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究極魔王の無茶ブリ。  作者: 大久保ハウキ
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妹と二人でかくれんぼをしていたの。

あたしは諒子、妹と呼んでいるけど素子とは双子なのね。

あたしの方が先に出て来たからお姉ちゃんなの。

本当はそんな事どうでもいいんだよね、諒子と素子って名前があるんだから、区別は付くじゃん。

うちは昔から神社っていう建物に住んでいる。

お父様もお母様も、JJ様もBB様も皆この神社で生きて来た。

15歳になったらあたしも妹も巫女になるんだよ。

それはこの神社の裏山にずっと昔からトンネルがあるからなんだって、死んだBB様が言っていたから覚えてる。

洞窟っていうの。

神社の屋根が見えるくらい高い所にあるけど、あたしも妹も慣れっこだから、いつもこの場所で遊んでいるんだ。

今は妹が鬼なの。

あたしは隠れる。

昨日妹と掘った穴が裏山にはあるんだ。

あたしは其処に一度足を踏み入れ、周囲に生えている草をむしって体全部が隠れるくらいの量を穴に放り込む。

此処に隠れているように見せる為だよ。

妹もあたしも普通じゃないから、かくれんぼの時はこれくらいしないと、面白くないもん。

さて、本当に隠れる場所を探さなきゃ。

妹の数える声が300を超えたから急がなきゃならないの。

あたしたち二人のかくれんぼは、鬼がゆっくり500数えるんだよ。

近くに斜めに生えている杉があるから、そこに登る。

靴に着いた土が木の幹に付いてしまった、これではすぐに見つかる。

ここも隠れ場所としてはベストじゃないや。

掴んだ枝が折れた。

ここに登ったフリをするには、この枝をわざと下に落としておくのが良いね。

杉の木の天辺まで登ると、近くに他の木の枝があるので飛び移る。

忍者みたいでしょ。

いくつかの木を渡ってから下に降りる。腰のベルトを抜いて枝に引っ掛け、ちょっとした罠作り。触れると枝がびよーんってなる奴ね。引っ掛かったら痛いよぉ。ま、妹はそんなの慣れているから、引っ掛からないと思うけどね。

数える声が450を超えた。急がなくちゃ。

早足だけど足跡を残さないで裏山を歩くのって意外と難しい。2年くらい前に神社に遊びに来たお父様の同業者の子供は凄かったんだよ。名前を聞き忘れたけど、確かシイちゃんって呼ばれてた男の子だよ。あの子は本当に足跡も気配も消せるんだ。あれからあたしも妹もその真似をしてかくれんぼをするようになったんだ。学校でもやって見たんだけど、あたしと妹以外はからっきしなの。やっぱりこんな山奥の学校じゃダメだね。きっとシイちゃんは忍者学校に通っているんだよ。今時そんなのあるとも思えないけど、それくらいシイちゃんは凄いんだよ。

──僕も母さん程じゃないんだ、修行不足なんだって──

そんな事も言っていたっけ。

その母親がお父様の同業者の中でも一番の人って聞いたから、その息子も凄いんだなぁってあたしは感心したんだよ。子供なのに妙に格好良かったなぁ。まあ、それ以外は乗り物酔いしたとかで、ずっとその母親の背中の上で具合悪そうだったんで、プラマイゼロってあたしは思ったよ。

そんな事を考えながら、あたしは御神木様の所に入っていた。

蝉が鳴いていて五月蠅いなぁ。とか思っていたら、突然周りの音が消えたの。目は開いているのに何も見えなくて、見えていたのは黒い世界だけ。足元がグニャグニャになって、まるで落とし穴に落ちたみたいに体が下に引き寄せられるの。落とし穴に落ちた事はないんだけどね。

──もういいか~い?──

素子の声を聞いたような気がしたけど、あたしは返事が出来なかった。

どんどん落ちて行く感覚の中で、あたしは思ったんだ。

──ああ、これって神隠しだね──

あたしが落ち着いてそう思えた理由は、この神社で生まれたから。

神社に伝わる言い伝えを知っていたから。

お父様の裏の職業を知っていたから。

それは──

そんな事を言ってる場合じゃなかった。

トンネルの出口が空だとは聞いてなかったよ。

日本に住む四つの大きな家、それは4家と呼ばれていて、あたしの家はそのひとつ。

その4家の人間でも、実際に異世界に行った事のある人は一人だけ。その人は札幌に住んでいるんだって、さっきのシイちゃんのお母さんだよ。

あたしは生憎その人に直接話を聞いた事がなかったの。シイちゃんはあたしたちと遊んでくれたけど、その母親はお父様に用事があったみたいだったから、遊んでくれなかったんだ。だから、トンネルの出口が異世界の空だとは思わなかった。

ついでに言うと、この世界の空気が重い。鼻から柔らかい粘土を詰められたみたいに痛い。勿論鼻に粘土を詰められた事なんてないよ。ゼリーみたいな感じ。

あたしの家が普通じゃない事はなんとなく解るけど、空に浮く術をあたしは知らない。お父様やお母様は出来るみたいだけどね。

落下速度が上がる。重力は地球と同じか、それ以上に感じるかな。

確か結界の張り方をお母様に習ったんだけど、防御結界はこうして、こうして指をこうやって組み合わせて……間に合わないよ。それでも、見た事の無い木の枝に当たる寸前に印を結んで、結界を張れた。球状の結界は木の枝にぶつかりながら、地面ギリギリまで持ってくれた。

