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究極魔王の無茶ブリ。  作者: 大久保ハウキ
11/11

10

シルヴィスさんと国境付近で別れ、あたしと藤村とミヤ様は私邸に戻った。この場から出撃して二日経過しているけど、なんか久し振りに落ち着いた気分ね。一日休んでから、藤村が私邸への奇襲と犠牲者の発表を行い、領民に謝罪した。魔界では前代未聞の出来事よ。その翌日にはアッキーの葬儀を行い、あたしがボロボロ泣いているシーンを、録画中継されちゃった。これも魔界では初の試みだった。元々お葬式という概念が魔物には無いからね。受け入れられないかとも思ったけど、この後暫くお葬式ブームが起きて、家族の死ぬ悲しみを、領民は覚えたんだ。アッキーの死は無駄じゃなかったって思えて、少しは胸の痛みも和らいだよ。

踏み荒らされた庭の片付けをしながら、折れてしまった菫の茎をどうにか戻せないかと、花の事典とにらめっこしていた。これは随分前だけど、藤村が地球に行った時にお土産でくれた本で、もう表紙とかボロボロなんだけど、あたしの宝物のひとつだよ。いっつも魔法やら超能力やらで、ずるっこしているみたいな物だから、花や植物とはそういうのはナシで向きあいたいという、あたしの我儘だね。藤村は暫く自分の部屋で休んでいたけど、窓からあたしの姿を見て、庭に出て来たみたい。

「なあ、諒子。」

「何?」

 振り返らずに生返事してしまったけど、花に向きあっている時はいつもこんな調子らしいよ。

「正式な結婚式って何をするんだ? 魔界には教会も神社も寺も無いぜ? 結婚式場も勿論ねぇし、日本で昔、芸能人の結婚式中継なんてのを見た事があるが、生憎魔界にテレビ局は存在しねぇ。この前特例でやったアッキーの葬儀の録画中継ってのも、俺には理解の域を越えていた。ついでに『仲人』の意味が俺にはわからんし、婚姻届を何処に出せば良いのかもわからん。」

 振り返ると、藤村が本を持っていた。背表紙に『結婚式超辞典』の文字が見える。

「……あたしたちが仲間だと思う人々に手紙を出して、パーティすれば良いんだよ。その人たちの前で永遠の愛を宣言してくれると、あたしは嬉しいけど?」

「……なんて恥ずかしいパーティなんだ……」

 藤村は想像しただけで、固まってしまった。普段は戦闘バカだからね。

 そんな会話をしていると、上空からバイクの爆音が聞こえて来た。見上げると圭介くんが降りて来る所だ。魔界には殆ど道がないから、結局空を飛べるように改造したみたい。刺青ベイベーのプレゼントがすっかり気に入ったようだね。

「八つ裂き丸陛下と奥方様より、至急届けろとの事で推参しました。」

 バイクの後ろに大きな籠を括りつけている。中身はなんとなく想像出来たよ。

「……なんだ、これは……?」

 藤村は意外そうにその中身を確認する。中身はウェディングドレスとタキシードだった。

「寸法は奥方様が直しました。タキシードの背中の穴も、縫い合わせてあります。」

 八つ裂き丸様は堕天使だから、羽があるもんね。だからお姉様との結婚式の時はタキシードの背中に穴をあけて着ていたんだっけ。

「それと、使用後は要返却と聞いておりますので、よろしくお願いします。まだ揚子江様と素子さんの式で使う予定があるとの事です。」

「結婚式ってメンドクセーな……痛っ。」

 あたしは藤村の頭を小突く。前までは顎までしか届かなかったけど、今は届くんだよ。ギリギリだけどね。

「ありがとう圭介くん。こんな急にするとは思わなかったから、地球まで買いに行こうかと思っていたんだよ。」

「そうですか、それは良かったです。では、勝手ながら、八つ裂き丸陛下が仲人役をすると張り切っておりますので、俺は使い走りで、各王やその他知り合いに招待状を届けに行きます。」

