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21話 ボスコボルト

 ゼド爺さんと分かれた俺たちは、コボルトの集落の入り口に移動していた。木や毛皮で作られた粗末なテントのような物が10張ほど見える。


 1つに4匹として、40匹ほどの集落だと思われた。だが、すでにこの森の中で10匹以上は仕留めているし、全てのコボルトが集落にいる訳ではないだろう。


 ゼド爺さんの予測では20匹ほどではないかということだった。ただしボス個体がいる可能性もあるので、侮ることはできないが。


 この場所でコボルトどもを引きつけ、ゼド爺さんが侵入しやすくするのが俺たちの仕事だ。


 現在の戦力はバルツビースト、灰色狼、蔦鼠、殺人蜂である。


「とりあえず奇襲を仕掛けたい。殺人蜂、入り口にいるコボルトをこっちに釣ってこい」

「ブン!」


 見張りの2匹をおびき寄せて瞬殺し、あとは狭い入り口を上手く使えば囲まれることなく戦えるはずだった。


 本当はもっとたくさんのモンスターを召喚して蹂躙したいところだが、エミルを助けるためには時間を掛けてはいられない。今ある戦力で何とかしなければならなかった。


「ガウウ!」

「きたぞ!」


 殺人蜂に誘導されて気を取られている見張りのコボルトを、バルツビーストと灰色狼が瞬殺する。出だしは順調だ。


「バインダーが光ったか?」


 俺は時間をかけずにさっと試練を確認する。


コボルト10体撃破:万能魔力1、ポイント1、カード1枚


 ルーレットもかなり適当に選んでしまったが、この場では仕方ない。何せ集落の中が騒がしくなり始めたのだ。


コボルトの狙撃弓兵

赤3 2/1 UC

アタックの代わりに対象に1点ダメージ


 どうせ今は使えないカードなので、さっさとバインダーに収納した。ともかく魔力が1入手できたのは嬉しいぞ。


「アオオオオ!」


 コボルトの遠吠えが聞こえ、何匹かがテントから飛び出してくるのが見えた。やはり鼻がいいみたいだな。仲間の血の臭いと、俺たちの匂いを感じ取り、襲撃を敏感に察知したのだ。


「ガオオオ!」

「ガウウウ!」


 コボルト数匹をバルツビーストたちの鳴き声によって上手く誘導できた。そして、蔦鼠と殺人蜂の奇襲から、モンスターたちの攻撃であっさりと仕留めてしまう。


 このままコボルトどもが少数ずつ襲ってきてくれれば楽なんだが……。


 ガサガサ!


「ガウ!」

「うわぅ!」


 そう簡単に行かないよな! 背後に回り込まれた!


「灰色狼! ワフを助けろ!」

「ワワワ、ワフも戦いますぞ!」

「いいから逃げろ!」

「ガ、ガオオ!」

 

 やや焦りを含んだバルツビーストの咆哮を聞いて、慌てて前を振り向く。すると、集落の中から10匹近いコボルトが溢れ出てくるところだった。


「くそ! バルツビースト、迎え撃て! 殺人蜂、蔦鼠は俺と一緒に後ろを片づけるぞ!」


 さっき戦った大型コボルトと違って、背後のコボルトたちはまだ小さい。これなら俺や殺人蜂でも倒すことができる。俺の場合は、蔦鼠の援護があれば、だけどね。


 しかし、多勢に無勢だ。バルツビーストはコボルト3匹に同時に襲いかかられて動きを封じられたところを、大型コボルトに仕留められてしまった。


 まずい。出し惜しみしないで先に切り札を切るべきだった!


「ガオオオ!」

「くぅ!」


 俺は棍棒で殴りかかってきたコボルトの攻撃を無視して、カードを構えた。ライフバリアが1減るが、やはり衝撃はほぼない。怖いことに変わりはないけどね! だって顔面に棍棒が振り下ろされるんだぞ!


