「からかうのは、そのくらいにしておけ」
そこで言葉を切った宗平は、わざわざ焔の足を止めさせ汀の顔を真剣に覗き込む。つられて本当に落ちてしまいそうなほど、焔の背から身を乗り出した汀の鼻先と自分の鼻先が付くほど近くなってから、宗平は大きな声を出した。
「アンタもその中に、入るんだよぉおお!」
「っ、あぁあああああっ!」
一瞬、息をのんだ汀が叫び声をあげ、焔が耳を震わせて前足を浮き上がらせる。身を乗り出していた汀は、棹立ちになった焔の背から滑り落ち、宗平の腕に抱き止められた。
「うわぁあああああっ!」
抱き止めた汀に顔を寄せて宗平が叫べば、驚いた汀も叫び声を上げる。
「あぁあぁああああっ!」
二人の叫び声を聞きながら、興奮した焔をなだめる孝明が呆れた目を面白そうに少し細めた。
「からかうのは、そのくらいにしておけ」
ぺろりと舌を出した宗平が、ぽんとひとつ汀の背を叩いて地面に下す。それで我を取り戻した汀が、口も目も大きく開いたまま宗平と孝明を交互に見つめた。
「からかわれたんだ」
丸い声で孝明に言われ、確認するように宗平を見れば鼻先を掻きながら誤魔化すような笑みを向けられた。汀は頬を膨らませ、宗平の脛を蹴り上げた。
「っ、いてぇ」
ぷいっと顔をそむけて道をずんずん進んでいく汀の背を見ながら、孝明と宗平、気を落ち着けた焔は止めていた歩みを再開する。
「あんなに、素直に騙されるとはなぁ」
「純粋なんだろう」
「某があのくらいの頃は、そうでもなかったように思うがな」
「宗平は、昔からひねくれていたということか」
「そういう言い方は、無いだろう。まるで、某の性格が悪いと言われているようだ」