 なんて気の早い。アッキーの葬儀から一週間も経っていないのに。そういうツッコミの入る前に、圭介くんは走り去る。

「招待状を出す手間は省けたな。弟子の一人が正式に結婚するってだけで、そんなに嬉しい物なのかね。」

「まあ、シイくんと素子が結婚すれば、親戚になるんだし、御好意と受け止めておきましょ?」

「まあ、お前がそれで良いなら、俺は構わんよ。あ、それからな……。」

 藤村は周りに誰も居ない事を確認し、小声になった。

「この本によると、新婚旅行は『子作り旅行』だと書いてあるが、まだ約束までは3年残っているぞ? 確かにお前は成長して、17歳くらいに見えるが、中身は13歳だぞ?」

 魔界で日本の法律を破った所で、誰が罰する訳でもないんだけどね。藤村はそういう所が紳士であり、真面目なのよ。

「さあ、旅行に行って、気分が盛り上がれば、オッケーなんじゃない? まあ、その時はお手柔らかにお願いしたいかな……何せ初めてだから。」

 言ってから恥ずかしくなって、あたしも庭の周囲を見回した。ミヤ様にでも聞かれると、エロ猫爆発しそうだもん。それにしても、その本。なんて具体例を載せているのよ。

「そうか……前にも言ったかも知れんが、俺はあんまり体の交わりに興味がなく、経験も少ない。旅行に行くまでの間に綾乃にその手のビデオを借りて研究しておかねばならんな。」

 なにを真面目な顔して、エロビデオを見ると宣言しているのよ。まあ、あたしも似たような事は考えていたけどさ。

 そう思いながら、籠からウェディングドレスを出すと、なんかいかにも怪しいタイトルのビデオが数本底に入っていた。

「お姉様……これを見て研究しろと言うおつもり……。藤村、シッポとか触手とか無いわよね?」

「有る訳ねぇだろ? 着目する場所が違うだろうが……まあ、お前がそういうプレイスタイルが好みなら努力するが……あ痛っ!」

 こんな恥ずかしい会話が出来るようになったけど、エロ話はやっぱり苦手かな。女同士ならそんなに恥ずかしくないんだけどさ。お姉様ももう少しソフトなハウトゥビデオを送ってくれれば良いのに。

 などとバカな話をしている間にも、着々と結婚式の準備が、あたしと藤村の知らない所で進み、10日後には全ての準備が出来上がっていた。多分八つ裂き丸様も藤村と同じ本を見たんだろうけど、藤村の領地内に巨大な建造物を建ててしまったの。結婚式専用の館とでも言うのかな? 和洋様々なお目出度い物をくっつけたみたいな、一応外観は教会なんだけどね。どう見てもお葬式には使えない建物よ。

 矢魔と相魔は流石に丁重に欠席の書状を寄越したけど、他の王と副官は全員出席。どうやって取りに行ったのかは不明だけど、ミナ様から祝電まで来ていたよ。地球側の能力者は、揚子江様、シイくん、繭鋳さんが代表して来てくれた。素子はまだ魔界の空気をどうにか出来るレベルじゃないので、不参加だったけど、藤村配下の領民代表やら、結構名の売れているはぐれ魔物やら、かき集めるだけ集めたって感じの人数が祝福してくれた。

 要はお祭り騒ぎね。最近戦ってばかりだった魔界で、こんなお祭りが行われるのは、あたしが魔界に来てから初めてかも知れない。お姉様の結婚式の時は、もう少し静かだったからね。その後に手に入れたと思われる結婚式超事典を、八つ裂き丸様が曲解したのね。

 式は一週間続いたよ。皆お酒も飲んでいないのに、超ハイテンションで、余興だけで三日はしていた気がする。あたしと藤村がキスする度に、やんややんやの大喝采。最後はあたしがウェディングドレスを脱いで、次に使うであろう繭鋳さんに引き継ぎする式典まで行われた。

「あたしの彼を連れて来なくて正解だったわ。」

 ドレスを渡した時、繭鋳さんがそう言って苦笑いした。この中で殆ど無限の体力を持つ人間はシルヴィスさんと揚子江様くらいなものだから、皆疲れちゃったよ。慣れていても困るけど、藤村や八つ裂き丸様まで、慣れない事で疲れた顔をしている。最後は宴脆様が音頭をとって、何故か万歳三唱。やっぱりおかしいよ、結婚式超事典。

 やっと解放されて、私邸に戻った時には、藤村もあたしもぐったり。出迎えたのはミヤ様だった。副官は式場の警備で二人とも山籠りした後みたくボロボロだったしね。

「人間の結婚式は面倒でいかんな。俺はもう独りではない。」

「八つ裂き丸様が張り切り過ぎなのよ。あの本に書いてある事全部盛り込むんだもん。」

 明日からの新婚旅行の準備をしなくちゃならないんだけど、あたしはベッドに倒れ込んだ。一週間振りのあたしのベッドだよ。ミヤ様がうつ伏せのあたしの腰に乗り、マッサージしてくれる。ウェディングドレスも着慣れないから、肩とか腰とかパンパンになっちゃった。ミヤ様は霊体だけど、適度な重さと力加減で、揉みほぐしてくれる。

「ミヤ様、こんなのどこで覚えたの?」

「一週間程暇だったんでな。藤村殿の書棚にある本を眺めていたら、こんな本が紛れていたので、ちょっと拝借して読んだのだよ。早速試す相手が帰って来たので、実践中という訳だ。俺はもう独りではない。」

