孝明は薄く笑んだだけで、何も答えなかった。
小さな子どもと華奢で見目良い青年、それと体躯の良い男と荷物の少ない馬と見て、男はそう断じたらしい。ここまでの道中でも、そう言われることが多く説明もしやすいので、否定も肯定もせずにそう思わせておくことにしていた。違うのだと言っても説明のしようが無かった。宗平は孝明が汀の出身村の困窮を救うため、領主の元へと向かっていることは知っていたが、具体的にどうするのかを――彼の素性も含めて――知らなかったし、孝明もそれを語ろうとはしなかった。ただ、汀が孝明を法師だと言い、宗平は教えを受けている汀が水を生き物のように操ったところを見たことがある上に、名もそれらしい感じであるので領主の周辺に居る誰かとつながりがあり、その伝手を使ってなにがしかをするのだろうと踏んでいた。
「兄さんなら、白拍子にも負けないような舞を見せてくれるんだろうねぇ」
ひょいと身を乗り出すように、男が宗平の影に隠れている孝明に話しかける。孝明は薄く笑んだだけで、何も答えなかった。
「中央の街中で踊っていたら、領主様に声を掛けられてお座敷に、なんてことを狙ってるんじゃねぇのかい」
「舞ならば、おれよりもその男の方が得手だ――おれは、調子を取るだけのおまけのようなものでしかない」
「おい、孝明」
「へえっ。こっちの兄さんが舞手かい。人は見かけによらねぇなぁ…………。ああ、でも綺麗な顔をしているし、なるほどなるほど」
納得をしてしまったらしい男に苦笑いを浮かべる宗平が、ちらりと孝明に文句の目を向ける。孝明は、目に笑みを浮かべてはいるものの静かな顔でそれを受け流した。
「体躯は猛者のそれだが、なかなか繊細な舞をする。一度目にすれば、その優美さの虜になることは、請け合いだ」
「そりゃあ、是非に見せてもらいてぇもんだねぇ」
期待と愛想を織り交ぜた男に、宗平はただ笑うしかなかった。
そうして、なんとはなしに共に進むことになった行商人は、名を又七と言い、荷は里で編んだ飾り紐なのだと答えた。




