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MY song

五ツ星。

作者: caem



 合図を出す。

 目配せをするリーダー。

 ゆっくりと、だが慎重に。


 メンバーは氷上に位置する基点へと誘導するのである。

 激しく研かれ流れる球。

 モップにより導かれ、やがて中心へと辿り着いた。


 感極まる観衆は互いに手を取り合い、大歓声が沸き起こる。


 冬の祭典。

 冬季オリンピック。


 テレビを眺める者達も含め、皆は一様にして自国の勝利を褒め称えていた。

 (うつむ)く多国の嘆き声は無視されようとも、燦然たる輝きが表彰台に登る。


 ことの始まりはチームプレーの競技だった。


 いわゆる、氷上のビリヤードかゲートボールを彷彿させる。

 忙しなく擦り、中心点へと。

 放り出された球を集めて高得点を競う種目。カーリングである。


 普段ならば何となく眺め笑いに委せた番組ーードラマやバラエティ。

 またはアニメなどに費やしているであろう。


 だが思わず捻ったチャンネル(モニター)に釘付けになってしまうのであった。


 何故ならば、そこには「人生」が刻まれていたのだから。


 娯楽とは、斯くも心を奪うモノである。


 手にしたリモコンを操り、他局へと移らせる。

 目の当たりにしたのは鮮烈な光景だった。


「ダブルトリプル!」


「トゥエルブシックス!!  フォーティーン、フォーティ!!」


 …… 4回転。180度。


 華麗に宙を何度も舞い、繰り出されるは激しい回転数。

 それは最早自殺行為に等しい。

 実際、怪我は日常茶飯事なのだ。


 たった一枚の板に信頼を寄せる。

 あまりにも馬鹿馬鹿しい。

 しかしそこに全てを置いているのだ。


 放たれた矢先、ビルの四階にも匹敵すべき高さへと身を委ね。

 だが美しい放物線を描くのであった。


 結果、着地も軽やかに爽やかに歯茎から喜びが漏れる。

 騒々しい観客も息を潜め、デジタルな掲示板へと目を運び祈りを込める。


「結果が出ました!!」


 赤い字が点灯し、それは勝利を確信させていた。


「よっしゃ……!!」


 決して口には出さない。

 今までの苦労は、努力は実り、涙を流しながらのガッツポーズ。 

 若いながらも、それでも苦労に苦労を重ねてきたのだ。

 報われて当然であろう。


 しかし、つぎの相手は更なる絶技を繰り出したのであった。


 華麗なる、洗練された技の数々が宙に舞い、それは遥かに上回っていた。


 絶対なる王者の貫禄。

 かつて恋い焦がれ追い続けた背中。

 あまりにも目映(まばゆ)く、開いた口をそのままにしてしまう。


 突き付けられた現実。

 相変わらずの地位。

 幾年経とうとも変わらずの現状。


 万年二位という悔しさ。


 しかしながら、己を押し殺し相手を褒め称えるべく抱き締める。

 バレていないとは、思う。


 割れんばかりに奥歯を噛み締めていたことをーー。


 四年に一度の大会。

 そこには祭り(・・)などはない。

 全てが闘い(・・)なのである。





「今度こそは…………!!」


 内に秘めた闘志は迸り、メラメラと燃えたぎる。

 己の限界を超えよ、と ───



日本に!

金メダルを!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 冷徹な現実に触れつつも、熱いですね。 とにかく熱い。 欲を言えば金メダル欲しいですが、とにかくメダルとってほしいです。
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