「申し訳ないが……子どもをおれに与えてくれ」
「おれ一人では、心もとない。おれの供となり、領主のもとへ共に行ってはくれないか」
少年は、くるりとした大きな目を瞬かせ、ほほ笑む男の目の中を覗き込むように見つめると、きりりと眉をひきしめて力強く頷いた。
「いく!」
「そうか――助かる」
男は軽く子どもの頭に手を置いて、目を糸のように細めて歯を見せた。そうして立ち上がり、子の母親に申し訳なさそうに眉を下げて腰を曲げ、きっちりと頭を下げる。
「申し訳ないが……子どもをおれに与えてくれ」
母親は、男を見つめたまま子どもを抱きしめた。硬い顔をして、頭を下げる男のボサボサの髪を見つめる目には、惑いと不安があった。おそらく、子どもを売って銭に買え、何かをするのだろうと、その目は判じていた。そうでもしなければ、領主に言う品を用意することなど出来ないと、村の誰もが思っていた。目の前の男は、人買いの真似事をするのだと、自分の子どもを高値で売れると値踏みしたのだと、考えた。そんな母を見上げた子どもは、安心させるように抱きしめてくる母の手を叩き、首をかしげて笑った。
「大丈夫だよ、かかさま」
その笑みに張りつめていたものが途切れたように、母親は膝をついて子どもを見つめ、村の為になるように言う事を聞いて良い子にするようにと、涙をこらえた硬い声で言った。
「ありがとう」
男が母親の肩に触れてつぶやけば、母親は声を上げて泣きはじめた。子どもは仕方が無いなぁとつぶやいて、母親の頭を小さな手で抱きしめ撫でて、大丈夫だよと繰り返す。そんな彼らを見守る村人らが、男に何か自分たちが準備のできるものはないかと声をかけた。
村人たちは、男の姿に全てをかける覚悟を決めた。不思議な男が放つ妙な安堵感に、誰もが酔いの中に居るように、ふわりとした心地で根拠のない確信を浮かべていた。子どもの母親も下唇を噛み、子どもを送り出す準備として何が必要だろうかと男に問うた。男は、申し訳ないが旅の間の携帯食料と馬を一頭もらえないかと申し出た。後は、自分が全てを用意するからと。




