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鳴き響む  作者: 水戸けい
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「処世術として、必要なことだと教わらなかったのか」

 宗平が目覚めた時には、長親の姿は部屋に無かった。

 鼻で深く息を吸い、吐き出した宗平は首を回して宿の者に井戸を使わせてくれと頼み、体を拭う。そのついでに厩を覗き、焔に朝の挨拶をかけて撫でてから、また部屋に戻った。空は、昨日と変わらぬ晴天で旅日和であった。

「孝明、出立は何時にする」

 部屋の襖を開ければ、汀が眠い目を擦りながら着替えを終える所だった。狭い部屋を見回しても、孝明の姿は見当たらない。疑問を浮かべた宗平に、隣の部屋の襖が開いて長親が顔を覗かせた。

「出立は、朝餉を終えてからだ。宗平」

 目を丸くする宗平に、親しげな顔で近づき肩に手を乗せ顔を寄せる。

「昨夜の女――気に入れば別の部屋に連れて行っても良かったものを」

 ばふんと音が聞こえそうなほどに、瞬時に顔に熱を浮かべた宗平に喉の奥で笑う長親の後から、渋面の孝明が現れる。

「ああ、孝明」

 安堵と助けを求めるように宗平が呼べば、目を上げた孝明は呆れたような調子で口を開いた。

「武家の三男坊ならば、あのくらいあしらえて当然だろう」

「なっ――仕方が無いだろう。苦手だったんで、ああいう宴席には、なるべく顔を出さなかったんだ」

「処世術として、必要なことだと教わらなかったのか」

「言われたけどよォ、苦手なモンは仕方ねぇだろう」

 その返答を受け止めた孝明が、それをそのまま長親に向けるように顔を動かす。長親が頷くのに、宗平は疑問を浮かべて二人を見比べた。

「宗平……武家ならば名字があるだろう。何と言う」

 きゅ、と眉間にしわを寄せて唇を強く結んだ宗平の目が、鋭くなった。

「言いたくないか」

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