「物の怪の宿とは、どんな所だ」
両腕をさすりながら、未だに恐ろしい気配を肌身に纏わせるふりをする宗平の目は、いたずらに光っている。それを見取った孝明が、口の端を薄く持ち上げた。
「物の怪の宿とは、どんな所だ」
ぶるり、と口にするのも恐ろしいとばかりに大げさに震えてみせた宗平に、すっかり引き込まれてしまったらしい汀が、さらに身を乗り出した。
「見た目は、普通の民家なんだ」
声を潜め焔の肌に肩をつけて、汀の鼻先に顔を寄せ周囲に目を配りながら、宗平が話しはじめる。
「ある峠を越えた先に、小さな家がぽつんと建っていてな、婆さんが一人、住んでいたんだよ。日も暮れかかって来たし、腹も減っていたんでな、ちょっと世話になれないかと声を掛けたら、息子を亡くして寂しいから、遠慮をせずに一晩泊まって行ってくれって言うんだよ。野宿をしなくていいってぇのは助かると思って、ありがたく泊まらせてもらうことにしたんだ。…………温かい汁もごちそうになって、ほっと心地よくなってな、風呂までわかしてくれて、息子が帰ってきたようだって婆さん喜んでくれてよぉ。おれも、悪い気はしねぇから世話を焼かれて、寝床に入ったんだよ」
語尾で、さらに声を落とした宗平に、焔から落ちてしまいそうなほど身を乗り出した汀が、ごくりと喉を鳴らして話の先を待ち構える。
「夜中にな……シャッシャッて音が聞こえて、目が覚めたんだ。薄目を開けてみれば、土間で婆さんが庖丁を研いでいるのが分かった。なんで、こんな時分にって不思議に思ってな、寝たふりをして様子を見ていたんだよ。そうしたら、婆さんがブツブツ言っているのが聞こえて来てな」
おどろおどろしい顔と声を作った宗平が、まっすぐに汀を見た。
「久方ぶりの、若い男の肉が食えるって……聞こえたんだよ」
「肉――?」
「そうだ、肉だ。どういうことかと思ってな、俺は今起きましたって演技をして、立ち上がって、ちょっくら用足しに行ってくらぁって立ったんだよ。荷物を持っていけば、怪しまれるだろうから、手には何も持たずに、外に出た。そんで、厠に行くふりをして家の周りに何か、怪しいものはないかと探っていたら厠の横に妙な樽が置いてあった。――――すげぇ妖しい雰囲気が、その樽から漂ってきていてな、そっと開けてみようかと手を伸ばしたら、いつの間にか背後に立ってた婆さんが声をかけてきたんだよ」




