溜まった雨粒が落ちるように、宗平は心根を漏らす。
「このまま、旅を続けるつもりなのか」
「――そうだなぁ。帰る場所がある旅は、そういう場所を持たない者からすれば物見遊山のように思えるほどに、うらやましいのだろうな」
どこか遠くに置き去りにされたような宗平の様子に、孝明はあるかなしかの笑みを浮かべて、沈黙を作った。部屋の中には酒の残り香と汀の寝息だけが漂い、外界は雨で遮断され、宿内の人の声や足音なども静まっていた。
どれほどの間、雨音に耳を傾けていたのか。思い出したように、宗平が口を開く。
「法師なら、迷いの言葉を聞いてくれるか」
眠る汀を見たままの宗平の言葉に、孝明は黙して返答とした。
「あそこは、本当におれの帰る場所なのだろうか」
ぽつり、と溜まった雨粒が落ちるように、宗平は心根を漏らす。それは、孝明に聞いてもらうためでは無く、自分の心根をそのまま音にしたものだった。
「おれは、あそこに居場所があったのだろうか」
静かに、汀の体が呼吸に合わせてゆったりと上下している。
「妾腹の子として、けれど阿久津家の三男坊として生まれたおれは、どちらでもあり、どちらでもないままだ」
雨音が、規則正しく響いてくる。
「おれは、どちらに行けば良いのか――」
悩ましい息を漏らし、宗平が口をつぐむ。酒の香りも落ち着いて、部屋はひんやりとした雨音に包まれた。
銚子はすでに空になり、次を頼む気にはなれないくらい、酔いは冷めていた。
「つまらん話を、してしまったな」
湿度のある空気を追い払うように、少し声音を上げた宗平が汀を抱き上げる。無言で立った孝明が布団を敷き、そっと宗平が汀を下す。そうしてそれぞれが汀を挟んで並び寝て、雨音に耳を傾けながら静々と夢の世界へと歩を進めた。