 俺は悲鳴を上げそうになる自分を無理矢理落ち着かせながら、肉体強化の呪印を灰色狼に使用する。


「アオオオオ!」


 これで灰色狼は5/3だ。コボルトくらいは蹴散らしてくれるだろう。俺の狙い通り、灰色狼は背後に回り込んだコボルトたちを瞬殺すると、そのまま反転して前方の集団に躍りかかった。


 巨大な灰色狼がタックルでコボルト数匹を同時に吹き飛ばし、巨大な牙で大型コボルトを引き裂く。


 これもまた、ゲームとは違う。たとえどれだけ強くとも、ゲーム内ではモンスターは1対1でしか戦えない。5/3だからといって、5体に同時に攻撃はしかけられない。例外はこちらのアタックを、相手が複数のモンスターを使って同時にブロックした場合だろう。その場合、攻撃側がダメージを割り振ることができるのだ。


 だが、今回は灰色狼が攻撃を仕掛けて、密集している敵を同時に蹴散らした。まあ、リアルなんだから当然のことだけどさ。


 混乱するコボルトたちが、強化された灰色狼にあっさりと蹴散らされていった。


「よし、これなら勝て――」

「ガオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 安堵の声を漏らそうとした瞬間だった。


 グチャ!


 突如木の上から降ってきた巨大なコボルトが、その手に持っていたハンマーを灰色狼に叩きつけたのだ。嫌な音とともに、灰色狼の頭部が弾けて赤い花が咲く。


「え……?」


 巨大コボルトが振るったのは、ヘッドが大型電子レンジくらいはありそうな、石と木でできた原始的なハンマーだ。自分たちで作ったのだろうか?


 灰色狼を殺したことでハンマーは砕けてしまったが、素手でも十分に強そうだ。そいつは他のコボルトとは何もかも違っていた。


 背は、大型コボルトに比べても頭一つ分高い。だが、体が大きいだけではなく、その体からは青黒い不気味なオーラが湧き上がっていた。存在感からして、とても普通のコボルトとは思えない。間違いなく、ボス個体だ。


「グルルルル!」


 仲間を殺されて激怒しているのだろう。ボスコボルトの殺気交じりの視線が俺を射抜く。生まれて初めて、これほど激しい殺意を向けられたせいだろうか。自分の口が急速に乾き、背に震えが走るのが分かった。


 ああ、俺は恐怖している。俺を殺そうとしているこの巨大なコボルトに恐れを抱いている。

 

 それでも、俺はなんとか言葉を絞り出した。自分でも口が動いたのが信じられない。


「……つ、蔦鼠!」

「チュー!」


 蔦鼠の尻尾がボスコボルトを捕らえた。


「ガオオォッ!」

「ヂュッ!」


 ボスコボルトは暴れようとするが、蔦鼠の尻尾の方が強い。そこに殺人蜂が高速で降下し、ボスコボルトの腕にその針を突き刺した。よし! 成功だ! これで奴は毒を受けたはずだ!

 

 しかし喜んだのも束の間、俺は間抜けな声を上げてしまっていた。


「ガウゥ!」

「は?」


 馬鹿な! 拘束されたまま、殺人蜂に噛みつきやがった! 腕に針を刺す瞬間を狙われたらしい。そりゃあ、首から上は動くけどさ! くそ! この後はどうする? 俺も攻撃に加わるか? それとも、さっきドローしたばかりのミミックトレントを召喚するか?


「ここは確実にいく!」


 ここでこいつさえ倒せば、俺たちの勝ちだ!


「ミミックトレント召喚!」

「ムアー」


 こいつでさらに奴の動きを封じて、確実に止めを刺す! だが、優位に立ったと思った直後であった。


「ガウウ!」

「ヂュー!」


 ボスコボルトの動きを封じていた蔦鼠が、生き残りのコボルトに倒されてしまったのだ。まだ生きてるやつがいたとは! ボスコボルトに気を取られ過ぎていた!


「ガアアア!」


 蔦鼠による拘束を解かれたボスコボルトが、ミミックトレントに掴みかかる。そして、あっと言う間にその幹をへし折ってしまった。やはり素手でも強い!


「グルル……!」


 ボスコボルトは憎々しげな眼で俺を睨んでいる。モンスターを召喚し、指示を出しているのが俺だと、理解しているようだ。


「ガアッ!」

「うわっ!」


 飛びかかってきたボスコボルトに、咄嗟に槍を突き出す。だが、へっぴり腰のヘロヘロ槍など、あっさりと躱されてしまう。


 そして次の瞬間、俺はボスコボルトに押し倒されていた。格闘技でいうマウントと呼ばれる体勢だ。俺の腹の上に座ったボスコボルトが、恐ろしい咆哮を上げながら拳を大きく振り上げるのが見えた。


「ガオオオオオオオオオオオオ!」

「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 


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