「そういう趣味に、見えるか」
翌朝は、窓から差し込む光のまぶしさで目が覚めた。瞼の裏が赤く染まり、早く起きろと言ってくる。伸びをした孝明は、まだ眠っている汀の薄く空いた唇から、心地よさそうな息が出ては入るのに目を細め、その隣に居るはずの宗平の姿が無いことに目を閉じた。
ふうっと息を吐いてから目を開けなおして起き上がり、窓を開け、襖を開けて通りがかった宿の者に声をかける。
「川の水は、どのような具合だ」
雨が止んだとしても、水かさが多いままでは舟は出ない。問うた孝明に、宿の者は首だけで頷いた。
「舟は、一刻ほど前から走っております。お早い方は、もうすでに出立なされていますよ」
「そうか――。この部屋に居た男は、もう出立をしているのか」
「ああ――あのお侍さまでしたら、井戸端で体を拭っておいでですよ」
にこりとした宿の者に、朝餉と出立の時刻はどうするのかと問われ、部屋に三人分を運んでくれと頼み、出立は食後に腹が落ち着いてからにすると告げた。そうして少しの銭を握らせると、眠る汀を確認し、孝明は宗平の居る井戸端へと向かった。
もろ肌脱ぎとなり、手ぬぐいで乱暴に体を拭いている宗平の体躯は、みっしりとした無駄の無い筋肉に包まれた見事なもので、孝明は感心したような息を漏らした。孝明が物陰から眺めているのを見止めた宗平が、歯を見せて笑う。
「なんだ。そんなところから、男の肌を盗み見て楽しいか」
「そういう趣味に、見えるか」
「人は、見かけだけでは判断が難しいんでな」
ゆったりと近づいてくる孝明に、からかう目を向けた宗平は手ぬぐいを肩にかけて袖を通した。
「昨日は、つまらぬことを聞かせてしまったな」
「いや、なかなかに興味深い話だった。――急がないのなら、朝餉をごちそうさせてはくれないか。汀も、喜ぶ」
「そうか――断る理由は、某にはかけらもござらぬなぁ」