 なんて便利な猫なの。四本の足と四本のシッポでツボを押して貰い、あたしはかなり疲れがとれたよ。

「まあ、次は新婚旅行に二週間だな。藤村殿の書棚ではつまらんので、綾乃御前殿に手紙を書いておいた、そろそろあのバイク小僧が持って来てくれるだろう。お? 来たようだ。それでは良い旅をな、諒子様。俺はもう独りではない。」

 圭介くんのバイクの音は、部屋に居ても聞こえる。ミヤ様も一人でなくなったのは良いけど、友達作り過ぎかな。情報収集の為でもあるんだろうけど、蝋羽の副官とまで友達になったらしいからね。宴脆様が王の制度を再編する時に、ミヤ様を王に任命しない事を祈るよ。

 翌日からの新婚旅行も、例の結婚式超事典に書いてある事がてんこ盛りだった。出発は成田空港って、情報に偏りがあり過ぎるんじゃない? つまり、ひと月もしない間にまた地球に出て来ちゃったよ。出発が成田なのに、基本は船旅って……何か間違えてないかな?

「八つ裂き丸様とお姉様もこんな事したの?」

「いや、俺が知る限りでは、二人は新婚旅行をしていない筈だ。披露宴は盛大にやったがな。あの時はお前もまだ子供だったから、先に返されたが、俺は10日間付き合ってボロボロだった。任務で城を離れていた圭介が羨ましかったくらいだぜ。」

 それは一年前だからね、あたしは普通の12歳より幼かったから、式と披露宴の最初の方で私邸に戻されたんだった。どうやらその時出来なかった新婚旅行の分を、あたしたちにやらせてくれているんだろうね。

「ま、宴脆様がなにやら企んでおいでのようだから、帰ったらまた忙しいだろう。その時に備えて、今は楽しむとしよう。」

 大型客船のデッキでキスしながら、あたしたちの新婚旅行は二週間続いたよ。まあ、詳しい内容は想像に任せるよ。

 それから三年後、あたしは宴脆様の策で第一階層の魔帝に任命され、5人の王を束ねる立場にされちゃうんだけど、お飾りみたいなものだから、基本的には何も変わらないかな。あたしの隣には藤村が居るし、ミヤ様が護衛してくれている。政治と戦闘は八つ裂き丸様と鉄朗さんが行い、あたしたち以上に盛大な結婚式を挙げた宴脆様と蝋羽は、新婚旅行と称して、第二階層以下の探検に行っている。5人の王の内、2人は何もしていないも同然なのよね。若返った宴脆様が、超の付く格好良さだったのには驚いたけどね。

地球は相変わらず人間同士での無益な戦いが続いているけど、4家とその仲間たちは殆どいつも通りだね。繭鋳さんの所に生まれた男の子が、釧路の神社野家に養子に入ったよ。

シイくんと素子は順調に交際していると手紙を貰ったよ。結婚は日本の法令を順守して、二年後の冬の予定。揚子江様はこの中では最後になりそうかな、彼氏のミノルさんが、まだ現役のプロスポーツ選手で忙しいみたいだから。

あと変わった事は、シルヴィスさんが魔界内に仲間たちと人間の国を作り、鉄朗さんの元から離れたくらいかな。来月にはそのシルヴィスさんの戴冠式と、リンさんとの結婚式が盛大に行われる予定ね。シルヴィスさんは五人の王に含まれないけど、他の王たちと仲良くしているので、問題にはならないかな。まあ、問題と言えば、結婚式超事典の後に、お姉様が入手した、結婚式ウルトラ事典の内容かな。あたしも読んだけど、超事典より具体例が多く、面倒そうなの。式と披露宴の長さもどんどん伸びているから、遂に一カ月越えそうだよ。

 ちなみに、残念ながらあたしはその式には出席出来ないんだよ。お腹の中に『三人目』が育っちゃっていて、丁度その頃生まれそうなんだよね。男の子ばっかりだから、次は女の子が欲しいなぁ。そんな事言うと、女の子ばかり生まれているお姉様の所に申し訳ないんだけどね。

 アッキー、魂になってこの平和な魔界の姿を見てくれている? アッキーが命を懸けて守ってくれたお陰で、今年も中庭の菫が咲いたよ。今は第二階層の犬より、長男の一条がよちよち歩きで踏み荒らす方が脅威だけどさ。こんな平和な悩みを持てるようになったのも、皆アッキーのお陰だよ。心残りは、あなたと一緒にお酒を酌み交わす事が出来なかった事ね。あたしは一生アッキーの事を忘れないよ。だって、あなたは幼くして魔界に落ちたあたしの、母親だったんだから。

                                       了。


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