがとうございます!

TCGは面白いですよね! 

作者自身は、パックを空け、少ないカード資産でどう構築するか考えている時が一番楽しいですね。

「あの強カードさえあれば!」と言いつつ、今あるカードで最善のデッキを組み上げる。

それこそがTCGの醍醐味でしょう。

そんな雰囲気を感じていただけているのは、とても嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] TCGも多々買わなければ生き残れない世界ですからねぇwww 戦後の正妻戦争が今から楽しみwww
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