着地とは言い難いけど、なんとか生きている。

でも、体が動かせない。やっぱり重力がキツイのかな。息も微妙にしか吸ったり吐いたり出来ない。このままではあたしの人生、たったの7年で終了になっちゃうよ。

なんとか腕を動かそうと試みる。指で印を結んで、結界を張り、この空気と重力がなんとか出来れば、落ちて来た穴まで戻れる筈なんだけど、あたしは地面にうつ伏せに倒れたまま、指一本動かせなかった。

──こりゃ、死んだかな──

「おい……」

見上げる事は出来ないけど、あたしの視界に男の人の足が見える。なんとか目玉だけ動かして上を見る。大人の男の人、オジサンがそこに立っている。カッコイイ。でも、初対面の女に掛ける言葉としては最低ね。こっちは死に掛けているのに、なんて無意味な音なの。大体こっちは異世界の空気の重さで潰れそうなのに、このオジサンはどうして平気なのよ。

「俺は確かにお前から見ればオッサンだろうが、お前こそ初対面のオッサンに、カッコイイは結構な言葉で有難いが、その考え方は不味いだろ?」

どうしてあたしの考えがわかるの。あたしは何も喋っていない。

「俺がこうしてわざわざ日本語で喋っているんだから、理解出来ても良さそうだが?」

地球という異世界を知る者、こちらから見た異世界の王。

「ご名答。俺は藤村藤村。お前は?」

神埼諒子。

「神埼? 日本人だな……普通に考えるとあのトンネルを生身で通れるのは地球には一人か二人しか居ない筈なんだが……」

異世界に続くトンネルの話はBB様から聞いて知っている。でも、対応策は知らなかった。

「そのBB様ってのはなんだ?」

婆様の略、爺様はJJ様。

「それは面白い表現だな」

それはどうでも良いでしょ。藤村さんはあたしを助ける気はないのかな。

「今……助ける理由を考えているんだよ。異世界の事をほんの少し知っている人間なら結構数が居て珍しくもねぇ。特筆すべき点はお前が空から落ちて生きている事か……更に言うなら、気体成分の違うこの世界でお前は一応息が出来ているって事だな」

 死にかけている人間を助けるのに理由が要るの。

「そりゃあそうだろ? お前から見て俺は人間に見えるかも知れねぇが、俺は異世界人だぜ? お前を助けるにはそれなりの理由が要るよ」

 あたしに惚れたってのはどうかしら。

「……本気か? お前いくつだよ?」

今年で7歳よ。

「……論外じゃねぇのか? お前が日本人だとすると、結婚出来る年齢は16じゃなかったか? 確かにお前の魂は良い色合いをしているようだが……」

そうね。結婚出来る年齢は16歳だと聞いた事がある。でも、7歳の女の子が恋愛してはいけないという法律もないと思う。それに此処は異世界でしょ? 日本の法律を持ち出す意味ないんじゃない? それにしても、魂の色まで見えるんだね。不思議な人……

あたしはこれで気を失ったみたい。藤村さんは何か言っていたけど、もう聞こえなかった。

「……お前から見れば、俺は忌み嫌われる悪魔の一人で、魔王なんだが……」

気が付くとベッドに寝かされていた。かくれんぼで木登りの最中に足でも滑らせて落ちたのかと思ったんだけど、そうじゃないみたい。部屋が畳敷きじゃないし、こんなふかふかな布団はウチには無いもん。と言うか、目を開けて最初に目に入ったのは素子でもJJ様でもお父様お母様でもなく、藤村さんだった。

「助ける理由が見つかったの?」

声が出せた。

「ああ、お前の魂の色と形。それから内に秘めた開花前の能力。ついでに神埼という聞き覚えのある苗字が助けた理由だ。お前にこの世界の知識を吹き込んだBB様ってのは、神埼特異四郎の母親、神埼マサツだろ?」

「お父様とBB様の名前を知っているんだ?」

「まあ、知らなくても助けたんだがな」

「? どうして?」

「……お前に言われて、お前の顔を良く見たら、俺の好みの顔立ちだった。他の王たちに変人扱いされたが、俺はお前を妻にしたいと思っている」

「それはまた、急な出来事ね。目を覚ました途端にプロポーズ? あなたも言ったけど、あたしはまだ7歳になる手前だよ? 青田買いにも程があるんじゃない?」

「青田買い? お前は難しい日本語を知っているんだな。ちょっと待ってくれ……」

 藤村さんは、そう言って日本語の辞書を捲り始めた。いくらトンネルで繋がっていると言っても、まったく異なる世界の辞書まで入手しているのは、意外以外に言葉が思い付かないよ。

 これが、あたしと藤村の出会いだった。その1年後、今から5年前の8歳になる年に、あたしは目出度く藤村と形だけの結婚を許されたの。藤村は魔王だけど、王様には代わりない訳で、色々大変だったの。でも、あたしが18歳になったら本当の夫婦になるという約束で、他の王を無理矢理納得させたのよ。

 そして、その魔王の一人、究極魔王宴脆様はあたしの夫になる予定の王、藤村藤村の上司。見た目は仙人にしか見えないお爺ちゃんなんだけど、藤村より長く生きていて、更にその魔力を凌ぐ魔物はこの世界に居ない。

 このお爺ちゃんの言う事が絶対なのは知っている。7歳のあたしと婚約する為に藤村はかなり長期間この人の元に通って許しを得ようとしていたからね。


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