鈴を転がしたような澄んだ音だった。
「めぼしい娘は、みぃんな送り出しちまった。残っている女が醜いってぇワケじゃあ無いが、領主様が求めるほどの美女でもねぇ。――――代わりに用意するふさわしいものって言われたって、はいわかりましたと差し出せるようなモンが、すぐに手に入るわけじゃあねぇ。ここいらの村の米や銭をかき集めてやっと、買えるか買えないかっちゅう代物だ。…………おれらに、領主様は飢えて死ねと言うてるようなもんだよなぁ」
力なく笑う村人の顔を見つめる男の目に、みるみる力強い光が宿り、体の内側から膨れ上がるほどの怒りがみなぎった。
男の体がふくらみ髪が逆立ったように見えて、村の人々と伍作は目を見張り口を開けて言葉を無くした。
「それは、いつだ」
男の唇が開き、音が発せられた。それは、鈴を転がしたような澄んだ音だった。男が喋ることなど出来ないと思い込んでいた村の者たちは、どのような悪戯を子どもに仕掛けられても柔和さを崩さなかった男の怒気と声を発したことに、二重の驚きを示して金縛りにあったように動けなくなった。そこで、男の事をよく知らぬ伍作が、村人らの驚きを不思議に思いつつ返事をした。
「三月の後に、大名様が領主様の所へござらっしゃるってぇんで、その時までに用意をしろって話だ」
「三月か」
「三月っつったって、おめぇ……領主様んとこへ行くのに馬で駆けても十日はかかる。歩いていきゃあ、天気が崩れることを考えれば大急ぎで駆け続けても一月はかかることになる。実際に用意が出来るのは、二月ばかしの猶予しかねぇよ」
飢えて死ぬしかねぇと、怒りと怯えをないまぜにして震える伍作の肩に、男が手を置きにっこりとした。
「大丈夫だ――それだけあれば、なんとでもしてみせよう」
言った男は周囲を見回し、心配そうに親の横についている少年の上で目を止めた。ゆっくりと近づき、自分の胸ほどの高さの子どもに膝を折って目の高さを合わせ、頼みがあるんだと声をかけた。




